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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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転進

「終わりましたね。流石は魔導院出の魔術師ですね」


 召喚していたアンデッドを返したゼロはレナを見た。

 レナも頷く。

 2人が丘の上で待つシーナの下に戻ってきた丁度その時、南方に配置されていたギルド職員が伝令用の馬で駆けつけてきた。

 トリノという若い男性職員はシーナと同じ中堅職員で、ギルドの会計担当だった。

 戦闘経験が無いためシーナと同じく督戦官と伝令を受け持っていた。

 トリノは南方の戦いが衛士隊の勝利に終わったことと、コボルドの群れは殲滅したが、衛士側も半数以上の損害を出して風の都市に撤退したことを伝えてきた。

 これで南方と西方の戦いは終息したのだが、シーナは胸騒ぎが収まらない。


 北西からの開戦の烽火が上がらない。

 北西には60体程のコボルドが向かっているのに対して40人程の冒険者が配置についていた。

 数で劣るにしても決して遅れを取るような戦力差ではなかった筈だ。

 それが何故、


「やっぱり変です。様子を見に行きます。トリノさんは北方に向かってもらえますか?」


シーナは繋いでいた伝令用の馬に飛び乗った。

 トリノも承諾して北に伝令に向かった。


「すみません、ゼロさん達は後からでいいので北西に向かって戴けますか?」


 言い残してシーナが駆け出そうとするのをゼロが呼び止めた。


「待って下さい。1人では危険です」


 ゼロは再びバンシーを召喚した。


「可能ならば、レナさんに馬に同乗して行ってもらった方が良いです。それに、バンシーを連れて行きなさい」


 レナも頷いた。


「私とシーナさんなら2人乗りでも馬は走れる筈です」


 合わせてゼロの指示を受けたバンシーはふわりと浮き上がってシーナの横に立つ。

 シーナは思わず顔を引きつらせた。


「えっ?あの、彼女はゼロさんから離れても大丈夫なんですか?その、言うことを聞いてくれるってゆうか。ゼロさんの指示が行き届くのかな?ってゆうか」


 シーナはアンデッドと行動することに一抹の不安と恐怖を感じた。


「彼女は大丈夫ですよ。いつも私と離れて行動していたじゃないですか?シーナさんは何度も見てますよね?」

「えっ?私は彼女?に会うのは今日が初めての筈ですけど」

「いや、何度も会ってますよ。私の使いで何度も1人でギルドに行っているじゃないですか?」

「・・・?ええっ!もしかして、あの時のレイスですかっ?」


 シーナの驚きにゼロが不思議そうな表情を浮かべる。


「気付いてなかったんですか?彼女はレイスがクラスチェンジして今のバンシーになったんですよ?」

「ええっ?分かるわけないじゃないですか。以前はもっとこう、怖いってゆうか、今でもちょっと怖いですけど」

「レイスだった時は精神体でしたからね。バンシーにクラスチェンジしたら半分は実体を持つようになったようです」


 バンシーはその泣き声と共に死を運ぶ魔物であることが知られているが、歴としたアンデッドである。

 スケルトンがスケルトンウォリアーにクラスチェンジしたようにレイスからクラスチェンジしたのだった。

 しかし、クラスチェンジして召喚された時にゼロですら


「?レイスからクラスチェンジした??普通はレイスからはスペクターになるのでは?」


と頭を捻っていたほど珍しいクラスチェンジだった。


「とにかく、急いだ方が良いでしょう。大丈夫です。バンシーは貴女を守りますから。私も直ぐに後を追います」


 ゼロに促されてシーナとレナは北西に向かって馬を走らせた。

 しかし、2人は直ぐに馬を止めることになる。

 駆け出して間もなく、前方からこちらに向かう者の姿を見つけたからだった。

 それは北西の配置についていたギルド職員の伝令だった。

 満身創痍で息も絶え絶えの状態の職員は北西が魔物の奇襲を受けて壊滅状態にあり、救援を求めてきたとのことだった。


「まさか、いかに数が多いといってもコボルドの群れにそこまでの被害が出るなんて」


 レナの言葉に伝令は


「現実です。冒険者の皆さんも決して油断していたわけではありませんでしたが、もの凄い速さで奇襲を受けて態勢を立て直す暇もなく。私が伝令に出た時点で半数近い損害を受けていました」


シーナとレナは顔を見合わせる。

 一刻を争う事態だ、直ぐにでも救援に向かわなければならない。

 しかし、ここには戦闘が可能な者がレナしかいない。

 如何にレナの魔法が強力だったとしても数で押されると対処のしようがない。

 魔法攻撃は連携の取れた前衛がいてこそ効果を発揮する。

 後を追ってくるゼロを待つべきではないか。

 実のところ、レナは先の戦いでゼロと共闘する相性の良さを実感していた。

 ゼロがいれば戦況を回復させられると考えたが、ゼロが追いつくのを待っていて間に合うだろうか?


