北の鉱山の町へ
声をかけられたレナが振り返るとそこに立っていたのは見知った冒険者2人だった。
1人は以前に共に冒険に出た槍戦士のレオン、もう1人は都市防衛戦で共に戦ったことがあり、それ以前に些か因縁のある神官のセイラだ。
その2人が助力を求めて声をかけてきた。
2人の背後を見れば、やはり見知った顔ばかりだ。
「どうしました?」
取り敢えず用件を聞いてみることにすると、その内容は共同での依頼受諾の誘いだった。
北にある鉱山の町からの依頼で街から離れた鉱山と連絡が途絶えたため、その調査依頼らしい。
「この依頼、普通に考えれば僕達とセイラさん達だけでも対処可能だと思うのですが、どうにも気になるんです」
カイルの説明を聞いたレナも頷く。
「確かに、宿舎の様子を見に行く調査だけならば、そう難しいものでは無いでしょうけど・・・」
「やはり気になりますか?」
セイラがレナの顔を覗き込む。
「ええ、鉱山夫の宿舎となればそこに居たのは1人2人や10人20人ではないはず。それが急に連絡が途絶えたとなると、ただ事ではないと考えるべきね」
レナは鉱山宿舎の資料に目を通す。
とはいえ鉱山夫の名簿があるわけでもなく、大まかなことしか記載されていない。
「鉱山夫がおよそ100人、鉱山管理者が10人、他に強制労働者が20人とその管理者が5人・・・。やはりただ事ではないですね」
レナもレオンやセイラ達の判断は正しいと思う。
自分も取り急ぎの依頼もないし、彼等に同行することも吝かではない。
しかし、1つだけ懸念はある。
「同行して欲しいということは分かりました。でも・・・」
レナはセイラとアイリアを見た。
そう、レナはかつて新人冒険者を襲うという犯罪に手を染めていたパーティーに与していた。
当時は精神支配を受けていたわけで、自分の意思ではなかったのだが、自分達が他の冒険者を殺傷した事実は拭えない。
その被害者の1つがセイラ達のパーティーで、レナが直接手を下してはいないが、ライルという若者を殺害し、アイリアに重傷を負わせたことは事実だ。
セイラとアイリアもレナの視線に気づき、2人共に真剣な表情でレナを見返す。
「レナさんはあの日のことを気にしているのでしょうか?」
セイラの問いにレナは頷く。
「だとしたら、その心配は無用です。レナさんが精神支配を受けていたことはゼロさんやギルドの方から聞いていますし、私もそれを目の当たりにしました。レナさんがどう思っているのかは分かりませんが、私達はレナさんを恨むような気持ちはありません。むしろ、都市防衛戦の時に助けてもらった感謝の気持ちしかありません」
セイラ達の真っ直ぐな視線を受けてレナは長い間の胸のつかえが無くなったような気持ちになった。
「分かりました。私も一緒に行きます。共同での依頼受諾ということでいいですね?」
7人は共同で依頼受諾として受付で手続きをした後に直ちに北に向けて出発した。
レナ達が北の町に到着するまでに2日を要したが、依頼を出した町の代表に聞き取りを行ったところ、事態はより深刻になっていた。
鉱山夫達を心配した町の若者数名が様子を見に行ったのだが、1人しか戻って来ず、たった1人戻った若者も精神が壊れていて何も話すことができないとのことだった。
試しにその若者に面会したが、部屋の隅でうずくまって怯えているだけであった。
「これはやはり尋常でない事態が起きているようですね」
レナの言葉に他の全員が頷く。
「最悪、宿舎は全滅している可能性もあります。だとすればそれを成した何かがいるということですね」
カイルが声を潜める。
部屋の隅で怯える若者の様子を見ていたセイラとアイリアも
「疫病の類ではなさそうです」
「余程の恐怖を感じて精神が壊れたのではないかしら?」
との見立てを示す。
そうとなれば事態は一刻を争う。
7人は直ぐに鉱山夫の宿舎に向かうことにした。
鉱山宿舎に向かう道は掘り出された鉱石の搬出や物資の搬入のため、険しいながらもしっかりと整備されていた。
7人は先を急ぎながらも慎重に進んだ。
異変が起きたのは1日目の夜、夜営を張った直後だった。
見張りをしていたマッキが鉱山の方向から近づいてくる影に気付いたのだ。
「誰か近づいてくるよっ。足取りがおぼつかない」
マッキの声に皆が緊張する。
「不用意に近づかないで。直ぐに反撃できるように備えなさい」
レナが声を上げ、自らも近づいてくる影に魔法の狙いを定める。
夜目が利き、視力も飛び抜けているアイリアが状況を逐一報告する。
「人影、1人、体格が良い、男性?・・・ちょっと待って!人じゃない!ゾンビ?」
アイリアとマッキが矢を放つ。
胸部と脚部に矢を受けるも歩みを止めずに接近してくる。
セイラが前に出て浄化の祈りを唱えようとするが、レオンがそれを止めた。
「待ってくれ、浄化で消し去ってしまうと情報が得られない。レナさん、出来るだけ身体を壊さないようにあのゾンビを倒せますか?」
レナは一行の前に出て強力に圧縮した雷撃魔法を近づいてくるゾンビの頭部に撃ち込んだ。
ゾンビの眉間に小さな穴が開き内部で脳を破壊されたゾンビが倒れた。
「これでいい?」
レナが振り返ると真剣な表情のレオンとカイルが頷いた。
「はい、今から俺とカイルであれを調べるから、レナさん達はここから警戒していてください」
レオンとカイルは慎重に倒れたゾンビに近づいて、その骸を調べ始めた。
「とりあえず完全に停止しているな」
「うん、頭部が破壊されているから大丈夫だと思う」
カイルは骸の脇にしゃがみ込んだが、その直後、目を見張って飛び退き、レオンをその場から引き離した。
「カイル、どうした?」
「いいから離れて!」
2人が骸から距離を取ると、カイルは火炎魔法で骸を灰になるまで焼き払った。
「このゾンビ、ただのゾンビじゃありません。呪われて毒を帯びていました」
カイルの言葉を聞いた全員に緊張が走った。
やはり尋常でない事態が進行中だと全員が理解した。




