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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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特務兵との戦い5

 アランとイザベラは次々と迫り来るアンデッドを相手に立ち回っていた。

 彼等の実力を持ってすれば向かってくるアンデッドなど取るに足らないものであるが、問題はその数である。

 倒しても倒しても次々と迫り来るアンデッドとの戦いはゼロの狙いどおり体力と気力を削られる。


「気をつけろ、そろそろ奴等がくるぞ」

「心得てますわ。それを待っていますの」


 アランもイザベラも目の前の冒険者が参戦し、乱戦になることを狙っていた。

 やがて、アランに向かってライズが突進してきて切りかかってきた。

 ライズの参戦に呼応してアランに向かってきていたスケルトンウォリアーが攻撃目標をイザベラにシフトする。

 とはいえ、アランとライズの一騎打ちになったわけではない。

 2人の戦いの外側からスペクターやウィル・オー・ザ・ウィスプが魔法攻撃を仕掛けてくる。

 それはゼロが言ったとおり、ライズに取っては抜群のタイミング、アランにしてみれば実に嫌なタイミングで攻撃してくるのだ。

 それに加えて少しでも隙があればイリーナの矢が飛んでくる。

 しかし、その状況下でもアランはライズと互角に戦っていた。

 一方でイザベラはというと、自分に向かうスケルトンウォリアーが増えたにも関わらず実に鮮やかなサーベル捌きでスケルトンウォリアーを討ち減らしていく。 


「頃合いですね」


 その様子を見ていたゼロは剣を手に歩き出した。


「ゼロ?」


 気付いたレナが続こうとするが、ゼロはそれを制した。


「この辺りで有効な打撃を加える必要があります。でなければこちらも手詰まりですからね。レナさんはそこで援護してください」


 言いながらゼロは剣を脇に構えて一気に距離を詰める。

(・・・い・・・マ・・・)

 ゼロの頭の中に空耳のような声が微かに聞こえたが、それを無視して駆ける。

 ゼロの接近に合わせてスケルトンウォリアー達が道を開け、イザベラの懐に飛び込んだゼロは低い体勢から剣を切り上げた。

 イザベラは身体を捻って剣を躱し、ゼロが切り返す間隙を突いてサーベルを突き出す。

 ゼロは飛び退いて間合いを取り、剣を正眼に構えた。

 2人の周囲をスケルトンウォリアーが取り囲んでイザベラの隙を窺っている。


「ネクロマンサーとの戦いは初めてですけど、確かに厄介ですわね」


 イザベラがまるで新しい遊びを覚えたかのように楽しそうに笑った。

 そんなイザベラに対峙するゼロの表情に余裕はない。

 イザベラの一挙手一投足に細心の注意を払い、攻撃のチャンスを探る。

 そんなゼロの脳裏に再び声が響く。

(・・・い、・・スター)

 ゼロは険しい表情で脳裏の声を振り払った。


「そんなに怖い顔をしないでくださいな。レディに対して失礼ですわよ」

「失礼は承知してますが、私も余裕がないのでっ!」


 再びゼロが切りかかり、剣を受け止めたイザベラに体当たりしてその体勢を崩そうとしたが、イザベラは何の躊躇もなくゼロの剣を受け止めたサーベルを手放した上にゼロの側頭部目がけて蹴りを繰り出してきた。

 力を受け流されたゼロもバランスを崩しながらも剣を切り上げようとしたが、その切っ先もイザベラに躱されてドレスの裾を切り裂いただけだ。

 それどころか、剣を躱したイザベラの蹴りをまとも喰らったゼロがその勢いで吹き飛ばされた。

 ゼロが地面に叩きつけられるその間にイザベラはサーベルを回収してゼロに追撃をかける。

 地面を転がるゼロは体勢の立て直しが間に合わない。


「ゼロッ!」


 レナが援護の雷撃魔法を繰り出すが、イザベラはその攻撃をヒラヒラと身を翻してゼロの目前に迫る。

 ゼロは咄嗟に防御しようとするが、イザベラのサーベルの方が早い。


「いただきますわよっ!」


 イザベラが勝利を確信したその時、横合いからバンシーが捨て身で飛び付いてきて氷結魔法を叩き込む。

 バンシーの攻撃もイザベラには通用しないが、バンシーを振りほどいた時にはゼロの前にスケルトンウォリアーが防御壁を築き、レナが魔力を最大まで高めてイザベラに狙いをつける。

