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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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3回戦 アンデッド対ゴーレム

 対決の後、ギルドの宿舎に戻ったゼロはマイルズの訪問を受けた。

 本来はセシルからの夕食の招待のための訪問であったが、ゼロは明日も第1試合から出場する必要があり、万全を期すために丁重に断った。


「それもそうでした。食事の機会は優勝の祝勝会としますか」


 笑って話すマイルズの言葉をゼロは慌てて否定した。


「いやいや!流石に優勝は無理があります。初戦といい、今日のマイルズさんとの対決といい、ギリギリだったんですよ。明日の対戦だって勝てる保証は全くありませんよ」

「ハハハッ、そう仰いますな。私はゼロ殿の勝利を信じておりますぞ。それに明日以降は私だけでなくセシル様達も応援に参りますので是非とも勝ち上がっていただきたいものです」


 ゼロは恐縮するが、マイルズはゼロが勝ち上がることを信じていた。

 そもそもマイルズが今大会に出場した理由自体がゼロの真の強さを知りたかったからであるのだ。

 マイルズも自分の力にそれなりの自信を持っていたが、ゼロと戦って勝てなければ、自分を上回る強さを持つゼロを友として誇りに思える。

 もしもマイルズが勝てたとすれば、いずれゼロが自分を越えるという楽しみができる。

 それを確かめるために出場し、全力をもって戦った結果、嬉しいことに負けた。

 ゼロの強さを身をもって知ったからこそゼロの勝利を信じているのである。


「マイルズさんに勝てた事実に泥を塗らないためにも死力を尽くしますよ。それでも負けたら勘弁してくださいよ」


 ゼロの言葉にマイルズは笑って頷いたのだった。


 大会4日目、3回戦が行われるが、例によってゼロの試合は第1試合である。

 しかし、今日の対戦は今までとはまるで勝手が違った。

 闘技場でゼロの前に立つ相手は剣士、戦士等の前衛職の者ではない。

 対戦相手のゲイルは魔導師であり、その手に杖のみを持ち、近接戦闘の武器を携えていない。

 背後に控えるサポートも魔術師だ。

 しかし、3回戦まで勝ち上がってきた強者であることは紛れもない事実である。

 会場内に試合前の口上が流れる。


「さあさあ本日は第3回戦です。ここまで勝ち上がりしは紛れもない猛者ぞろい!そんな中でこの対戦は全くの異質!アンデッドを使役するネクロマンサーとゴーレムを操る魔導師の対決だ。ゼロのアンデッドが勝つのか、はたまたゲイルのゴーレムか、そしてどのような戦いが繰り広げられるのか?お待たせしました!試合開始です!」


 獣人の娘の声を合図に闘技場に2つの軍団が現れた。

 片やゲイルが魔力により作り出したストーンゴーレム3体とマッドゴーレムが40体だ。

 加えてサポートの魔術師が作り出したガーゴイルが2体。

 それに対してゼロはスケルトンナイトを2体、スペクターを2体、槍を装備したスケルトンウォリアーを30体召還した。

 闘技場の西と東に異形の軍団が睨み合う。

 実はゼロにしてもゲイルにしても更に多くのアンデッドやゴーレムを揃えられるのだが、これ以上の数となると限られた闘技場内では収拾ががつかなくなる可能性があるため、双方が部隊運用をしやすい数で挑んでいるのだ。


