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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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英雄出動

「・・・ということです。失敗は許されないのですが、可能ですか?」


 レナの説明を受けてリズとリリスは揃って頷いた。


「10回やって10回成功させてみせます」

「目を開いていていいなら問題ないわ。目を閉じてやれと言われれば少しだけ難しいかな?」


 2人共に実行には何の問題もなさそうだ。

 頷いたレナは背後に立つ2人に振り返った。


「貴方達はこの作戦の要です。よろしくお願いします」


 レナに声をかけられたレオンとセイラは互いに顔を見合わせた。


「いや、俺は・・・ちょっと荷が重いですよ」

「あの、何故私が・・・?」


 2人共なぜ自分が呼ばれたのか分かっていない。

 周囲の指揮官達や上位冒険者に気圧されて冷や汗すら流している。


「貴方達2人でなければいけないのです。捕らえられた人達を助けるためです。それに、2人共ドラゴン・ゾンビの時には決死の覚悟を決めたでしょう?それに比べればどうということないわ。うまくいけば敵と戦わずにあの人達を助けられる」


 レナの言葉を真っ直ぐな眼差しで聞いていたレオンは覚悟を決めた。


「・・・俺は本当の英雄になりたくて冒険者になったんだ。そのためならばどんなことだってやってやる!分かりました、俺、やってみます」


 その決意の様子を見てレナや周囲の指揮官も安堵の表情を浮かべた。


「私も!窮地の人々を助けるためならば!・・・でも、何故私なんですか?他にも適任者がいると思いますが?」


 セイラも決心は変わらずだが、やはり自分が選ばれたことに疑問を感じている。


「確かに、聖職者ならば他にもいます。レオンのパーティーにだってルシアがいるけど、彼女は駄目。武闘僧侶だけあって表情に自信がありすぎます。セイラくらいのオドオドした感じの方がいいのですよ」

「・・・はい」


 些か腑に落ちない説明だが、人々を助けるためだ、否やはない。


「それでは早速始めましょう。イザベラさん達も大丈夫ですか?」


 聖騎士のイザベラとアランも頷いた。


「任せておいてくださいまし」

「まったく、これは聖騎士というよりも特務兵の仕事だな」


 そして、その背後ではバックアップに当たる第1騎士団と聖騎士団が準備を進めていた。


 魔王軍陣地で砦の様子を見ているタリクは早くも苛立ち始めていた。


「動かねえな。見せしめに2、3人殺してみるか」

「まだ檻を置いて一刻も経たん。もう少し待て」


 タリクの気の短さも大概である。


「少しくらい餌が減っても問題ねえよ!砦の連中も焦るだろうよ」

「そんなこと・・・待て、砦に動きがあるぞ!」


 その時、砦の正面扉が開け放たれた。


「来た!来たぜ!・・・ん?なんだあれは?」


 扉は開かれたものの、そこから部隊が出撃してくる様子がない。

 そこに立っていたのは1人の若者と年若い神官の女性。

 そして2人の背後には聖騎士団の旗を掲げた聖騎士がたった2騎。

 槍を携えた若者はあまりにも若すぎるものの胸を張って歩く姿は自信に満ちている。

 そして、若者に続く神官、その2人に続く聖騎士。

 タリクもゴルグも状況が理解できない。


「たった4人?なんのつもりだ?」

「分からぬが、聖騎士と・・・聖女か!それらを従える彼奴はただ者ではないぞ」


 判断に迷い部隊を前進させることも躊躇っている。


「まさか!こんな砦に勇者や英雄がいるとでも言うのか?」

「分からぬ。しかし、そうでもなければ説明がつかぬ」


 タリクは自分の軍団にいつでも突撃できる体勢を取らせながらギリギリまで状況を見ることにした。

 それほどまでに魔王をも倒しかねない勇者や英雄は彼等にとって脅威なのだ。


 一方でレオンはというと、はったりがバレないように必死だった。

 額から冷や汗でも流そうものならば自分の恐怖心を見抜かれてしまう。

 勝手にそう思っているレオンは流れる冷や汗を全て衣服の下に流すという離れ技をやってのけた。

 セイラも英雄に付き従う聖女を必死に演じている。


「ヤバい、足がもつれる。手と足が一緒に・・・」

「私も・・」


 極度の緊張に歩き方がぎこちなくなりかける。


「ほら、しゃんとなさい。手と足が一緒になるなら槍や杖を構えなさい」


 そんな2人を見たイザベラが苦笑する。

 その様子を砦の上から見ているレナは次の段階に入るタイミングを見計らっていた。


「不安を気づかれてはだめよ。英雄としての自信を持ちなさい」


 その横にいるイズがレナに疑問を投げかける。


「この作戦、なぜあの若者を指名したのですか?」

「簡単なこと、レオンには英雄の素質があると思ったの。それに一見して経験の無さそうな年若い英雄の秘めたる力は手練れの熟練兵よりも魔族は恐れるものよ」

「はあ、そんなもんですか?」

「そして、そんな英雄に付き従う儚げな聖女、いかにもありがちな昔話や冒険物語の主人公でしょ?でも、それらは根拠のない作り話ではないの。昔から語り継がれた史実を元にしているものが多い。そして、魔族は本能的にその恐怖を感じてしまうのよ」


