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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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恐怖を刻まれた死

 ゼロ達は一丸となって魔王軍を切り裂きながら戦場を駆けた。

 彼等が目指すのはただ一点、魔王軍の本陣にいる敵将の首ただ1つ。

 先頭に立つオメガは両手から鋭く伸びた爪で魔物を切り裂き、身を翻した足蹴りで魔物の頭を粉砕する。

 そのオメガに続いて突き進むゼロ達だが、激しい衝突により徐々に損害が増え、自らも剣を振るいながら戦っているゼロの召喚が追いつかない。


「ゼロ!お前はアンデッドを呼ぶことに専念してくれ!」

「あんたのことは俺達が守るから任せてくれ!」


 リンツとリックスが叫ぶ。


「主様のことは私達がお守りします」


 アルファとシールドの指揮でジャック・オー・ランタンと大盾を持ったスケルトンナイトがゼロの周囲に集まる。


「今は守りの時ではありません!戦力を前面に集中しなさい!」


 アルファとシールドの指揮で一時はゼロの護衛につこうとしたアンデッドだが、召喚者であるゼロの命令には逆らうことができずに突撃に加わっていった。


 死を厭わぬ突撃を目の当たりにしてタリクの表情から余裕が消えた。

 数の上では圧倒的に有利な筈の自軍が敵の突撃を止めることができない。

 敵が一丸となって自分に向かって駆けてくる様にタリクは例えようのない感覚に襲われていた。


「止めろ!あの虫けらを皆殺しにしろ!」


 魔物達を前に押し出しながら無意識の間に足が下がっていることに気付いていない。

 タリクに魔人として知り得るはずのない感情が芽生え始めていた。


「殺せ!数で押し潰せ!」


 冷静さを欠いたタリクは自軍の戦力の殆どをゼロ達に向けた。


 魔物の猛攻を受けながらもゼロ達は止まらない。

 崩れたアンデッドを踏み越え、囚人部隊の男達が倒れても突き進む。

 レナ達は戦場を迂回して両軍の戦いの側面に到着し、その有り様を目の当たりにした。


「おい!ゼロは死ぬ気じゃないだろうな」


 損害を意に介さない無謀にも見える突撃戦にオックスが声を上げた。


「あのバカ!」


 レナはゼロ達の進む先、オメガの前方に炎の壁を出現させた。

 魔物を焼き払い、ゼロ達の足を止めるためだ。

 しかし、そんなレナの援護にもゼロ達は止まることはなかった。

 オメガは炎をものともせずに突破し、それに続くアンデッドも次々と炎の壁に飛び込んでゆく。

 半数以上が炎に包まれて姿を消すが、それでも炎を突破するアンデッドも少なくない。

 そして、生身の人間であるゼロと囚人部隊までもが炎に向かって突き進む。


「バカバカッ!何をしてるの!本当に死ぬ気?」


 ゼロ達の信じがたい行動に慌てたレナが炎の壁を消そうとするよりも早く男達は炎に突っ込んだ。

 炎に飲まれる直前にアルファが広範囲氷結魔法でゼロや囚人部隊を包む。


「「おおーっ!!」」


 雄叫びと共に炎を抜けてくるゼロ達を見た魔物が恐怖におののいて逆に足を止め、陣形が崩壊した。


「今です!駆け抜けろ!」


 炎に消し飛んだアンデッドを再召喚したゼロが更に速度を上げた。


「いかん!奴等止まりやしないぞ!」

「リズ!ゼロ様の下に行くぞ!」

「はい、兄様!ゼロ様の下に!」


 敵陣を切り裂きながら進むゼロを追ってオックスとリリス、イズとリズが駆け出した。


「本っ当にバカ!こんなところで死なせはしないわよ!」


 レナも後を追う。


「俺達も行こう!」


 レオン達も後に続いた。


 ゼロ達がタリクに届くまで百メートルを切った。


「な、何なんだ奴らは!止めろ!何としても殺せ!」


 恐怖に駆られたタリクが更に後ずさる。

 魔人であるタリクの本来の力を持ってすれば突撃してくるアンデッドやそれに続く人間などはタリク1人でも対峙し、返り討ちにできるはずである。

 しかし、恐怖という新たな感情に飲まれたタリクはそんな事実すら忘れてしまっている。