「前進!まずは敵の数を減らしなさい!」


 ゼロの指示の下、スケルトンナイトに指揮されたスケルトンウォリアーが前進を開始、敵の前列に並ぶマッドゴーレムに襲いかかった。

 泥でできたマッドゴーレムはその姿を巧みに変えながら反撃しようとするも、スケルトンウォリアーの槍にコアを破壊され、その数を減らしていく。

 しかし、中には泥でできた身体でスケルトンウォリアーに絡みついて攻撃を加え、スケルトンウォリアーを倒す個体もある。

 どうやら同じような風体でも強い個体が紛れ込んでいるらしい。

 更に頭上では2体のガーゴイルがスケルトンの部隊に攻撃を加えようとするのをスペクターが妨害している。


 会場を埋める観客は闘技場全体を立体的に使ったまるで合戦のような見応えのある戦いに盛り上がりを見せていた。


「ゼロ!ガーゴイルは任せて!」


 サポートに付いているレナがスペクターに動きを阻まれたガーゴイルに狙いをつけ、雷撃魔法で貫いた。

 魔法耐性が高いガーゴイルだが、それを上回るレナの魔法の直撃を受け、ただの石塊へと姿を変える。

 その間、スケルトンウォリアーとマッドゴーレムの戦いは一進一退を繰り返していた。

 双方共に数が減れば新たな個体が次々と投入されるため、優劣がつかないのである。


 ゼロは更に2体のウィル・オー・ザ・ウィスプを召還してマッドゴーレムの前列に火炎攻撃を浴びせた。

 火力が集中した箇所に綻びが生じた。


「突入しなさい!」


 その僅かな空間にスケルトンウォリアーを突入させて傷口を広げる。

 敵の陣形が崩れたら更にスケルトンナイトを突入させて戦況の主導権を握るつもりであった。


 対するゲイルもただ押されているばかりではない。

 魔導院で魔法生物学を研究する彼はその研究の過程で習得したゴーレム製造魔法においては右に出る者はいない程の実力者である。

 彼は魔導院に所属すると共に王国軍の兵士でもあり、ゴーレム等の魔導兵器を運用する魔法部隊の隊長を務めていた。

 サポートでガーゴイルを操る魔術師も彼の部下である。


「やはりマッドゴーレムではスケルトン相手にも分が悪いか」


 自軍の前列が食い破られる様子を冷静に観察していたゲイルだが、マッドゴーレムが押し負けるのは想定の範囲内だった。

 ゴーレムの中でも比較的機動力に優れるマッドゴーレムで相手の出方を見たが、マッドゴーレムでは戦線が維持できなかった。

 前線が崩壊するタイミングでゲイルは次の手を打つ。

 後方に控えていた巨大なストーンゴーレムの内1体を前進させてスケルトンウォリアーの前列を蹴散らし、スケルトン部隊が僅かに足を止める瞬間を狙ってマッドゴーレムを止めて小型のストーンゴーレム20体を作り出して投入した。


「部隊を入れ替えましたか。ならば!」


 ゼロも即座に対応する。

 大盾を装備したスケルトンウォリアーを召喚して横一線に並べて阻止線を構築し、槍装備のスケルトンウォリアーをその後方に後退させた。

 小型ストーンゴーレムの前列がスケルトンウォリアーの阻止線に衝突した。

 盾の後方からスケルトンウォリアーの槍がストーンゴーレムを突くが、石でできたゴーレムの身体には歯が立たない。

 一方のストーンゴーレムも重厚な盾の防御を突破できず、戦況が再び拮抗した。

 しかし、ゲイルは一気に勝負をつけるべくたたみかける。

 大型のゴーレム3体を全て投入して攻勢に出た。

 強力なゴーレムの猛攻に今度はスケルトンウォリアーの防御線が崩壊した。

 残されたアンデッド全てがゴーレム達に取りかかるが、その中を突破した巨大ゴーレムの1体がゼロに向かって突進してくる。


「抜かれましたっ!」


 咄嗟に大盾装備のスケルトンナイトを召喚するも突進を止めることはできなかった。

 ゼロはその場から飛び退いて巨大ゴーレムの突進を躱したが、飛び退いた先には別の巨大ゴーレムが混戦を抜けて回り込んでいた。

 ゴーレムの拳が横凪にゼロを襲う。


「クッ!」


 ゼロは剣を抜いて防御姿勢を取った。


「ゼロッ!」


 レナが声を上げたその時、ゴーレムの攻撃がゼロを捉え、ゼロは吹き飛ばされて地面に激しく叩きつけられた。

 それを見た多くの者がゲイルの勝利を確信したが、審判を務める獣人の娘は勝利宣言をしない。

 強烈な一撃を受けて倒れたゼロだが、ゼロが身につけた魔導具は壊れていないため、致命傷を受けた敗北とは判断されないのだ。

 ゼロが受けたゴーレムの攻撃は掠りでもすれば全身の骨がバラバラになる程の強烈な一撃だったのだが、その攻撃がゼロに直撃する寸前にレナの防御魔法がゼロを包んでいて紙一重で致命傷を免れたのである。

 しかし、レナの防御魔法をもってしても衝撃を打ち消しきれず、ゼロは意識を飛ばしたのだった。

 倒れたままのゼロに残りのアンデッドが駆け寄って守ろうとするも、ゼロの意識が飛んでいるせいかその動きには精細を欠いており、逆にその隙を突かれて巨大ゴーレムがゼロにとどめを刺すべくゼロに歩み寄った。

 スケルトンナイトがゼロを抱えて離脱しようとするが間に合わない。


「やっちまえーっ!」

「これで決まりだっ!」


 観客の興奮が最高潮に達した。


「やめてっ!」


 死ぬことはないと分かっていてもシーナは悲鳴を上げて両手で顔を覆う。

 離れた席で見ていたセシルも同じだった。

 マイルズは拳を握りしめて目を見開く。

 ゼロに向かってゴーレムが拳を振りかざす。

 ゼロは絶体絶命の危機に陥った。

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