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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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貴族ノリスの旅路の終わり2

 ゼロと2体のスケルトンロードは抜群の連携を見せつけながら悪魔を翻弄していた。

 ゼロの鎖鎌による変幻自在の攻撃、スケルトンロードのサーベルと槍による猛攻。

 身の軽いケットシーから変異し、力を蓄えた悪魔を捉えることは困難だが、悪魔を休ませる暇も与えない。

 その間にルークとエナは馬車の近くにまで戻り、その傍らにレナとリリスが立ち、更にその4人をアンデッドが守る。

 パニックを起こして暴れていた馬は群がるケットシーの犠牲になり、もう1頭もマクレインにベルトを切られて逃げてしまっていた。

 マクレインも御者席から降りてルークの傍らで短剣を抜いて周囲に目を配っている。

 レナはルーク達を守りながらゼロの戦いを見守るが、戦っているゼロの様子がおかしい。

 一瞬の油断も許されない戦いの中でしきりに馬車の様子を窺っている。


(やっぱりゼロの様子がおかしい。何を気にしているの?)


 ゼロが何を懸念しているのかは分からないが、レナは何が起きても対処できるように備えた。


 下級悪魔と中級悪魔ではその力が桁違いだ。

 知恵ある魔物が強く成長し、下級悪魔に変質することがあり、その強さは元の魔物の数倍に跳ね上がる。

しかし、大抵の悪魔は下級悪魔である間に駆逐されてしまい、中級悪魔に変質するのは稀である。

 下級悪魔として力を蓄えて更に変質し、下級悪魔を始めとした多くの眷族を従えるのが中級悪魔であり、上位冒険者がパーティーを組んで対処に当たってどうにか倒せるかどうかという相手で、返り討ちに遭うことも少なくない。

 そのような悪魔を相手にゼロ達は一進一退の戦いを繰り広げていた。

 上位冒険者にも匹敵するスケルトンロード2体とゼロの力をもってしても今一つ決め手に欠ける。


 ゼロの戦いは双方が引くことなく時間ばかりが過ぎていくが、その時間の経過は徐々にゼロ達に有利になっていく。

 悪魔を倒すことは難しいが、その間にケットシー達は数を減らし、やがてオックスとオメガが下級悪魔を討ち取ると形勢は一気にゼロ達に傾いた。

 オックスとオメガがゼロ達に合流し、ゼロ、オックス、オメガ、スケルトンロード2体が悪魔を取り囲む。

 こうなると勝敗は決し、悪魔は逃げることすら出来なくなった。


「これで終わりですね」


 言い放つとゼロは投げナイフを投擲した。

 放たれたナイフは悪魔の横を抜けて今まさにルークに向けて短剣を振り下ろそうとしていたマクレインの手に突き刺さった。

 マクレインの異変に気付いていたのはゼロとエナの2人だけ。

 エナも不意を突かれて反撃でなくルークの守りを優先し、自らの身を盾にしてルークを抱え込んでいた。


「ぐわっ!」


 切っ先がエナに届く寸前にゼロの投げナイフがその短剣を刈り取った。


 その隙に悪魔は逃走を企てるも、先回りしたオメガのバスターソードを叩きつけられ、スケルトンロードのサーベルと槍で大地に縫い付けられる。

 そして、オックスの戦鎚による渾身の一撃を頭部に叩き込まれた。

 決着は一瞬、頭部を完全に破壊された悪魔は暫くの間痙攣していたが、やがて動かなくなる。

 悪魔の復讐が潰えた瞬間であった。


 ゼロは手を押さえてうずくまるマクレインの前に立つ。

 エナはルークを庇いながらマクレインに短剣を向けており、レナ、リリス、オックスも周囲でマクレインを見下ろす。


「さて、マクレインさんには色々と聞きたいことがありますが、その時間も無いようですね」


 ゼロは周囲を見回した。

 アンデッド達も再び防御線を構築している。


「囲まれています」


 ゼロ達は完全に包囲されていた。

 周囲にはスペクターの警戒線が張り巡らせてあったはずだが、その警戒線を容易く突破されている。

 やがて森の中からハルバートを構えた歩兵の集団が、前後からは揃いの鎧に身を包んだ騎士達が近づいてきた。


「聖騎士団に聖監察兵団ですか」


 そこに現れたのは聖務院所属の2つの軍事組織だ。

 揃いの軽鎧に青色コートの聖監察兵団と青い制服に白銀の鎧を着た聖騎士団がゼロ達を包囲している。

 その指揮官と思しき聖騎士が歩み出る。


「武器を収めなさい!抵抗するなら容赦しません!」

「やれやれ、面倒な人が来ましたね」


 ゼロはアンデッドを下がらせながら鎖鎌を収めてため息をついた。

 他の者もそれに従って武器を収める。

 騎士団を率いていたのはゼロとは何かと因縁のあるイザベラ・リングルンドだった。


「クロウシス家からの知らせを受けて警戒に来たのだけれど、間に合わなかったようですわね」


 イザベラは周囲を見渡す。

 その時、うずくまっていたマクレインがイザベラの下に駆け出して平伏した。


「助けてください!私はルーク様をお守りしようとしていただけなのです!それをあの死霊術師が何を企んでいるのか、突然襲われたのです!」


 頭を地面にこすりつけながらイザベラに助けを請うマクレインをイザベラは馬上から見下ろしていた。


「とのことですが、そちらの死霊術師は何か言うことはありますか?」


 イザベラはゼロを見据える。


「私がマクレインさんを傷つけたことは事実です。この依頼を受けて疑問を感じていたのですが、色々と調べたりしたうえで、そのマクレインさんが悪魔を手引きした確信を持ちました。そしてルークさんに危害を加えようとしたところを阻止したのです」