 膨大な魔力にレナの周囲の空気が帯電し、火花が散った。


「下がりなさい!いくら貴女でも直撃を受けたらただでは済まないわよ」


 レナの警告にイザベラは距離を取って呼吸を整える。


「ホント、たいしたものですわ。私の息が上がるなんてね」


 久々に呼吸を乱したイザベラだが、彼女にはまだ余裕がある。

 その間にもゼロの頭の中にはゼロに呼び掛ける声が続く。

(私・お呼びくだ・い、マス・ー。私に機会をお与え・・さい)


「貴方はまだ早い」


 ゼロは再びその声を振り払って目の前の戦いに集中した。



 離れた場所で戦うライズ達も睨み合いになっているが、ライズ、イリーナとゼロのアンデッドが抜群の連携で立ち向かっても互角の勝負に持ち込むのがやっとである。


「流石にキツいな」


 流れる汗を払う暇もないライズが呟いた。


 その場にいた全員が動きを止め、膠着状態に陥った。

 ゼロもイザベラと距離を取り状況を見極める。

 ゼロの背後にはレナが寄り添っているが、その魔力は極限まで高められたままだ。


「・・・やはり、桁違いですね」


 ゼロは何かを悟ったように呟いた。

 そしてライズとイリーナを見る。


「ライズさん、イリーナさん。どうやらここまでのようです。これ以上巻き込むわけにもいきません。貴方達が離脱する時間を稼ぎますので逃げてくれませんか?」


 ゼロの声をライズは鼻で笑う。


「バカ言うな!確かにお前を助けるつもりで首を突っ込んだがな、ここまできたら俺達の面子の問題だ。逃げるなんて有り得ないぜ!」


 イリーナも笑って頷く。

 ゼロは肩を竦めて背後にいるレナを見た。


「レナさん・・・」

「私に同じことを言ったらひっぱたくわよ」

「・・・・・」


 その様子を見ていたアランが呆れた様子で口を開く。


「お前達、好き勝手に言っているが、俺達が易々と見逃すとでも思っているのか?」

「簡単ではありませんがね、貴方達を一定時間ここに釘付けにする程度なら手はあります。上手くいけばどちらか1人位は道連れにできるかもしれません」


 淡々と答えるゼロの言葉を聞いたレナはゼロを睨む。

(やっぱり死ぬ気だったのね。そんなことはさせないし、もしも死ぬのなら・・・)

 レナは覚悟を決めた。


 その時、膠着状態の双方の間に割って入る者がいた。

 馬を駆って現れたのは全身を包むフルプレートを着た騎士、聖務院に所属する聖騎士の鎧とは違う。

 しかし、彼?の持つ旗槍に翻る旗には太陽の下に秩序を示す天秤があしらわれている。

 聖務院の旗印だ。

 加えてその騎士から漂う気はアランやイザベラに勝るとも劣らない程だ。


「ヘルムント?どうしましたの?」


 イザベラの声にゼロ達は今度こそ窮地に落とされた。

 アランとイザベラの2人でも手に余るのに、更なる介入者、おそらくは特務兵が加わるとなると勝ち目も逃げる術もなくなる。


「こりゃあエラいことになったな、ゼロ」


 ライズの問いかけにゼロも頷く。


「こうなったら最後の手段を使います。その後のことは責任が持てませんが」

「おっ?何か面白いものをみせてくれんのか?あの世に行く土産くらいにはなるのか?」

「それは保証しますよ」


 ゼロが魔力を極限まで高めて最後の手段である「彼」を召喚しようとしたその時、新たに現れた騎士がそれを制した。


「待たれよ!我は加勢に来たわけではない」


 そしてアランとイザベラに向き直り伝えた。


「伝令。新たな命令を告げる。任務中止、直ちに帰還せよ」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 声の方が身体より早い。 戦いを止めたければ任務中止とか叫ぶのでは? また、アンデッドがある程度敵二人を囲ってるなら誰かの視野にも入りそう。敵の援軍にしか見えない存在来たら自我があるなら…
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