決勝の舞台へ
闘技大会も最終日、決勝戦を迎えた。
決勝戦開始は昼過ぎだが、ゼロ達は早朝から控え室に入り入念に準備をしていた。
「ゼロ、私は今日はどうするの?」
昨日はゆっくり休んだためにレナのコンディションは万全だ。
「私は何も指示しませんのでレナさんは自由に、徹底的にお願いします」
「それでいいのね?」
「はい。正直言って何も指示しないというか、私はイザベラさんを相手にして指示なんかしている余裕もないと思います。だから貴女のことは丸投げしますから自由にしてください。何ならレナさんがイザベラさんを討ち取ってくれても構いませんよ」
「そうしたいのは山々だけど、あの女相手では無理ね」
レナもイザベラの強さは身に染みて分かっていた。
今日の戦いはゼロもレナもたった一つのミスが即座に敗北に繋がるのだ。
「兎に角、私とレナさんの連携ならばいちいち指示や合図なんて必要ないでしょう」
トクン・・・
ゼロの何気ない言葉にレナの心が僅かに動揺する。
「任せておいて」
レナは心の高ぶりを覚え、必勝の決意を固めた。
そんな2人の様子をシーナは静かに見守っていた。
ここからはゼロとレナの戦いで自分は見送ることしかできない。
その無力感が歯がゆかった。
(見送るだけで何もできないというのも悔しいものですね)
間もなく開始時間、ゼロが静かに立ち上がった。
「そろそろ時間ですね。シーナさん、しっかりと見届けてくださいよ」
「はい。私は応援しか出来ません。何の役にも立ちませんが、精一杯応援しますね」
シーナの返事にゼロとレナは不思議そうな表情を浮かべた。
「何を言っていますか。私はレナさんだけでなくシーナさんもいなければここまでは勝ち上がれませんでしたよ」
ゼロの言葉にレナも頷く。
「えっ?」
「戦いの時にはレナさんのサポート、戦いの外ではシーナさんのサポートがあったからこそ私は勝ち上がれたのです」
シーナは胸の奥が熱くなった。
闘技場の観客席は超満員、決勝戦の開始を今や遅しと待ち構えている。
そんな中、闘技場に獣人の娘が入場した。
これまでの道化師の装束でなく、タキシードを着た男装で壇上に立つ。
「お待たせしました!いよいよ闘技大会も最終日、決勝戦を残すのみ。本日最強の称号をうけるのは果たして誰か!ここまで勝ち上がった強者の入場です!」
前口上に続いて出場者の紹介が始まる。
「東の門から入場はするのは漆黒の戦士!大方の予想をことごとく裏切ってこの決勝戦まで勝ち上がってきたのは数多の悍ましき死霊達を従える死霊術師。彼を止めることができる者はいないのか?風の都市からやってきたダークヒーロー、ネクロマンサーのゼロ!そしてサポートは彼女も侮ることなかれ!3回戦でゲイルを仕留めた実力は本物だ!一撃必殺の雷撃魔法を操る魔導師のレナ・ルファード!」
ゼロとレナが闘技場に上がると怒涛のような歓声とブーイングが上がる。
歓声の半分以上はレナに向けられたものだった。
「続いて西の門から入場するのは!聖務院聖騎士団の最精鋭。禍々しき死霊術を討ち果たすは我々の宿命!死霊達を従えるゼロに救いの手を差し伸べるために立ったのは聖騎士団所属の戦乙女イザベラ・リングルンド!サポートは同じく聖騎士団所属の騎士であり、司祭!祈りの奇跡では右に出る者はいない。ヘルムント・リッツ!」
イザベラが入場すると歓声がより一層大きくなった。
闘技場に上がったイザベラは聖騎士団の女性騎士の正装、青い制服に白銀の鎧、羽根飾りをあしらった兜と正に戦乙女の様相だが、ゼロとレナが唖然として見るのは背後に立つヘルムントである。
以前に見た時は全身を包むフルプレートを着用した巨漢の騎士の姿だったが、今彼等の前に立つのは青と白を基調とした司祭服に身を包んで錫杖を手にした巨漢の司祭だった。
ゼロ達の表情に気づいたイザベラは首を傾げながら笑う。
「どうしましたのそんな変な顔して?ヘルムントは騎士でありますけど、本来は司祭ですのよ?戦技も優秀ですが、何よりも聖なる祈りでは右に出る者はいない程の実力者ですの」
ゼロとレナは顔を見合わせる。
筋骨隆々のヘルムントが祈りを捧げる姿の想像がつかなかったのだ。
「何を考えているかおおよそ分かりますけど、甘く見ていると酷い目にあいますわよ。私に瞬殺されてこの大舞台で大恥をかくことのないようにしてくださいな。お客様だけでなく私のことを楽しませてくださいね」
イザベラはゆっくりとサーベルを抜いた。
「さあ刮目せよ!アンデッドを従えるゼロの死霊術が勝つのか、リングルンドの聖なる力がゼロの死霊術を浄化するのか。今、最強を決める決戦が始まります!決勝戦、試合開始です!」
獣人の娘の号令で決勝戦が開始された。
イザベラは優雅にサーベルを構える。
対するゼロは剣でなく鎖鎌を取り出して分銅を回し始めた。