「私も信じられませんでしたが、確かにその男はルーク様に刃を向けました。ゼロ様が止めてくれなければ私が刺されていました」


 ゼロに続いてエナも状況を説明する。


「誤解だエナ!全てはその死霊術師が仕組んだことだ。私達は騙されていたんだ」


 無理矢理な抗弁にオックスとリリスは呆れ顔で、レナに至っては軽蔑の眼差しでマクレインを睨んでいる。


「ゼロ、詳細に説明してくださいます?」


 イザベラはゼロに説明を促した。


「はい、私が最初に疑問を感じたのはクロウシス家で破壊された聖具を見た時です。強い外力により破壊された聖具でしたが、調べてみたところ、クロウシス家の物置で破壊に使用されたと思われる鶴嘴を見つけましたが、その先に聖水が付着して乾燥した痕跡がありました。鶴嘴に聖水が付くなど考えられません。聖具を破壊した際に中に入っていた聖水だと考えましたが、そんなことが可能なのはクロウシス家ではマクレインさんとエナさんだけです。使用人は2人しかいませんからね」


 イザベラは軽く頷くも、直ぐに首を傾げる。


「でも、それだけで決めつけるのは乱暴ではありませんの?」

「はい。その時には疑念を抱いただけです。その後の行動にも不審な点はありませんでしたから。ただ、悪魔が追い詰められたようにマクレインさんも追い詰められたようで、今日の行動は不審なことばかりでした」

「でたらめだっ!」


 ゼロの説明に耐えかねてマクレインが声を上げるが、その首筋にイザベラがサーベルを向ける。


「お黙りなさい。まだ説明は終わってませんよ」


 マクレインは息を飲んで口を閉ざす。

 それを見たイザベラは満足気に頷くとゼロに説明の続きを促した。


「2つ目の疑問、先程の襲撃の際に馬車を牽く馬が暴れました。しかし、馬車を牽いていた馬は歳を取ってはいましたが、経験豊富な馬でした。多少のことでパニックを起こしたりしません。現に1度目と2度目の襲撃の際にはびくともしませんでしたし、何よりも、私のアンデッドに囲まれても怯える様子もありませんでした。その馬が暴れたのは不自然です」

「それだけですの?」

「3つ目、マクレインさんは馬を切り離して防御壁を内側から崩しましたが、その際に私の制止を聞かずにルークさんを乱戦の最中に馬車から遠ざけようとしました。そして最後に、私が2人を馬車まで戻したところ、追い詰められたマクレインさんは直接的な手段に出たのです」


 ゼロの説明を聞いてレナは疑問に感じていたゼロの行動に合点がいった。


(どうりでおかしな選択をすると思ったわ。マクレインが手を引いている確信が持てなかったから誘い込んだのね)


 納得したレナだが、それとは別の感情が彼女の心に湧き始める。


「全ては推測に過ぎない。何の証拠もないではないか!」


 イザベラにサーベルを向けられているにも拘わらず、マクレインは必死の様子で叫ぶ。


「聖騎士様!私はシーグル教徒として何も恥じることはしていません。永年お仕えしたクロウシス家に弓引くような行為など以ての外です。どうかあのような背信者の言葉に耳を傾けないでください」


 外聞もはばからずにイザベラにすがりつこうとして他の聖騎士に制止されているマクレインを見たオックスが拳を握りしめて前に出ようとしてリリスに止められている。

 ルークは信じられないといった戸惑いの表情であり、エナがその肩を抱いている。


「お願いです!あのような汚らわしい死霊術師の虚言、妄言に耳を傾けないでください」


 マクレインを見下ろしていたイザベラはサーベルを収めながらゼロを見た。


「私もあの死霊術師は大嫌いですの。信仰に背くばかりで軽蔑するばかりですわ」


 イザベラは真に軽蔑した眼差しをゼロに向ける。


「でしたら、私の潔白を信じてください」

「・・・それとこれとは別ですの。私はあの男は大嫌い。でも、あの死霊術師は仕事に関しては信用できますのよ。信頼まではできませんが」

「えっ?」

「あのゼロという男は自分が受けた仕事に関しては真摯に取り組み、結果を出す男です。その方法が唾棄すべきことであってもね。そのゼロが確信を持っているならば疑うに足りる十分な理由ですの」

「そんな!」

「安心なさい。まだ貴方が犯人だとは決めつけはしません。調べれば自ずと分かることですわ」

「それでは、私は・・・」

「貴方の身柄は聖務監督官に引き渡します。貴方が教義に背いていないか、じっくりと調べてくれますわ」


 聖務監督官の名を聞いてマクレインは腰を抜かした。

 聖務監督官とは聖務院に所属する情報員であり、宗教犯罪や教義に反する者の取締りも担っている。

 その行動理念は苛烈なまでの公平を保ち、私情を捨て、無感情に任務に当たり、疑惑を疑惑のままでは決して終わりにしないことで恐れられている。

 一見すると恐れられる要素はなく、犯罪が完全に立証されるまでは無闇に罪に問うことはないが、逆にいうと、疑惑が完全に晴れるまでは決して終わりにしないし、その方法に手段を選ばないのだ。


「聖騎士様、お待ちください!」

「お黙りなさい!私に貴方の弁明を聞かなければならない理由はありません。弁明は監督官にしなさい!引っ立てなさい!」


 腰を抜かしたマクレインはイザベラに指示された聖騎士に引きずられていった。

 ルークは途方にくれながらその光景を見送っていた。

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