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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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エルフォードの亡霊1

 屋敷に向かう道すがら、ゼロはマイルズからの聞き取りを行っていた。


「すると、亡霊が出るようになったのは4ヵ月程前で、その頃からエレナさんの体調が悪くなったと?因みに、医師には診せましたか?」

「当然ながら当家の主治医に診てもらっておりますが、原因も病名も分からずです。ただ、発熱を繰り返して消耗が進んでいます」

「なるほど。もう一つお伺いします。亡霊が出るとのことですが、実際に姿を見た者はいますか?」

「それにつきましては当家の使用人で複数名が目の当たりにしています。主に白い影のような存在で、主人のベッドの周りを飛び回っているとか、屋敷の廊下を移動しているとかで、具体的な容姿は不明です。実を言えば私も白い影が主人の居室に入っていくのを見たことがあります」

「そうですか。それで、体調に不調が出たのはエレナさんだけですか?」

「はい、当家には私を含めて20名が住み込みで働き、通いの者が他に5名おりますが、体調を崩した者は居りません」

「分かりました。後は実際に調査してみましょう」


 聞き取りを終えたゼロは思い出したかのように再び口を開いた。


「そういえば、エルフォード家とは有力な貴族ですよね?」

「はい、当家は何代にも渡って王家に仕える由緒正しき貴族です。先代がお亡くなりになってその1人娘だったエレナ様が現在の当主となりかれこれ50年程になります。その間にご結婚され、跡取りとなる男子のアスラン様を授かりましたが、このアスラン様は若くして病気で亡くなっております。今当家縁の者はエレナ様とアスラン様のご息女のセシル様のみです」

「その有力貴族が死霊術師なんかと契約をして大丈夫なんですか?評判とか、悪くなるのでは?」

「失礼ながら、その懸念はありました。しかし、家の評判を気にしてエレナ様に万が一のことがあっては本末転倒というものです。正直申し上げて私達はなりふり構っている暇はないのです。そして何より当家の名はネクロマンサーを招き入れた、その程度で揺らぐものではありません」


 マイルズの返答を聞いたゼロは今度こそ口を閉じた。



 やがて馬車はエルフォード家の屋敷に到着した。

 馬車から降りたゼロは屋敷の大きさに圧倒される。


「初めて貴族のお屋敷に来ましたが、立派なものですね」


 感心するゼロだが


「当家は質素を旨としておりますのでこの屋敷など他家に比べたら小さな方です」


マイルズが涼しい顔で返答する。


「そうですか。私の家なんぞそちらにある小屋位のものですよ」


と大きな庭の片隅にある建物を指差せば


「左様でございますか」


の一言のみ。

 流石にマイルズもその建物が庭師用の道具の保管庫だとは言わず、ゼロを屋敷内に案内する。


 ゼロは屋敷の応接室に通された。

 席に着くと直ぐにメイドが紅茶とお茶菓子を運んでくる。

 応接室で待つこと半刻程、当主にゼロの到着を伝えに行ったマイルズが戻ってきた。


「本日はエレナ様の体調がよろしいようで、直接ご挨拶したいとのことです。ただ、床に着いたままでの失礼をご容赦ください」

「大丈夫ですよ。ただ、エレナさんからも少しだけお話しを伺いたいので了解してください。短時間で済ませます」

「承知しました。ではご案内します」


 マイルズの案内でエレナの寝室に入るとベッドの上に腰掛けた老婦人がゼロを待っていた。


「私がエレナ・エルフォードです」


 エレナ・エルフォードは長年に渡りエルフォード家を守ってきた女性当主であった。

 聞くところによれば年齢は79歳、やせ細り、1日の大半をベッドで過ごしているというが、その瞳だけはしっかりとゼロを見据えている。


「依頼を受けて参りましたゼロと申します」

「このような格好で失礼します。今日は気分はいいのですが、体の方がね、気持ちに付いてこないのです」

「お気遣いなく。早速ですが、時間を取らせたくないので、単刀直入にお伺いします。エレナさんは件の亡霊を見たことがありますか?または、何か心当たりは?」


 エレナは首を振った。


「私自身は何も見ておりません。心当たりといっても、貴族という立場上、色々とありまして、具体的にはなんとも・・・」

「分かりました。早速調査に入らせていただきます」

「宜しくお願いします。家のことはマイルズに任せておりますので何なりと申し付けください」


 ゼロはエレナの体調を考慮して聞き取りを切り上げた。

 その後は再び応接室に戻りマイルズと打ち合わせを行った。


「早速調査に入りますが、何分にも貴族の生活というのは全く分かりません。調査にあたり、入ってはいけない場所とか、触れてはいけない物とか、何か制限はありますか?」

「特にございません。流石に手当たり次第に物を壊されては困りますが、必要があるならば家屋や美術品の破壊も吝かではありません。とは言ってもゼロ殿も勝手が分からないでしょうから当家の者をゼロ殿の調査に同行させます。まあ、正直申し上げて監視という側面もございますが、基本的にゼロ殿の行動は制限しませんので調査に専念していただいて結構です」


 マイルズは手元の鈴を鳴らした。

直ぐに1人のメイドが部屋に入ってくる。


「本日のゼロ殿の担当です。私も含めて家の用務もございますので担当は日替わりで当たらせていただきます」


 メイドはゼロに一礼する。


「ゼロです。宜しくお願いします」


 ゼロは立ち上がり調査を開始することにした。


 1日目は屋敷の敷地内の調査に費やした。

 飾られている美術品や花木に至るまで亡霊の潜みそうな場所を調査するも何も見つけることは出来なかった。

 しかし、その夜、屋敷内の警戒に当たっていたゼロは異変を察知した。


「死霊の気の流れを感じます」


 突然駆け出したゼロと後を追うメイドはエレナの寝室前の廊下を浮遊する白い影を見た。


「あれですか?」


 ゼロは背後に控えるメイドに問い掛けた。

 そのメイドも亡霊を見た1人のようで、血の気の失せた表情で何度も頷いた。

 ゼロはゆっくりと近づいて亡霊を観察する。

 精神体系のアンデッド、レイスの類だろうか、うっすらと人の形をしているが、その輪郭がはっきりしない、力が弱まっているようだ。

 しかも体つきが小さい。


「子供ですか?」


 亡霊はゼロに気がついていて警戒しているようだが、逃げる様子もない。

 ゼロはゆっくりと亡霊の前に膝をついた。


「こんばんは、君のことを教えてください」


 ゼロは亡霊に手を翳して少しずつ魔力を送った。

 徐々に輪郭を取り戻していく亡霊、その姿は10歳前後の少女だった。

 その瞳はゼロに何かを訴えかけているが力が弱すぎて意志の疎通ができない。


「困りましたね。君の声を聞くことができません」


 やがて諦めたように少女の亡霊は姿を消した。

 ゼロは立ち上がった。


「これは少し事情が違いそうですね」


 ゼロはひたすらに違和感を覚えていた。

 少女の亡霊と意思の疎通は出来なかったが、彼女はゼロに力を求めていた。

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