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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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敗北と代償

 ゼロが倒れる様を見てレナは足を止めそうになるが、それをバンシーに咎められる。


「魔導師様、決して止まらずに」

「でもっ!」

「主様のことは顧みずに!魔導師様なら主様の考えが分かるはずです」


 レナの脳裏にゼロの信念が思い浮かぶ。

『自らに課せられた責務を果たす』

 ゼロと巡り会った時からゼロはいかなる時でも、どんな手段を使ってでも、自分自身の役割を全うしようとしていた。

 だからこそゼロはドラゴン・ゾンビとの戦いに挑み、自らの身の危険も顧みずにレナ達を逃がすために踏みとどまったのだ。

 そして、今レナ達がすべきは助け出した少女を母親の元に返すこと、そして避難中の人々を安全な場所まで護衛することだ。


「行きましょう!」


 レナは前を向いてもう振り返ることはなかった。


 ドラゴン・ゾンビの吐いた毒気とそれに吹き上げられた激しい礫はゼロの周囲に張られたスペクターの障壁を容易く貫いてゼロを襲った。

 頭部に受けた激しい衝撃と毒気にゼロは意識を失う。

 意識が遠のき、倒れゆく中でゼロは振り返るレナの姿を見た。


「・・・行きなさい、貴女達が為すべきことを全うしなさい・・・」


 ゼロが最後に見たのはバンシー達に守られて走り去るレナ達の後ろ姿だった。


 レナ達は丘を駆け下り、無人の町を駆け抜けた。

 助けた少女は先頭を走るレオンの腕の中、レオンに続いてレナとアイリアが走り、その周囲をバンシーとスペクターが守る。

 体力の続く限り走り続け、町から離れた場所で足を止めたとき、彼等を守っていたバンシーとスペクターは姿を消していた。


「あのアンデッド、いつの間にか居なくなりましたね」


 少女を抱えたままのレオンが周囲を見渡した。


「ゼロの下に戻ったのでしょう」


 レナも呼吸を整える。


「バンシー達が居なくなったということは当面の危険は脱したのでしょう。でも、まだ安全とはいえません、先を急ぎましょう」


 レナ達は南に向かって歩き出した。


 ゼロが倒れた戦場ではドラゴン・ゾンビに対するアンデッド達の攻撃が熾烈を極めていた。

 ゼロの意識がなくなったことにより下位のアンデッド達は顕現化を維持できずに姿を消しており、残ったのはある程度の自我を持つ中位以上のアンデッドだけ。

 なまじ自我があるためにゼロが倒れるのを目の当たりにした彼等はその力の全てをドラゴン・ゾンビに向けたのだ。

 オメガがバスターソードを振るい、ジャック・オー・ランタンが激しい火炎を浴びせる。

 スペクターが注意を逸らす中でスケルトンナイトが肉薄して打撃を与える。

 相変わらず攻撃によるドラゴン・ゾンビへのダメージは皆無だが、彼等には関係のないことだった。

 ただ無感情にひたすら攻撃を加え続けるだけ。

 倒れたゼロはスケルトンウォリアーが戦場から引き離す。

 その間に舞い戻ってきたバンシーとスペクターだが、ゼロの様子を見たバンシーは冷静に対応した。


「二手に別れます!そのトカゲを食い止める者と主様を後方にお運びする者とです」


 バンシーの声にオメガが応じた。


「ならば、私とジャック・オー・ランタンでこいつを食い止めますので、貴女はマスターを安全な場所に!私は新参者故に存在感を示させていただきます!」

「この場は任せます。ただ、主様の御命令は忘れることのないように」

「承りました。長い時を経て巡り会えた真にお仕えすべき御方の意思です。必ずやマスターの下に戻ります」


 ゼロの指揮下を離れて自らの意思で判断したアンデッド達は行動を開始した。


 街道を南に進むレナ達はほどなくして北に向かってきた王国軍の中隊やセイラ達と合流した。

 彼等によれば避難民は安全な場所まで後退したため、少女を探しに行ったレナ達を追ってきたとのことで、ドラゴン・ゾンビに対応する聖騎士団と魔導部隊も遠からず到着するとのことだ。

 そうとなればレナ達の責務は全うしたと言えるため、保護してきた少女を兵士に託した。


「私はゼロを迎えに行きます」


 そう言ってレナは踵を返した。


「待ってください!俺達も一緒に行きます」

「私達もご一緒します」


 レオンやセイラ達も覚悟を決めた表情だ。


「危険です。私自身、ここから先は冒険者として行くわけではないのですよ?」


 レナの言葉にもレオン達の決心は変わらなかった。


「俺達だってゼロさんを見捨てるなんてできないですよ!何と言われようと俺達もゼロさんを助けに行きます!」


 レオンの言葉に全員が頷いた。


「そこまでの覚悟があるならば行きましょう」


 7人は北に向かって駆け出した。


 レナ達が無人の町にたどり着くと、南側の入口付近に倒れるゼロとゼロを守るアンデッド達の姿があった。

 彼等が意識のないゼロをここまで運んできていたのだ。

 横たわるゼロの傍らに跪いていたバンシーがレナ達に気付いて立ち上がった。


「魔導師様、お願いがございます。主様をお救いください」


 レナ達は駆け寄って倒れているゼロの様子を見て、そして全員の表情から血の気が引いた。

 倒れているゼロの左目には木片が突き刺さり、その周囲、顔の左半分が酷く爛れていた。

 呼吸も浅く瀕死の状態だ。


「あのトカゲの毒が混ざった礫をまともに受けられたのです」


 バンシーの説明にセイラが無駄と分かりながらも癒やしの祈りを捧げる。


「神官様、主様に祈りは無駄です。主様をお救いする手立ては1つしかありません」


 バンシーは赤い瞳で真っ直ぐにレナを見た。

 その瞳からは涙が流れている。


「私達は主様に刃を向けることはできません。魔導師様、主様をお救いするために毒に犯された主様の左目を抉り、爛れた皮膚を削ぎ落としてください」


 バンシーの申し出にレナは膝が震え、立っていることができずに座り込んでしまった。

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