ネクロマンサーの御守り2
その後、ゼロはエルフの森を訪れてハイエルフ、シルバーエルフの族長にそれぞれ感謝を述べたが、シルバーエルフの里で再会したイズとリズの双子のエルフから森の再生が順調に進んでいることを聞いた。
いがみ合いをしていたハイエルフとシルバーエルフが協力したことで精霊の活動が活発になり、みるみるうちに森が蘇っているらしい。
森の再生に目処がついたらイズとリズは森を出て冒険者になる予定だとのことだった。
双子のエルフは声を揃えて
「いつの日か、ゼロ様と肩を並べられるように精進します」
と話しており、それを聞いたゼロが
「エレメンタルイーターの時には精霊がいなかったから問題ありませんが、死霊術師のアンデッドと精霊使いの精霊は仲が悪いですよ」
と冗談混じりに笑った。
そして、感謝の挨拶を一通り回り終えたゼロは最後にエルフォード家の屋敷を訪れた。
いかに偏屈なゼロとはいえ、今回は当主のセシル・エルフォードにも直接礼を述べなければならないと考えていた。
ゼロが屋敷に到着すると門の前でエルフォード家の執事でありゼロの友人でもあるマイルズが待っていた。
「ゼロ殿、ようこそおいでくださいました」
相変わらず一分の隙もない作法でゼロを迎えたマイルズ。
「急な訪問になり申し訳ありません、どうしてもお礼に伺わなければいけないと思いました」
「何を仰いますか、当家はゼロ殿に閉ざす門を有してはおりませんぞ」
しっかりと握手した2人はマイルズの案内で敷地内に入った。
広い庭を抜けた先にある大きな屋敷の扉の前で1人の少女がゼロを待っていた。
背後にはメイド長が控えている。
エルフォード家当主セシル・エルフォードその人である。
ゼロはセシルの前に立ち、深々と頭を下げた。
「この度はエルフォード家の方々に大変な助力をいただきました。おかげで無事に開放されましたのでお礼のご挨拶に伺いました」
そんなゼロを凛とした表情で見ていたセシルだが、ゼロが頭を上げると逆にカーテシーを披露した。
「お待ちしておりました。お会いできることを楽しみにしていました。と、堅苦しい挨拶はここまでにしましょう。どうぞ、お入りください。お茶の準備もしています」
ゼロは屋敷内のセシルの執務室に案内された。
大きなテーブルにお茶が用意されたが、卓に着くのはセシルとゼロだけでなく、マイルズやメイド長も座り、リラックスした雰囲気でのお茶の席になった。
その席でゼロは持参したアミュレットを差し出した。
その数はセシルやマイルズの分だけでなく、使用人達全員分だった。
ゼロからアミュレットの意味を聞いたセシルやマイルズ、メイド長までが笑っている。
「まぁ、ゼロ様は勇猛果敢な冒険者と聞いておりましたのに、そんなゼロ様がトマトが苦手だなんて」
「いやいや、勇猛果敢ってのも疑問ですよ?私はそんな大それた者じゃないですよ」
謙遜するゼロだが、そんなことはお構いなしにセシルはマイルズとメイド長に向かって指示を出す。
「今後、ゼロ様が当家を訪問した際にお出しする食物にトマトを使うことは厳禁です。これは私の命令ですよ」
「かしこまりました。幸いにして本日の夕食の献立にトマトは使用されておりません」
「我が友を苦しめるようなことは許されるものではありませんな」
セシルの指示にメイド長もマイルズも笑いながら答えた。
「よろしい。で、ゼロ様は本日は当家に御滞在していただけますのでしょう?」
「いえ、お礼に伺っただけなので早々にお暇しようかと・・・」
「だめですよ、本日はお泊まりくださいませ。夕食やお部屋の準備もしてありますし、マイルズも楽しみにしていたのですから、今宵は付き合ってあげてくださいませ。当家はゼロ様に閉ざす門は有しておりませんが、当家を去ろうとするゼロ様をお止めする門は幾らでもありますよ」
