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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
64/195

闘技大会1回戦

「試合開始です!」


 開始宣言と共に鐘が鳴り響き、いよいよ闘技大会が始まった。

 ゼロは剣を抜いた。

 対するミラーもその身長程もあろうかという大剣を肩に担ぐように構えている。

 その後方ではサポートの若い魔術師が何やら魔法を行使すべく詠唱を始めていた。

 魔法の技量はレナの方が遥かに上回っていそうなので、レナに任せておけば問題ないだろう。

 現に魔術師が放った火炎魔法をレナは無詠唱で無効化してみせた。

 会場内にどよめきが広がる。


(何度か使ってみたけど、この指輪の力は凄い。私の魔力を効率よく最大限に引き出してくれる)


 魔法が思い通り、即座に行使できる。

 レナはゼロに託された魔導具の指輪の力に感動すら覚えていた。

 ゼロは相手の魔術師を脅威対象から外すと正面に立つミラーに視線を向けた。


「シーナさんの言うとおり、死霊術の力を示してみますか」


 ゼロはスケルトンナイトとスペクターを召喚した。

 ゼロの足下から這い出してきた白骨の騎士と空間の歪みから現れたローブを纏うスペクターの姿に会場は驚きの声に包まれた。

 ミラーもその様子を油断無く観察している。


「行きなさい!」


 ゼロの命令に従ってスケルトンナイトとスペクターが前進する。

 魔術師の青年がアンデッドを阻もうとするが、その魔法はことごとくレナに無効化された。

 サポートの魔法が通用しないことを悟ったミラーは己が剣によって状況を変えるべく自ら前に出た。


「ネクロマンサーの力、この目で見極めてやる!」


 大剣を軽々と振りかざしスケルトンナイトに切りかかる。

 しかし、相手は近接戦ではゼロが最も信頼を置いているスケルトンナイトだ、嵐のように繰り出される大剣の攻撃を紙一重で躱しながらサーベルで渡り合う。

 切り結ぶスケルトンナイトとミラーの隙を突いてスペクターの魔法攻撃が襲う。

 魔術師の若者が魔法防御を展開しようとするがそれもレナに阻まれる。

 こうなっては完全にサポートは当てにならないが、そこは国境警備隊という最前線に立つ戦士だ、魔物や盗賊等との交戦の機会も多く、実戦経験も豊富なのだろう、スペクターの攻撃すらも弾き返しながらスケルトンナイトと互角以上に渡り合う。

