反攻
一騎打ちでゼロに敗れたケルム達竜騎兵は正式に降伏して武装を解除した。
そして全員が竜人の作法に従って両膝を地面につけ、左手を胸に当てて頭を下げた。
「我等全員降伏し、ゼロ殿、ひいてはアイラス王国軍に従います」
代表してケルムが従属の意志を示した。
「どうする?このまま連れて行くのか?」
ワイバーンと竜人達を前にオックスがゼロの判断を仰ぐ。
「いや、救出した人々共々アイラス王国軍に引き渡しましょう。イザベラさんやアランさん達を通じて軍務省に引き渡せば無碍には扱わない筈です」
ゼロの言葉を聞いたライズが首を傾げた。
「捕虜として引き渡すよりもこのまま連隊に入れた方が戦力になっていいんじゃないか?」
「いや、そうもいきませんし、私にそこまでの裁量権はありません。そのうえで魔王軍に対して彼等は全員が死亡か行方不明ということになってもらいます。そうでないと魔王軍から裏切り者として、残された他の竜人が不利益を被るかもしれません。それに、私達はまだあまり目立ちたくありませんので、巨大なワイバーンを連れてウロウロできませんよ」
ゼロ達は引き続き隊列を組んで南に向かうことにしたが、捕虜になった竜騎兵のワイバーンが隊列の後方を歩いてついて来るという異様な隊列になった。
翌日の午後、救出した人々を保護するため自分の部隊を率いて向かってきたイザベラとアランがゼロ達に合流した。
そこで人身売買の被害者だけでなく竜人やワイバーンを引き連れている様子を目の当たりにしたイザベラがゼロに詰め寄った。
「いったいどういうことですの?貴方ときたら面倒事ばかり引き起こして!」
イザベラに問い詰められたゼロはたじろぎながらも事の顛末を説明し、ケルム達の引き受けとその後の処遇について依頼した。
「まったく、ドラグーンを捕虜にするなんて前代未聞のことですわよ」
と呆れ顔のイザベラだったが、ゼロの依頼を承諾した。
そして、直立不動で整列しているケルム達竜騎兵を見渡した。
「貴方達の身の安全と処遇は私、イザベラ・リングルンドとアラン・グリジットの聖騎士の名において保障しますわ。貴方達にはいくつかの選択肢が与えられますの」
イザベラの説明にケルムが両膝をついた。
「おそれながら、もしも受け入れてくれるならば我々の王国軍への編入を認めていただきたいのです。私達は誇りある竜騎兵だ、数は少なくとも必ずやお役に立ってみせます」
「宜しいのですの?私達の軍に加わるとなると、魔王軍を相手に戦うことになりますのよ?今はまだ捕虜として静かに過ごし、この戦いが終わってから考えれば宜しいのでは?尤も、私達が勝つとは限りませんが」
「ご心配には及びません。強者に従うことが我等の誇り。是非ともお願いしたいのです」
イザベラはゼロを見た。
ゼロは黙って頷いている。
「分かりました。私達にとっても貴重な飛行戦力です、軍務省にはそのように伝えましょう。ただ、一度は王国に行く必要があります。軍務省の承認や他の部隊、聖騎士団のペガサスナイツや近衛騎士団のグリフォンナイツとの連携についての訓練を受けてもらう必要がありますの」
イザベラの言うとおり、ケルム達は王国軍に編入するために王国に移送されることになった。
移送には救出した人々共々アランの部隊が当たることとなり、直ぐに出発することとなった。
「ゼロ殿、色々とありがとうございました。できれば貴方の下で戦いたかったのですが、そうもいかないのが軍組織の辛いところです」
別れ際の挨拶でケルムは1人の竜人をゼロの前に呼んだ。
先の戦いで騎乗するワイバーンを失った者だ。
「彼はコルツ、我が隊きっての槍の名手です。是非とも彼だけでもゼロ殿の下で使ってやってください。本当は私自身が行きたいのですが、私には他の部下を統率する責任がありますのでそう我が儘を言ってもいられません」
突然の申し出にゼロは慌ててイザベラを見た。
イザベラは無言の澄まし顔で
「好きになさい」
と言っている。
ケルムは
「見たところアンデッド以外の隊員で前衛戦力がやや不足しているように感じます。前衛にリーチの長い槍兵がいると役に立ちます」
ケルムに促されてコルツと呼ばれた竜人も両膝をついた。
「ゼロ様、私を連れていってください。必ずやお役に立ってみせます」
まだ若い竜人なのだろう、緊張した面もちで懇願している。
結局、オックスやライズ、レナ達の賛成もあり、竜騎兵の中でコルツだけをゼロ連隊の一員として迎えることになり、ケルム以下他の竜騎兵と救出した人々はアランの部隊に守られて王国領へ向かって旅立っていった。
去り際にイザベラは連合軍による反攻が開始されたことをゼロに告げた。
「今、王国軍と周辺国の連合軍による一斉反攻が行われていますの。その数4万の軍勢、3つのルートで進軍しています。数十万を有する魔王軍に比べれば圧倒的に不利に見えますが、広大な支配地域に分散している魔王軍に対して私達は1万から2万の力を集中して進んでいますの。勝機は十分にありますわ。だからこそ、貴方の連隊による遊撃が重要ですのよ」
ゼロは頷いた。
「それから、連合軍とは別に魔王を討つために各国の勇者や英雄達が魔王の下に向かっていますの。魔王は軍隊では倒せませんからね」
「確かに、古来より魔王等の危機から国を救うのは百万の軍隊でなく勇者や英雄ですからね」
そこでイザベラは悪戯っぽく笑った。
「そこでね、貴方を師と仰ぐレオン達も他の勇者に混ざって魔王討伐に向かいましたのよ」
「えっ?」
「確かに彼等は若くて経験や力不足ですわね。でも、英雄の素質は十分、4人で志願しましたのよ。で、半ベソをかきながら他の勇者達に必死についていってますの」
そう言って立ち去るイザベラもゼロの教えを受けた彼等の成長について興味があるようだ。
「レオンさん達が・・・」
複雑な表情のゼロに気がついたレナが首を傾げた。
「彼等のことが心配?」
「いえ、彼等は自分達で選択したのですから私が心配するようなことはありません。ただ・・」
「何?」
「イザベラさんが私のことをレオンさん達の師だと。そのことが英雄を目指し、着実に成長している彼等の妨げにならないかと・・ガッ!」
レナがゼロの頭を杖で殴打した。
「それこそレオン達が選んだ道だわ!貴方がとやかく考える必要はないの!」
「いや、確かにそうですが。しかし、最近レナさんの私を殴る基準が甘くなっていませんか?」
「私に殴られるようなことをするのが悪いのよ!」
悶絶するゼロを残してレナは踵を返して歩き出した。
「れ、連隊長?」
その様子を見ていたコルツがオロオロと周囲をみるが、オックス達は意に介していない。
それどころかゼロが使役しているオメガやアルファも無表情でゼロの背後に控えたままだ。
「これは主様と魔導師様の日常のやりとりです」
「マスターも慣れていますから気にしないで結構です」
アンデッドにまでそう言われるゼロは頭を抱えたままだ。
「な、慣れてなんかいませんし、少しは気にしてください・・・」
文章力の欠如や盛り上がりに欠けながら続いてきた本作ですが、いよいよ終盤に入ってきました。
読んでくれている方々は今しばらくお付き合いいただけると幸いです。