 レナは決断した。


「伝令の方にはゼロを迎えに行ってもらいます。シーナさん、私達は先を急ぎましょう」


 シーナには護衛のバンシーがいる、戦闘の直中に飛び込まなければ大丈夫のはずだ。

 自分はゼロが来るまでの間だけ持たせればいい。

 その程度ならば自分1人でも大丈夫だ。


 レナの言葉にシーナも覚悟を決めた。


「行きましょう。私は戦いでは役に立たないでしょうが、怪我人の応急手当て位はできます。2人で力を合わせて・・3人ですね。ゼロさんが到着するまで頑張りましょう」


 シーナが傍らを浮遊するバンシーに目を向ける。

 バンシーは涙を流し続ける瞳でニッコリと微笑んだ。


 シーナが手渡した治療薬を飲み干した伝令がゼロを迎えに駆け出すのを見送ったレナ達は再び北西に向かって急いだ。


 レナ達が北西に到着した時に見た光景は凄惨なものだった。

 冒険者の生存者は十数名、何とか守りを固めて敵に対峙している。

 その中にはセイラやアイリアの姿もある。

 むしろ生き残っているのは後方にいた新米冒険者達だった。


 敵方を見れば、その数は40を超え、冒険者を包囲している。


「コボルドだけじゃない。人狼?」


 レナが敵の異変に気が付いた。

 犬人であるコボルドだけでない、一回り体格が大きいワーウルフが混じっている。

 直ぐに攻めないのは獲物をいたぶる余裕があるからだろうか?

 倒れている冒険者達は、男性はその骸を食い荒らされ、女性冒険者は敵の集団に引きずり込まれて陵辱されている。

 中にはまだ息がある女性冒険者もいるが、生き残りの冒険者は手出しが出来ない。


 レナとシーナは冒険者達の後方から合流する。

 敵にしてみれば、獲物が2匹増えただけ、却って都合がいいとでも思われたのだろうか、手出しをしてこない。


 レナは双方の間に火炎魔法を放ち緩衝地帯を作る。

 生き残りの冒険者が捕らわれている限り、巻き込んでしまう可能性があるので敵の中に直接魔法を撃ち込めない。

 このままでは捕らわれている冒険者を救出することが出来ないが、いずれにせよ現状ではそれは叶わない。


「今のうちに怪我人の治療を!」


 レナの声にセイラや他の聖職者、シーナが負傷者の治療に当たる。

 守りを固めていたのは青等級の重戦士を筆頭に8名の前衛職。

 殆どが茶か白等級の者で、その中にはセイラのパーティーの剣士も含まれていた。

 その背後にレナを含めて3名の魔術師が控える。


「助けにきてくれてありがたいが、このままではどうにもならないぞ。足の速い奴ら相手では逃げ出すこともできねえ。どうしたもんか」

「何とか現状を維持して応援を待ちましょう」


 重戦士の問いにレナは炎の壁を維持しながら答えた。


「しかし、北方はここよりも敵の数が多いはずだ、負けていないにせよ応援を出す余力は無いはずだ」

「北方からではありません。私の後を追ってゼロが向かっています」

「ゼロ?あのネクロマンサーか?」

「そうです。彼と私は2人で60体のオークを壊滅させました。彼が来れば勝機はあります」

「いけ好かない奴だが、そいつは心強いな。おうっ、みんな!間もなく応援が来てくれるぞ。それまで現状を維持するんだ」


 重戦士の言葉に冒険者達は奮い立つ。


 しかし、冒険者達の目に希望の炎が宿ったのを見逃さなかった敵はそれまでのいたぶるような姿勢を止めて一気に獲物を仕留めるべく包囲網を狭めてきた。

 今、敵の攻撃を拒んでいるのはレナが放った火炎による緩衝地帯である。

 レナの魔力が切れて炎の壁が無くなれば敵は一気に攻めてくるだろう。

 そうなったら持ちこたえることはできない。


「やばいな、敵も気合いを入れ直しやがった。あんたのこの炎はどの位持つんだ?」

「あまり、持ちません。・・・持ってあと数分・・・です」


 安全を確保するために広範囲に魔法を放ったせいでレナの魔力も限界に近い。


「こりゃあ、ネクロマンサーも間に合わないかもな。こうなったら仕方ない。いいか!目の前の炎が消えたら敵は襲いかかってくるぞ。だから、前衛の8人は一か八か討って出るぞ!その間に怪我人と後衛は逃げろ!絶対に後ろを振り返るなよ!」


 重戦士も決意した。


「せっかく来てもらって済まなかったな。あんた達も逃げてくれよ」


 戦斧を構えて一歩踏み出す。

 真っ先に飛び出すつもりだろう。

 その間もレナは必死で炎を維持するが、だんだんと火勢が弱まってくる、魔力が限界だった。


「このままで・・・くっ」


 レナの意識が一瞬だけ飛んだ刹那、炎の壁が消え失せた。

 その瞬間に重戦士は雄叫びを上げた。


「行くぞ!1匹でも多く道連れにしてやれ!仲間の脱出を援護するぞ!」


 重戦士達が駆け出したその時


「鉄壁の守りを誇る朽ち果てし守護兵よ、今一度その盾を手に生と死の狭間の門を開け」


背後からの声と共に大きな盾を持ったスケルトンの軍勢が現れて冒険者達を守るように隊列を組んだ。

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