 それどころかスケルトンナイトとスペクターを相手にまだ余裕がある。


「流石ですね」


 アンデッドだけでは荷が重いと思いつつも戦況を見極めていたゼロだがその予想通りこのままでは勝利することは叶わない。

 ゼロは剣を構えて駆け出した。


「ミラー隊長!奴が来ます!」


 魔術師が警告するが、その程度のことはミラーも察知している。

 むしろその瞬間こそを待っていたのだ。

 アンデッドを相手にしていくら倒してもゼロを倒さなければ勝利はない。

 そのゼロを間合いに誘い込まなければならなかったが、今まさにゼロがその間合いに入ってきてくれたのだ。


「待っていたぜ!」


 勝機を見出したミラーは目の前のスケルトンナイトを弾き飛ばしてゼロに飛びかかった。

 スケルトンナイトは直ぐに体勢を立て直すが、ミラーを取り逃がしてしまう。

 ゼロの頭部を狙って大上段から振り下ろされる大剣、まともに受ければただでは済まないが、ゼロは剣を斜めに構えて大剣を受け流した。

 ミラーは続けざまに大剣を繰り出すが、ゼロはその攻撃を躱したり受け流したりと捌いていく。

 ミラーの攻撃は大振りながら竜巻のように激しいため、スケルトンナイトが援護しようとも踏み込めずにいる。

 スペクターが援護の魔法攻撃を繰り出すも、ミラーはゼロを攻撃しながらもその魔法を跳ね返す。

 精鋭の国境警備隊中隊長の地位と昨年3位は伊達ではない。

 ゼロは更にスペクターを召喚して戦いに投入した。

 今、闘技場でミラーと戦っているのはゼロとスケルトンナイト1体、スペクター2体だ。

 会場の声援はミラーに向けられ、ゼロには激しいブーイングが浴びせられている。

 その様子を見ていたレナは不思議な感覚を覚えた。

 確かにゼロに対してブーイングが飛び交っているが、それが真の意味での畏怖や軽蔑に思えない。

 言うなれば舞台劇で正義の騎士と対決する悪役に向けるようなもの。

 娯楽性の高い大会を盛り上げる悪役になっているのである。

 このまま勝ち上がればただの悪役から正義の騎士のライバルの闇騎士のような立場になり、シーナの狙いどおりダークヒーローと見られるだろう。


「なるほどね、これがシーナさんの狙いか」


 レナは片手間で青年魔術師の魔法を無効化しながら会場を眺めていた。


「そうなると、私は悪の騎士に付き従う闇の魔術師ってとこかしら?そうしたら真の黒幕がシーナさん?」


 想像してレナは笑った。

 そのレナの余裕が余計に場を盛り上げる。

 しかも、意外なことにゼロに向けられるのはブーイングだけではない。

 レナは気づいていないがセシル・エルフォードを始めとしたエルフォード家の使用人達が観客席に陣取っている。

 次の試合のマイルズを応援するためだが、恩義あるゼロの試合ともあれば総出で応援するのも当然である。

 更に観客の中には


「あのネクロマンサーも凄いぞ!」

「あのミラーと互角にやりあってる!なかなか面白い奴じゃないか」


等と初めて見るネクロマンサーの術に驚きながらもその禍々しい術を駆使しながらミラーと対等に渡り合うゼロを応援する声も僅かながらあった。

 その矢先、ミラーの剣の直撃を受けたゼロが吹き飛ばされた。

 そのまま数メートル飛ばされ、闘技場に叩きつけられて転がる。

 会場の興奮度が一層高まった。


「ゼロッ!」


 レナが思わず声を上げるが、その間にゼロは体勢を立て直して立ち上がった。


「捕らえたかと思ったが流されたか。剣技といい体捌きといい、流石だな。死霊術だけではないということか」


 ここにきて初めてミラーはゼロに声を掛けた。

 ミラーの言うとおり激しく飛ばされたように見えたゼロだが、然したるダメージを受けていない。

 ミラーの大剣の直撃を受ける瞬間に自らの剣で受け止め、そのまま身体を預けて勢いを受け流したため派手に飛ばされたように見えたが、攻撃のダメージは殆ど受けていないのであった。


「まあ、使役するアンデッドよりも弱くては話しになりませんからね」


 ゼロが不敵に笑うが、ミラーもニヤリと笑みを浮かべた。


「となると、一番手強いのはお前ってことだな。スマンな、お前の実力を見くびっていたぜ」


 ミラーは剣を構え直した。

 そして2人は再び激しく激突した。

 ミラーの激しい攻撃をかいくぐってゼロが切りかかり、それをミラーが受け止める。

 真正面からぶつかり合う2人の剣技に先程まで盛り上がっていた観客は一転して息を飲み、静まり返っていた。

 勝利の大本命たるミラーもさることながら、ゼロの剣技にも目を奪われているのだ。

 切り結んでは間合いを取り、再び激しく切り結ぶ。

 それを繰り返している間にミラーは徐々にゼロの術中に嵌まっていった。

 激しい衝突を繰り返し、ミラーの気がゼロに集中した時、一瞬の隙を突いてそれまで動きを止めていたスペクター2体とスケルトンナイトがミラーに襲いかかった。


「チッ!」


 油断していたつもりはないが、意識がゼロに集中してしまった。

 だがしかし、アンデッドの攻撃はミラーにとって脅威ではない。

 背後から切りかかるスケルトンナイトに体当たりをして押し戻し、正面と横合いからのスペクターの魔法を躱した、と思ったその時、目の前のスペクターを突き抜けるようにゼロが飛び込んできて真正面からミラーを突いた。


バキンッ!!


 何かが弾けるような音が響いてミラーが吹き飛ばされる。

 ミラーの魔導具が壊れ、勝敗が決した瞬間だった。


 会場内を包む静寂、そして響き渡る声


「勝負あり!風の都市のネクロマンサー、ゼロの勝利っ!」


 勝利宣言の後に会場がどよめきに包まれた。


「卑怯だぞっ!」


 別にルールに反している訳ではないが、観客の勝手なブーイングが上がるが、それだけではない。


「あのミラーを倒したぞ!」

「あいつ剣技もすげえぞ!」


 観客の驚嘆の声が響き渡った。

 そんな中でゼロは剣を収め、アンデッドを冥界の狭間に帰す。

 倒れていたミラーも立ち上がり、ゼロを一瞥して笑みを浮かべて頷くと無言で立ち去っていった。

 ゼロも歓声とブーイングの入り混じる中、踵を返すと歩き出し、サポートのレナを従えて会場を後にした。

 こうしてゼロは闘技大会の第1回戦を勝ち抜いたのであった。

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