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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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零れゆく運命

 最終防御線におけるゼロ達の猛攻は凄まじいものだった。

 ジャック・オー・ランタンの鎌による物理攻撃と火炎魔法による変幻自在の攻撃。

 ヴァンパイアのオメガは姿を霧に変えたかと思えばドラゴン・ゾンビの直上に姿を現し、力任せにバスターソードを打ち込みその頭を地面に叩きつける。

 再び霧に変えると脚下に現れてその脚を払い取る。

 オメガやジャック・オー・ランタンの攻撃に触発されて他のアンデッドも猛々しく戦いを挑む。

 それらの攻撃は相変わらずドラゴン・ゾンビにダメージを与えるには至らないがドラゴン・ゾンビの脚を止め、押し戻し、そしてドラゴン・ゾンビを本気?にさせた。


「よし!もう少しです。このまま手を緩めずに、攻撃を加え続けるのです」


 この防御線を突破されたらもうドラゴン・ゾンビを止める手立てはない。

 しかしながらドラゴン・ゾンビに勝つことは敵わないながらも負けないことに徹した戦いを展開できる。

 ドラゴン・ゾンビの邪気と毒気に抗いながら、それでもゼロは退かなかった。

 このまま時間稼ぎの役割を全うできる、そう思ったゼロの視界の片隅にそこに居るはずのないもの、居てはいけないものが入り込んだ。


 時間は少し遡る、レナ達は町を退去して避難する住民達の殿を守っていた。

 このまま進めばとりあえずはドラゴン・ゾンビの脅威からは脱出できる。

 いくつかの集団に別れて町を離れた住民達は付近の都市や貴族の領内に分散して避難することになっており、この最後の集団は風の都市に受け入れられる予定だ。

 長時間の緊張を強いられていたレナやレオン達にも安堵の表情が出始めたその時、運命の悪戯が望まぬ方向へと働き始めた。

 集団の最後尾を守るレナ達の下に顔面蒼白の若い女性が駆け寄ってきた。


「娘が!娘の姿がどこにもいないんです!」


 その若い母親の言葉はレナ達を震撼させるに十分だった。

 その母親の6歳になる娘は確かに町を出発する時には避難用の馬車に乗っていた筈だった。

 その娘がいつの間にか姿を眩ませた。


「町を離れる時に娘が秘密の友達が心配だ、と話していたんです。でも、町の人達はみんな避難するから大丈夫って言い聞かせて避難したんですが、どこか不満そうで・・・」

「娘さんの行き先に心当たりはありますか?」

「分かりません。ただ、娘は町の北の丘に1人で遊びに行くことが多かったのですが」


 母親の言葉にレナ達は事の重大性を理解した。

 おそらくその少女は何らかの理由があり母親やレナ達の目を盗んで町に戻り、更に北の丘に向かったのだと。


「直ぐに連れ戻さないと」


 少女が町に戻ったのは間違いない、馬車を抜け出して草むらにでも隠れていたのだろうが、完全なるレナ達のミスだ。

 町の更に北だとまさに今、ゼロが避難の時間を稼ぐべく戦っているかもしれない場所であり、自分達の油断でその危険な場所に少女を向かわせてしまったのだ。

 レナは決断を迫られた。


「全員で町に戻るわけにはいきません。私とレオンさん、アイリアさんの3人で行きましょう」


 迷ったり異論を唱える暇はない。

 レナの指示に従って3人は再び北に向かって駆け出した。


 そして、時は戻って、ゼロが目にしたもの、それは背後に木の下で子狐を胸に抱いて立ち竦む少女の姿であり、その少女を連れ戻しにきたレナ達の姿だった。


「ゼロッ!ごめんなさい、私達のミスで・・」


 レナの言葉が終わる前にゼロが動いた。

 ドラゴン・ゾンビの虚ろな目が少女やレナ達を見た。

 その口からは灰色の煙のようなブレスが漏れ出している。

 一刻の猶予もない、ゼロはバンシーとスペクター2体をレナ達の守りに回した。


「この場は危険です!奴が毒のブレスを吐きます!そこで皆で集まって動かないでください!レナさんとアイリアさんは周囲に気流の壁を!」


 ゼロの言わんとする事を理解した2人は即座に動いた。


「ウィンドカーテン!」

「風の精霊シルフ、私達を守って」


 2人の魔法で周囲に風の壁を作り出す。

 更にバンシーの冷気の渦とスペクターの竜巻が重ねられて壁を強化する。

 それほどまで重ねないとドラゴン・ゾンビのブレスを防ぐことができない。

 特に幼い少女を守ることができないのだ。

 しかし、レナ達に守りを回してしまったのでドラゴン・ゾンビに対峙しているゼロに付き従っているのはスペクター1体のみ。


「ゼロッ!貴方もこっちに!」


 レナがゼロを呼んだその瞬間、ドラゴン・ゾンビが周囲に毒のブレスを振り撒いた。

 周囲が灰色に染まり視界が失われ、最前線にいたゼロの姿も見えなくなる。

 レナ達は震える少女を守る。

 周囲は禍々しいガスが充満し、重ねて張られた気流の壁が辛うじて毒気を防いでいたが、それが精一杯で全く身動きができない。

 そんな中でバンシーが口を開いた。


「魔導師様、間もなくあのトカゲめの毒気が弱まります。そうしましたらその娘を連れて逃げてください。毒気は完全には晴れませんが私達が安全な場所までお守りしますから、決して立ち止まらないでください」 


 バンシーの言葉を聞いたレオンは震えている少女を抱きかかえてその瞬間に備えた。


「ゼロは?」


 レナの問いにバンシーは首を振る。


「主様のことは考えずに、一刻も早く逃げてください」

「そんなっ!」


 レナが言いかけたその時、周囲に充満していた毒気が僅かに弱まった。


「今っ!お逃げください!」


 バンシーの声に少女を抱えたレオン、アイリア、レナは南に向かい走り出した。

 その4人の周囲をスペクターとバンシーが守りながらついてくる。


「決して立ち止まらずに!」


 バンシーの声に反射的に背後を振り返ったレナは確かに見た。

 薄れゆく毒気の中で漆黒の人影が力が抜けるように崩れ落ちる様を見たのであった。

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