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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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没落貴族の葬送2

 翌日、ゼロ達はクロウシス家の屋敷を訪れた。

 クロウシス家の屋敷は領地とする村から少し離れた丘の上に佇んでいた。

 質素倹約を旨とするエルフォード家の屋敷よりも遥かに小さく、貴族の屋敷というよりも経済的に裕福な平民の家という雰囲気だ。


 その屋敷でゼロ達を出迎えたのは年の頃10歳前後の少年だった。

 背後には老執事と若いメイドが1人ずつ控えている。


「ようこそおいでくださいました。僕・・私はルーク・クロウシス。クロウシス家の現当主、です。こちらの2人は執事のマクレインとメイドのエナです。今現在、当家に仕えてくれているのはこの2人だけです」


 たどたどしい言葉でゼロ達を迎えた少年はぎこちない様子で一礼した。

 唯一の親族を失ったことはエルフォード家のセシルと同様であるが、セシルよりも幼いことを見れば致し方のないことだろう。

 それよりもゼロが気になったのは無表情のままルークの背後に控えるメイドのエナだった。

 特に目立った気配があるわけではないが、その立ち姿に張り詰めた緊張感のようなものを感じる。

 そして、何よりも気になるのが、その視線はゼロ達のことを見ているようで、誰のことも見ていないのだ。

(ただのメイドというわけではありませんね)

 ゼロは見極めたが、それと同じ感覚をレナも感じていた。

(何かを見ているようで見ていないあの目線、ゼロが戦う時と同じ。視野を広く持ち、僅かな変化も見逃さないそれだわ)

 レナが見抜いたとおり、エナの視線はゼロが戦う時の視線によく似ている。

 ゼロは特に集団を相手に戦う時は目の前の相手を見ているようで見ていない。

 視線を対象に固定することなく広い視野を持ち、目の前の対象だけでなく他の目標の動きも捉えているのだ。

 そのような視線を持つエナはルークの背後で油断なくゼロ達の一挙手一投足を観察していた。


 屋敷内に案内されたゼロ達は早速ことの発端から現在の状況を確認することにした。

 クロウシス家に異変が生じたのは3週間前、突然魔物の集団が屋敷に押し寄せてきた。

 年老いた当主であるノリス・クロウシスと屋敷の使用人が応戦し、2人の使用人の命と引き換えに撃退することに成功したが、その際に逃走する魔物の中に見覚えのある姿を認めた。

 それは、ノリスが若かりし頃に自らの手で封じた悪魔だった。

 一時は撃退したが、怨恨のある相手であり、年老いた自分では再び対峙できないと判断したノリスは直ぐに知己のあるシーグル教の司祭に依頼して屋敷に強力な結界を張って守りを固め、自分と孫、残された使用人の安全を確保し、更に森の都市の冒険者ギルドに依頼を出し、直ちにオックス達が派遣された。

 その後、数度に渡り襲撃を受けるもオックス達の活躍と屋敷を守る結界のおかげでことごとく撃退することに成功。

 しかし、数度目かの襲撃の際に結界の綻びが発生してその隙を突かれてノリスの命が奪われた。


「以上がことの顛末です」


 気丈に説明するルークだが、その瞳からは今にも涙が零れそうだ。

 ゼロはオックスに向き直る。


「襲撃時の状況ですが、結界に綻びとは何が起きたのですか?」

「うむ、シーグル司祭が結界を張るために屋敷の四方に専用の聖具を設置していたのだが、その1つが破壊されていた」

「それは外部から破壊できるものですか?」

「壊れた原因は分からんが、そう簡単に破壊できたら結界の役にたたん」


 ゼロは腕組みして考え込む。


「魔物の首領である悪魔の姿を見ましたか?」


 オックスは悔しそうに首を振る。


「結界を突破されたとき、俺達は敷地の外で戦っていた。完全に油断していたんだ。俺達が異変に気付いて駆けつけたときには手遅れだった。俺達が見たのは黒い影に姿を変えて逃げる奴の姿だった」


 その時、ルークの背後に控えていたエナが口を開いた。


「私は最初の襲撃時とノリス様が討たれた時にノリス様の護衛に当たっていました。その折に悪魔の姿を見ました。それは猫のような姿をしておりました」


 ゼロはエナを見た。


「詳しく教えてください」

「はい。ゼロ様は既にお気付きと思いますが私はただのメイドではありません。戦闘の訓練を受けた護衛メイドです。私の祖母も同じでこのクロウシス家に共に仕えておりました。最初の襲撃時、祖母はノリス様、私はルーク様の護衛の任に就いておりました。その際に祖母は命を落としましたが、私は猫の顔を持つ魔物を見ました。その姿を見てノリス様がかつて封じた悪魔だと話しておりました。また、先日ノリス様が討ち取られた時、私はノリス様とルーク様の護衛に当たっていましたが、力及ばずルーク様をお守りするのがやっとでした。ガンツ様達が来てくれなければルーク様もお守りできたかどうか分かりません」


 エナは全く表情を変えることなく説明した。

 ゼロはマクレインを見た。


「マクレインさんは何か参考になる情報はありますか?」


 マクレインは首を振る。


「私は戦いの心得のないただの執事です。魔物の襲撃時にもルーク様に寄り添うことしか出来ませんでした。ただ、その際にエナと同じように悪魔の姿は見ました」


 ゼロは頷いた。


「なるほど。猫の顔、ケットシーあたりが変質した悪魔でしょうか?しかし、ノリスさんが討たれた時に魂まで刈り取られなかったことはせめてもの救いでしたね」


 ゼロの言葉にオックスが答える。


「そりゃあお前、俺達だって黙って見ていたわけじゃねえ。当主様が討ち取られて直ぐだったからな。奴も魂を刈り取るまでは出来なかったはずだ。ただ、それが精一杯だった」


 怒りに震えながら拳を握りしめたオックスの姿を見てルークは慌てて首を振った。


「オックスさん達は最善を尽くしてくれました。沢山の魔物を相手に戦ってくれました。そのうえで、あれほど強力な結界が破られるなんて誰も予測できません。祖父が討たれたのは致し方ないことです。それでもオックスさん達は祖父の魂を守ってくれたのです。それに、もう依頼は終わっているのにこんなに気を使ってくれ・・て・・グスッ・・」


 ルークの言葉は涙に遮られた。


「・・・坊ちゃん、それは違う。俺達は依頼に失敗したんだ。あらゆる可能性を考えて対応するのが俺達の仕事だ。だからその尻拭いをしなければならんのだ。だからそのためにゼロ達に来てもらった。俺達の失敗を挽回することはできんが、それでもまだやることがあるんだ!」


 オックスの言葉にルークとエナ、マクレインの3人は頭を深く下げた。


 状況の聞き取りを終えたゼロは色々と調査を始めることとした。


「ノリスさんの亡骸は今どこに?」

「はい、シーグル司祭様に保存の祈りを頂戴してノリス様の寝室に安置しております」


 マクレインが説明した。

 保存の祈りがなければ遺体は腐敗し魂も汚れてしまう。

 保存の祈りの効果が切れる前にシーグル教の総本山に運ぶ必要があるのだ。

 ゼロはルークを見た。


「本来は亡くなった人に死霊術師が近づくのは好ましくないのですが、調査のためにノリスさんの遺体を見せてもらえませんか?」


 ゼロの申し出にマクレインは顔をしかめたがルークは頷いた。


「必要ならば構いません。お調べください。祖父の遺体だけでなく、屋敷内もご自由に検分してください」


 ルークの了解を得てゼロは調査を始めるために立ち上がった。

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