決着 準決勝
次々とエイリアの矢が撃ち込まれ、防御壁が崩壊寸前にまで陥ったが、ゼロはひたすら耐えた。
エイリアの攻撃速度が早く、スケルトンウォリアーの補充が追いつかないのだ。
このままでは長くは持たない。
ゼロの背後ではレナの詠唱が続いていた。
(もう少しだけ待っていて、ゼロ)
レナの周囲に魔力の渦が巻き始める。
(この魔法、今なら制御できる筈、この指輪と私の力ならば・・・)
レナの周囲に激しく渦巻いていた魔力が集束していく。
「雷神の嵐!プラズマストーム!」
集束していた魔力が解き放たれて爆発的に広がり、闘技場を魔力の渦で包み込んだ。
ゼロとガンツが対峙している闘技場の中心は台風の目のように静まり返っているが、周囲は帯電した魔力が激しく渦巻いている。
流石のレナも闘技場全体を包む膨大な魔力を制御するために立ち上がることもできず、立て膝の姿勢のままだ。
エイリアが魔力の渦に向かって精霊魔法を乗せた矢を放つ。
しかし、矢が渦に触れた瞬間に稲妻に打たれて消し飛んだ。
「無駄よ。貫けるものなら貫いてみなさい!もうゼロ達の邪魔をすることはできないわよ!」
笑ったレナだが、彼女にも余裕は無い。
初めて行使する強力な魔法だ、少しでも気を抜けば魔力が暴走し、自分自身が吹き飛ばされてしまうだろう。
レナは魔法の制御に集中した。
ゼロは防御を解いて立ち上がった。
ガンツも周囲の渦を注意深く観察している。
「これは、また凄まじいことをしてくれましたね。あの魔力の壁に触れたら我々もただではすみませんよ」
「あの魔導師の娘か。完全にエイリアの攻撃を無力化しおった。これは面白い!さあ、ここからは俺とお前の本当の勝負だ!」
ガンツは心底嬉しそうに笑った。
ゼロもスケルトンナイト3体のみを残し、スケルトンウォリアーとスペクターを戻した。
「真っ向勝負なんてまっぴら御免ですがね。貴方を倒さなければレナさんにここから出してもらえなそうです」
話しながら斬撃の構えを取る。
ガンツも戦鎚を構えた。
ここからはゼロとガンツの戦いだ。
「レナさんの負担を考えるとそう時間もかけられません。短期決戦で行かせてもらいます」
「望むところだ!」
ゼロが動いた。
攻撃型のスケルトンナイト2体と同時に駆け出し、三方からガンツに斬りかかる。
ゼロとスケルトンナイトの連携は凄まじく、観客から見れば三方から同時に斬りかかっているように見える攻撃も、ほんの僅かにタイミングをずらしたり、接敵距離の違う武器で同時に攻撃をしたりとガンツに主導権を握らせない。
ガンツはガンツでゼロとアンデッドの攻撃を捌きながら一撃必殺を狙っていた。
そんな中でゼロは常にガンツの正面に位置して戦っている。
正々堂々と戦うなんて気はさらさら無いが、それでも自分自身が相手の背後から斬りかかるということはゼロの矜持が許さなかった。
尤も、アンデッドが背後に回ることには何の抵抗もないというのはネクロマンサーとしての感性だ。
ガンツは自らに飛びかかるスケルトンナイトを押し戻し、その隙を狙ったゼロの剣を受け止める。
即座に反撃に転じ、ゼロに向かって振るわれる戦鎚をゼロは捌き、剣を翻して斬りかかる。
戦いは互角だった。
その上で双方の武器、ガンツの戦鎚とゼロの剣はどうかといえば、僅かにゼロの剣の方が上回り、ガンツの戦鎚に僅かな亀裂を刻み込む。
「流石にグラント師の打った刀だ!そんな刀身で俺の戦鎚を捌きおるわ!」
ガンツはゼロと距離を取り、突撃の構えを見せた。
守りを捨て、攻撃にのみ集中する必殺の構え、勝負に出る気だ。
ゼロは自らの前に大盾装備のスケルトンナイトを配置した。
ガンツの背後にいるスケルトンナイト2体はガンツから離れて動きを止めている。
「そんな盾で俺の突撃を止められるか!」
「やってみますよ。私もそろそろ勝負をつけたいのでね」
「ならば止めてみせい!勝負だ!」
ガンツが突進するのに合わせてスケルトンナイトとゼロも前に出る。
双方の距離が一気に縮まり、衝突する瞬間、ガンツは戦鎚を大上段に振り上げた。
スケルトンナイトが大盾を頭上に翳す。
「俺の戦鎚を受け止められるものか!」
ガンツが勝利を確信したその時、スケルトンナイトの盾の下をくぐり抜けたゼロがガンツの懐に飛び込んだ。
スケルトンナイトは元からガンツの戦鎚を受けるために盾を翳したのではない、ガンツの懐に飛び込むゼロの進路を開けただけだったのだ。
ゼロはガンツの足下から逆袈裟斬りに剣を振り上げた。
ガンツもゼロに向かって戦鎚の軌道を変えて振り下ろす。
バキンッ!
闘技場に魔導具の破壊音が響き渡り、ゼロとガンツの双方が吹き飛ばされた。
会場が静まり返る。
レナも魔法を止めて立ち上がった。
対面ではエイリアも立ち尽くしている。
そして、その場にいる全員が固唾を飲んで見守る中、ゼロがゆっくりと立ち上がった。
「勝負あり!勝者、風の都市の冒険者ネクロマンサーのゼロ!」
会場に獣人の娘の声が響き渡った。