何もない日々
ゼロ達は風の都市に帰ってきた。
それからまた時が流れたが、ゼロの生活は以前と何の変化も無かった。
死霊を操るネクロマンサーに対しての人々の畏怖の感情は拭い難く、一部を除いた人々から避けられる中で余り物の依頼を片付ける日々を送っていた。
それでも、多少の変化はあった。
地下水道の魔物退治や付近の村々周辺の魔物の調査や駆除等の他に指名依頼も増えてきたのだ。
大半がライズやオックスからの手伝い依頼やエルフォード家を介しての依頼、魔導院からの死霊術に関する協力依頼だが、中には純粋にゼロを指名しての怪現象やアンデッド絡みの依頼も多くなった。
それらの依頼を黙々と誠実にこなしつつ多忙ながら平穏な日々を過ごしていた。
時には休息を取り、マイルズやモースと語り合ったり、レナの訓練に付き合わされたり、シーナにお茶に誘われたりと人々との繋がりの中で平穏な日々が流れていった。
今日もエルフォード家の仲介で別の貴族の領内における魔物の分布の調査と駆除を引き受けていた。
この依頼も数度目で、定期的に行っているゼロの報告を元にしてギルド内の専門部署で魔物の生態や分布について統計と分析を行っているのだ。
その結果を受けて貴族は領内の警備体制等を決めているのであるが、ゼロの報告は丁寧で細かい所まで調査してあるので評判がいい。
「さて、この一帯の調査と駆除も終わりですね。しかし、やはり気になりますね」
人々の往来がある街道や人が住む集落や街の周辺には凶悪な魔物の出現の痕跡は無く、下級の魔物ばかりである。
しかしながら、その種類と数に変化が認められた。
本来は人里離れた深い森の奥に住むものや、もっと北方に生息する魔物が確認された。
しかも、魔物の数そのものが増えている。
「何かの前触れでしょうか?よからぬことが起きなければいいのですが」
ゼロは調査結果を雑嚢にしまうと風の都市に向かって歩き始めた。
風の都市に帰ったらしばらくは休みを取るつもりだった。
神官のセイラ・スクルドとレンジャーのアイリア・レンは風の都市の冒険者ギルドに所属する冒険者である。
地道に活動をしてきた青等級の冒険者であるが、彼女達はパーティーに恵まれていなかった。
駆け出しの頃にパーティーを組んだ剣士は他の冒険者に襲われて命を落とし、その後にパーティーを組んだ剣士と魔術師はといえば、冒険による負傷で剣士が剣を持つことが出来なくなり、剣士が冒険者を引退し、それに魔術師がついて行ってしまった。
それ以降はフリーの冒険者として他のパーティーと共同で依頼を受けたり、ゼロが受けるような余り物の依頼をこなしてきた。
神官とレンジャーの2人は前衛職が居ないために単独での依頼受諾が難しいのである。
今回も茶等級の4人組パーティーと共同で依頼を受けたのだ。
共同で依頼を受けたのは槍戦士レオン、魔術師カイル、武闘僧侶ルシア、斥候マッキのパーティーで、下位冒険者ながら頭角を表してきた4人組だった。
受けた依頼は北の山沿い、鉱山の町として知られる町からのもので、町の更に北、鉱山夫の宿舎との連絡が途絶えたとの調査依頼だった。
ギルドのテーブルに依頼書と地図を広げて内容を精査するレオンとセイラ達、若いながら慎重に事を運ぶことで有名なレオン達らしく、出発前の打ち合わせにも余念がない。
「依頼の内容が調査ということで、魔物の討伐依頼ではないのだけど・・・どうにも気にかかるね」
カイルが首を傾げる。
「確かに、様子を見に行くだけなら町の男性達でも可能ですよね?」
セイラも疑問を感じる。
地図を眺めながらカイルが口を開いた。
「町から鉱山夫の宿舎まで片道1日以上、2日弱か。しかも下級ながら魔物も出没するようだし、その辺なのかな?冒険者に依頼するというのは」
魔物が出没する地域を片道2日の行程だと複数で行動し、戦闘にも備える必要がある。
ただの様子見ではなく、ある程度の危険が伴う。
「多分、今の俺達だけでも可能だろうけど、念のためもう1人位、それも経験豊富な冒険者がいたほうが良さそうだ。セイラさん達はどう思います?」
レオンに問われてセイラとアイリアも顔を見合わせる。
確かに、今の6人でも問題ないように思えるが、鉱山夫の宿舎で何が起きているのか分からないので、万が一に備えることが必要な気もする。
「確かに、熟練の方がもう1人位いた方が良いと思います」
セイラはギルド内を見渡したが、目的の冒険者の姿は無い。
レオンも同じことを考えているようで誰かを探しているようだが、やはり目当ての人物は見当たらないようだ。
しかし、レオンの視線が1人の冒険者で止まった。
セイラがその視線の先を追うと、そこにはセイラも見覚えのある冒険者の姿があった。
セイラとレオンは互いに頷きあってその冒険者に近づいて声をかけた。
「「あの、もし良かったら依頼を手伝って欲しいのですが」」
「えっ?」
レオンとセイラに声をかけられて、銅等級の魔導師レナは振り返った。