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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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勝利の栄光

「・・・行っちまいやがった」


 ライズが途方に暮れる。


「兄様!ゼロ様が、ゼロ様がっ!」


 兄にすがって泣くリズ。

 冥府の門が姿を消し、ゼロが居なくなったその場で皆が愕然としていた。

 レナも膝をついて嗚咽を漏らしている。


 その周囲では亡者達を殲滅させたアンデッド達が次々と姿を消していく。

 最後に残ったのはオメガ、アルファ、サーベル、スピア、シールドの5体。

 オックスがオメガに歩み寄る。


「ゼロがどうなったか分からんか?お前達でどうにかならないのか?」


 オックスの問いにオメガが無念そうに首を振る。


「私達でも冥府の門の中に落ちたマスターの状況は分かりませんし、どうすることもできません。ただ、私達が顕現できている以上はマスターが向こう側で生きているのは間違いありません。ただ、門が閉じてしまった今、マスターからのお力が届かなくなりつつあります。私達もお供したかったのですが、最後のマスターの命令に逆らうことができませんでした」


 オメガは無念そうに俯いた。

 

「そうするとゼロが居なくなった今、お前達はどうするんだ?」


 今度はアルファが前に出る。


「主様のお力を得られなくなった今、私達は力が弱まっていますので狭間の世界に戻ります。主様は申されました、戻らなければ私達を解放する、輪廻の門を潜れと・・・」

「そうすると、お前達も旅立つのか?」

「いえ、主様は何時までに戻らなければ、とは申しておりません。ですので、私達は主様のお帰りをお待ちします。そう、何百年でもお待ちします。私達は主様に捨てられるまでは主様以外にお仕えすることも、輪廻の門を潜ることもありません」


 オメガ達の姿が薄れていく。

 サーベル、スピア、シールドは軍隊式の敬礼をしつつ姿を消した。

 オメガは舞台の閉幕のように恭しく礼をし、アルファはカーテシーをしつつ消えていった。

 残されたのはオックス達8人。

 オックスは床に刺さったゼロの剣を抜いた。

 激しい戦いを潜り抜けた筈のゼロの剣は刃こぼれ1つない。


「見事な剣だ。剣に魂が込められているようだ・・・」


 オックスは膝をついて泣いているレナの肩に手をかけた。


「この剣はお前が持ち帰れ。ゼロがいつ戻ってもいいようにグラント師に託すんだ」

 

 顔を上げたレナはオックスからゼロの剣を受け取り、リリスとイリーナに促されて立ち上がった。

 オックスが皆を取りまとめる。


「ゼロが魔王を始末したんだ。ここにいても仕方ない。俺達も外に出よう」

  

 ライズも周囲に残党がいないことを確認したうえで剣を収めた。


「そうだな。もう1人の魔王がどうなったかも分からないし、ゼロのこともギルドやら軍務省に報告しなければならないからな。俺達がするべきことはまだ残っているし、ゼロのことだ、いずれはしれっと帰ってくるだろうよ。俺はゼロを信じるぜ!」


 努めて明るく声を上げた。


「そうだな、我々がゼロ様のことを信じられなくてどうする。ゼロ様はどんな危機でも乗り越えられる強さを持っているんだ!」

「そうね兄様、私達はゼロ様を信じてここまで付いて来たのでしたね。何があってもゼロ様は帰ってくると信じなければいけません」


 イズと涙を拭いたリズも頷きあっている。

 ライズの言葉に皆が気持ちを切り替え、地下墳墓の外へと歩き出した。

 そんな中でレナだけが皆に背を向けたままだ。

 

「気持ちの整理をつけたら私も外に出るから、少しだけ1人にして」


 レナの言葉に皆は顔を見合わせた。

 オックスが黙って頷き、レナを残して皆は地下墳墓を後にした。


 1人残ったレナはゼロが門と共に消えた場所を見つめる。


「ゼロ、あの時に貴方に出会い、助けられてから、私の人生は貴方に助けられ、振り回され、置いてけぼりばかりだったわ。そして私の心の中は貴方で一杯になった。貴方に出会う前の私は1人でも生き抜いていけると自負していたけど、今はダメ。貴方と一緒に生きていきたい。だから、どれだけ時間が掛かってもいいから必ず帰ってきなさい。帰ってきたならば、今度は絶対に逃がさない。片時たりとも貴方の側から離れないから・・・」