そこまで言われたら断ることも出来ずにゼロはエルフォード家に宿泊することにした。
「しかし、今回の騒動の後に交渉に来た聖務院の担当者に聞きました。エルフォード家の皆さんの助力にはどれほど感謝してもしきれません。家の立場も危うくなりかねなかったでしょう。本当にありがとうございました」
改めてのゼロの感謝にセシルは悪戯っぽく笑いながら首を振った。
「そんなことはありません。当家がゼロ様に受けたご恩に比べればどれほどのものでもありません。それに、当家は聖務院に手紙を出しただけです。内容はちょっと?過激だったかもしれませんが。それに、もしも手紙の内容が実行されたとしても当家は痛くも痒くもありません。むしろ困るのは聖務院ですよ」
「それに、セシル様が決断しなければマイルズさんが剣を手に飛び出すところだったのですよ」
年配のメイド長の言葉にマイルズが照れくさそうな様子を見せた。
そしてセシルはゼロを真っ直ぐに見た。
「マイルズの友を思う気持ち、男同士の友情に正直申し上げて嫉妬してしまいました。ですので、私もゼロ様の友達にしてもらいたいのですが、如何ですか?」
「それでしたら私もご相伴にあずかりたいですわ」
セシルとメイド長の申し出をゼロは断ることは出来なかった。
「分かりました。私とエルフォード家の皆さんは固い友情で結ばせていただきます。エルフォード家で困ったことがあれば私は私の力の全力を尽くしてエルフォード家を守らせてもらいます」
ゼロの言葉にセシルもメイド長もマイルズも嬉しそうに頷いた。
その後は穏やかな時間が過ぎたが、その中でセシルはゼロに一つの願いを申し出た。
「ゼロ様、エレナお婆様を救ってくれたアンデッドの方々に私を会わせていただけないでしょうか?」
「いや、流石に彼等をここに呼ぶのは・・・」
「大丈夫です。直接皆さんに会ってお礼を言いたいのです。お願いします」
ゼロは救いを求めてマイルズやメイド長を見るも、2人共笑いながら知らん顔を決め込む。
更に身を乗り出さん勢いのセシルに押されたゼロは観念した。
「分かりました。あの時に戦った彼等の主だった者を召喚します。ただ、見た目は怖いですよ?」
「はい、大丈夫です。ぜひお願いします」
ゼロは立ち上がるとバンシーとスペクター、スケルトンナイトを召喚した。
この3体はエレナを守るために実際に戦った上位アンデッドだ。
バンシーはともかくスペクターとスケルトンナイトはあからさまな骸骨であるが、セシルはその3体の前に歩み寄ると、怯える様子もなくしっかりを見据えた。
そしてその3体を前に深々と頭を下げた。
「お初にお目にかかります。エルフォード家当主セシル・エルフォードです。皆様には祖母を救っていただきまして心より感謝申し上げます」
丁寧に礼を述べるセシルにスケルトンナイトはサーベルを捧げて敬礼し、スペクターは膝を折って頭を下げた。
そしてバンシーはカーテシーで答えた上に瞳に涙を浮かべたままで微笑んで口を開いた。
「セシル・エルフォード様、アンデッドの私達にまでお礼をくださるなんて、言葉を発することが出来ない他の者を代表して私から御礼申し上げます。私達は主様の忠実な下僕です。主様が貴方様の友となるならば、私達は主様の守る貴方様をお守りします」
バンシーの言葉にスペクターもスケルトンナイトも頷いた。
その様子を見たセシルは3体のアンデッドに手を差し出し、それぞれと握手をした。
その夜、ゼロはセシルを始めとしたエルフォード家の者達と夕食を共にし、食事の後はマイルズと2人で遅くまで酒を酌み交わし、語り合ったのだった。