 やがてタリクの前にいた魔物達を切り抜けて1体の赤い髪のヴァンパイアが躍り出て、そのままの速度でタリクに向かって両の手の鋭い爪を振りかざす。


「ヒィッ!」


 タリクは息を飲み、反射的に拳を突き出した。

 身を翻してタリクの拳を躱し、タリクの横を駆け抜けたオメガの爪がタリクの頬を掠めてその皮膚を切り裂いた。

 更に後からはアンデッドの集団がタリクに殺到する。


「来るな!」


 タリクも目の前に迫るアンデッドを必死に叩き潰すが、アンデッド達は怯むことなく次々とタリクに飛びかかってくる。

 しかも、その背後からはエルフの放つ矢や魔法使いや魔法を使うアンデッドによる魔法攻撃が飛来する。


「舐めるな!こんなチンケな攻撃で俺を・・・ッ」


 タリクの声は最後まで続かなかった。

 言葉が途切れたタリクの胸からは黒く輝く刃が生えている。

 正しくは、タリクの背中から胸にかけて刃が貫いているのだ。


「な・・んだ、こ・れは?」


 状況が把握できないでいるタリクの背後から冷たい声が聞こえる。


「届きましたよ、私達の刃が」

「な・・に・・」


 アンデッドの軍勢に紛れ込んだゼロがタリクの背後に回り込んでその手に持つ剣でタリクを貫いたのだ。

 タリクの口の端から血が流れる。

 その目は未だに現実を受け入れられていない。


「如何ですか?私の剣の味は?死者達を使役するネクロマンサーの戦いは?」


 タリクの背後に立つゼロはどこまでも冷徹に言い放つ。


「嘘だ・・・俺がこんな虫けらごときに・・」

「現実ですよ。貴方が虫けらと蔑んだ者に殺されるのも、死霊術師の恐怖を魂に刻まれて死んでゆくの・・・」


 タリクはゼロの声を最後まで聞くことが出来なかった。

 しかし、薄れゆく意識の中で自分の背後に立つネクロマンサーの声とは別の声、勝ち鬨の声を聞いた。

 その勝ち鬨は砦を攻めていたゴルグが聖騎士に討ち取られたことを意味する勝ち鬨の声だった。


 タリクとゴルグ、双方の指揮官を失った魔王軍は呆気なく崩壊した。

 恐怖に駆られて散り散りになって逃げ出す者、狂乱に支配されながらも踏みとどまろうとする者。

 未だに数において勝ってはいるものの、最早王国軍にとって脅威ではなかった。

 ゴルグの軍団の残党は騎士達の他に砦から打って出た王国軍に各個に撃破されつつある。

 タリク軍団はといえば、ゼロが立て直したアンデッドの軍勢と応援に駆けつけた冒険者達によって殲滅された。


 そんな中でゼロは足下に倒れているリンツを見下ろしていた。

 リンツだけではない、彼の周りには同じように戦いに倒れた男達の亡骸が集められている。

 中には僅かに呼吸のある者もいるが時間の問題である。

 ゼロと一緒に突撃した囚人部隊の中で生き残ったのは僅かに4人、その中にはリックスの姿もある。

 しかし、リンツは囚人部隊の先頭を駆け抜けて最後の最後に仲間を庇って敵の刃に倒れた。

 治療を試みたセイラの力ではどうすることも出来ず、知らせを受けて駆けつけたイザベラもリンツの有り様を見て首を横に振った。


「満足だ。罪人だった俺が精一杯戦って国の皆を守ったんだ。これで別れた妻や娘も許してくれるかな・・・」

「貴方は国を守ったんです」

「国を守ったなんて大袈裟だ。俺はただ元妻と娘、その他の弱い奴等を守りたかったんだ」


 リンツや倒れた男達の周囲ではセイラや他の神官職、イザベラがそれぞれの宗派の方法で彼等の魂の安寧を願って祈りの言葉を紡いでいる。


「なあ、ゼロよ・・・」

「何ですか?」

「俺もあんたのアンデッドの仲間に入れてくれるか?」


 リンツの言葉にゼロは表情を変えることなく答える。


「無理です。聞こえますか?今、貴方達のために多くの神官達が祈りを紡いでいます。中には聖騎士や聞くところによると聖女と称えられた者もいます。貴方達はこれから安らかな眠りにつき、輪廻の門を潜ります。その後は星の光となり、輪廻の波の中に流れていくのです」

「そうか・・・残念だな。まあいいや、聖騎士や聖女の祈りの中で旅立てるなんて、分不相応だし、これで迷ってたら罰が当たるよな。ゼロよ、先に逝っているぜ、戦友・・・」


 セイラ達の祈りに包まれてリンツは静かに息を引き取った。

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