 その手に抱く抜き身のままのゼロの剣を見る。

 収めるべき鞘はゼロと共に冥府に落ちた。

 

「貴方の剣と共にいつまでも待っているわ」


 言葉を残すとレナは振り返ることなく地下墳墓を後にした。


 ゼロとゴッセルが冥府の底に落ちたそのころ、ゴッセルと戦っているレオン達は更なる窮地に陥っていた。

 ゴッセルの猛攻に守りの要だったセイラは限界を越えて気力だけで祈りを続けており、セイラの援護に回ったイザベラとアランも限界が近い。


「貴様等の力はそんなものか!怯えて守っているだけでは余を倒すことはできぬぞ」


 レオン達をあざ笑うゴッセル。

 そんな中でレオンは反撃の機会を窺っていた。

 たとえ一瞬の隙を見いだして一矢報いることができても一撃で倒すことはできないだろう。

 それでもレオンは一撃のチャンスを狙っていた。

 その時


「・・まさかっ・・・余が・・・」


ゴッセルが攻撃の手を止めて後ずさる。

 その瞬間をレオン達は見逃さなかった。


「今だっ!」


 レオンが槍を構えてゴッセルに飛びかかる。

 そのレオンをセイラの最後の力を振り絞った加護の祈りが包む。


「勝負っ!」


 加護の光に包まれたレオンの槍がゴッセルの胸に深々と突き刺さった。

 

「ぐあぁぁっ!馬鹿なっ!」


 ゴッセルが膝を付くがその手をレオンの首に伸ばして締め上げる。


「クッ!ま・負けるかっ!」


 苦痛に顔を歪めながらもレオンは槍を離さない。

 イザベラとアランが飛び出してレオンの首を締めるゴッセルの腕を斬り飛ばした。


「おぉぉっ!あり得ぬぞ、余が敗北するなどあり得ぬ!」


 イザベラ、アランがゴッセルの首にサーベルと剣を差し込み、レオンは渾身の力を込めて更に深々と槍を突き刺し、貫いた。

 ゴッセルの身体を青い炎が包み始める。


「・・あり得ぬ・・・あの・死霊術師か・・・あぁ・・眠い・」


 青い炎に焼かれたゴッセルは崩れ始めて塵となり、その塵も炎に焼き尽くされた。

 

 レオンはゴッセルが消えた後に残された槍を拾い上げた。

 イザベラとアランも同様だ。


「勝った、のか?」


 レオンが呟く。

 絶体絶命の状況からのあまりにも呆気ない結末に他の者も勝利の実感がわかずに立ち尽くしている。

 勝利した確信を得ることができずにいるのだ。

 そんな中で虚ろな目で天を仰いでいたセイラが口を開いた。


「シーグルの女神の神託が降りました。一対の闇は消え、危機は去った・・・。魔王は滅した」


 セイラの言葉を聞いて皆が顔を見合わせる。


「魔王は滅した?やっぱり勝ったんだ」


 カイルが声を上げた。


「俺達が魔王を倒した・・。でも、最後に奴は死霊術師がどうのって。まさかっ!」


 セイラを護衛してきた怪しげな聖務院職員が言っていた。

 ネクロマンサーのゼロ達が別に行動していると。

 

「ゼロさんが何かしてくれたんじゃないか?そうでなければ俺達が魔王を倒せるなんて考えられない」


 レオンが皆を見渡した。

 そんなレオンにイザベラが笑いかける。


「胸を張りなさい、英雄レオン。例えあのおバカネクロマンサーが何かをしたとしても貴方が魔王を倒したことには変わりはありませんのよ。あの男には後でたっぷりと理由を問いただせばいいだけですわ」


 イザベラに諭されてレオンは頷きながら拳を握りしめる。


「そうだ。俺は・・いや、俺達は魔王に勝ったんだ!色々な人達の力を借りて、魔王を倒したんだ!」


 レオンの声が徐々に高ぶっていく。


「そうですのよ。貴方は勝ったんですのよ!」

「そうだ、少し頼りないが、お前は世界を救った英雄だ。この事実だけは変わらない」


 イザベラとアランもレオンを称える。


「さあ、貴方の仕事はまだまだ終わっていませんのよ。城の外で待つ皆に、世界中の人々に魔王を倒したことを伝えなければなりませんのよ」


 今、レオンは青等級の中位冒険者でありながら勝利の栄光を掴み取り、真の英雄へと成長した。

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