 そうこうしている間にレオン達は檻の横を抜けて魔王軍の前に立った。

 魔王軍に動きはない。

 胸を張って立つレオンに向かってセイラが祈りを紡ぐ。

 レオンの周囲を聖なる光が包んだ。

 その光は単なる祝福の光、少しばかり気持ちが軽くなる程度の大した効果は無いが、視覚的効果だけはある祭典用の祈りの光だった。


「何をする気だ!下がれ!奴と距離を取れ!」


 レオンを包む光を警戒したタリクは部隊を後退させた。

 突然の後退命令に魔王軍の足並みが僅かに乱れる。


 その瞬間をレナは見逃さなかった。


「今っ!」


 レナの声に防壁の上に隠れていたリズとリリスが立ち上がり、同時に矢を放った。

 放たれた2本は予め魔力で強化されており、寸分違わず檻の鍵を見事に破壊した。

 その瞬間、イザベラとアランが檻を開け放つ。


「死にたくなければ走りなさい!砦の中に逃げ込みなさい!」

「時間が無い!走れ!」


 檻の中に閉じ込められていた人々は檻から出て砦に向かって駆け出した。

 そして、それを見届けたレオンとセイラも脱兎のごとく砦に向かって駆け出す。


「なんだ?くそったれ、はったりか!追え、突撃だ!」


 後退中に突撃命令が下り、更に足並みが乱れ、混乱が生じて突撃に移れない。

 その間に解放された人々は必死で砦を目指して走るが、中には老人や怪我人、赤ん坊を抱いた母親等、逃げる者達から遅れる者もいた。

 イザベラは赤ん坊を抱いた母親を、アランは力尽きて倒れた老婆をそれぞれ自らの馬の上に引き上げる。

 更に、逃げ出した人々に向かって砦の中に待機していた騎士団と聖騎士団の騎兵が飛び出してきた。

 槍も持たず、盾だけを携えた騎士達は逃げ遅れた人々を馬の上に引き上げ、反転して砦に向かう。

 次々と砦に逃げ込む人々、逃げ遅れを回収した騎士も砦に逃げ帰る。


「来た来た来たっ!」

「レオンさん!早く走って!」


 最後尾を走るレオンとセイラの背後に体勢を立て直した魔王軍が追撃する。

 弓騎兵の放つ矢がレオンの足元にまで迫る。


「ヤバいヤバい!」


 レオンが振り返れば騎兵と共に足の早いコボルドの部隊が剣を振りかざし、牙を剥き出しにして追いすがってきている。


「レオンさん!早くっ!」


 前を走るセイラとの距離が開く。

 逃げる人々とそれを回収した騎士の大半は砦に逃げ込み、砦の扉が徐々に閉じ始めた。


「レオン!走れ!」

「急いで!」

「何でセイラさんより遅いのよっ!」


 レオンの仲間のカイル、ルシア、マッキも砦の上から声を張り上げる。

 マッキに言われてみれば、確かにセイラはレオンよりも遥かに足が速い。

 レオンが遅いのではない、セイラが異様に足が速いのだ。

 ゆとりがある神官服に身を包んでいるにも係わらずレオンとの差がぐんぐん開く。


「本当、セイラさん速い・・・」


 唖然とするレナにアイリアが説明する。


「私達も冒険者として経験を積んできたけど、前衛には恵まれなかったんです。そんな中で失敗して逃げ回ることも多くて、いつしかセイラは私と同じ位の速さで走れるようになったんです」


 身軽なハーフエルフと同等の速さとは相当である。

 そうこうしている間に騎士達が砦に戻り、セイラも扉にたどり着いて振り返る。


「レオンさん、早く!」


 レオンはまだ砦まで距離がある場所を涙目で必死に走る。


「セイラさん、いいから!先に中に入ってくれ!」


 叫ぶレオンは完全に弓騎兵の射程に捕らえられた。

 しかし、そんな弓騎兵も砦の上からの攻撃の射程圏に入っている。


「放て!」


 国境警備隊長の号令の下、防壁の上に待機していた各隊の弓兵、弓を持つ冒険者、魔法使い達が一斉に攻撃を開始した。

 雨のように降り注ぐ矢が最前列を走る弓騎兵やコボルドに突き刺さり、炎、雷撃、氷弾と様々な魔法が撃ち込まれた。

 倒れた最前列に後続が足を取られて転倒し、そこに更に攻撃が降り注いで魔物の数を削いでゆく。

 レナに至っては強力な炎の壁を敵の真っ只中に出現させ、敵を分断すると共に巻き込まれた魔物を焼き払う。

 この砦からの猛攻により突撃を仕掛けていたタリクの軍団の先行部隊の数百が瞬く間に殲滅され、突撃の足が鈍った。

 その間にレオンも砦の中に逃げ込み、扉は再び固く閉ざされた。


 レナのペテンとも言える策略とレオンのはったりにより1人の犠牲を出すこともなく捕らわれの人々を助け出し、それだけでなく敵に大打撃を与えることができた。


 この作戦の最大の功労者である英雄は砦に逃げ込んだ後に涙目で腰を抜かした。

 そして息も絶え絶えながら


「もう二度とやらねえ!」


と誰にともなく呟いていた。

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