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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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没落貴族の葬送1

「改めて詫びさせてくれ。奴等が迷惑をかけて済まなかった」


 オックスはゼロ達を近くの食堂に案内すると頭を下げた。


「そんなこと構いませんよ。むしろオックスさんこそ大丈夫ですか?ギルド内で騒ぎになってしまいましたが?」

「俺のことは大丈夫だ。奴等に非があるのは誰がみても明らかだからな。大事にすればギルドの恥になるだけだ」


 オックスは豪快に笑った。


「それに、この森の都市のギルドでオックスに楯突くような命知らずはいないわ。冒険者の顔役みたいなもんだし」


 リリスも涼しい顔だ。

 その時、オックスがゼロの顔の左半分を覆う仮面をしみじみと見た。


「ところでゼロよ、随分と男前が上がったな。先の話しのドラゴン・ゾンビと戦ったときか?」

「はい、左目を失いました」


 ゼロはことの顛末をオックス達に説明した。


「なるほどな。ドラゴン・ゾンビが出たことは聞いていたが、そんなことになっていたとはな」

「はい、運良く命拾いしましたよ」

「それでも冒険者を続けているのだな。流石は俺が見込んだ男だ。で、剣を持っていないようだが、やはりその時か?」

「いえ、剣はその後に別の機会に折られました」

「ほう、色々と修羅場をくぐり抜けたわけだな。これは心強い!よし、先ずは腹拵えだ!」


 オックスは料理を注文してゼロ達に振る舞うが、テーブルに置かれた料理の量はどう見ても4人分の量ではない。

 1人で3人前は食べなければ片付けられない量だ。


「長旅で腹も減っているだろう。さあ、食ってくれ。遠慮なんかするなよ」


 ゼロが呆気に取られていると、隣に座るレナがテーブルの下でゼロの膝を叩き、合図を送ってくる。

(私はそんなに食べられないから後は任せるわよ)

 言葉はなくともレナの言わんとすることは理解できた。

 確かに空腹ではあるが、それでも限度というものがある。

ゼロは覚悟を決めた。


 テーブルの料理もあらかた片付いたころ、レナが口を開いた。


「依頼の件ですが、どんな仕事なんですか?」


 本来は依頼を受けたゼロが確認すべきことだが、今のゼロは僅かでも口を開くことが出来ない。

 青白い顔色で必死に何かと戦っている。

 結局、テーブルの料理の大半をたいらげたのはオックスとゼロだった。

 リリスとレナは普通に1人分だけを食べ、残りをオックスが軽々と6人前、ゼロが何かと戦いながら4人前を胃袋に詰め込んだ。

 その結果、今のゼロはあらゆる刺激が致命的になる状況に陥っていたのだ。


 ゼロに変わってレナに問われたオックスはこれまでの陽気さと打って変わって表情を曇らせた。


「その件だが、遠い所から呼び出して申し訳ないが、俺の失敗の尻拭いを頼みたい」

「尻拭いですか?」


 レナがゼロを見やるが、まだ顔色は白い。

 話せるようになるまではもう少しかかりそうだ。


「じつは、私とオックスはある貴族からの護衛依頼を受けていたのだけど、護衛に失敗して依頼主を死なせてしまったの」


 オックスに変わってリリスが詳細を説明する。

 聞けば、森の都市の近くに小さな屋敷を構えた貴族が住んでいた。

 領地も殆ど無く、領内の人口は数十人が住む村が1つだけという衰退して没落した貴族であったが、村からの税を集めることもなく、村の問題には私財を投じて救済するため、領民からの評判は良く、僅かな財産と縁故の貴族からの支援でどうにか家名を失わずにいたらしい。

 その貴族から「命を狙われている」との依頼を受けたオックスとリリスだったが、失敗して依頼主である貴族を死なせてしまったとのことだった。


「・・・そうしますと、守るべき方が亡くなっているならば私達の出る幕は無いのではありませんか?」


 ようやく口を開くことができたゼロが質問する。


「そうね、私達が受けた依頼自体は失敗して終わり。挽回できるものではないわ。でも、まだ私達の責任でやらなければならないことがあるのよ。その仕事を手伝って欲しいの」

「と、申しますと?」

「まず、その貴族を殺したのは多くの眷族を従える悪魔だった。数十年前にこの辺りで悪行の限りを尽くしていたのを亡くなった貴族が封じたの。その悪魔が何らかの理由で復活し、己の敵である貴族に復讐しようとしたのよ」


 かつては若く強かった貴族も歳とともに衰え、戦う力を失っていた。

 そこで冒険者に護衛を頼むこととし、オックス達が依頼を受けたが失敗した。

 でも、悪魔の復讐はそれだけではなかった。

 命を失った貴族の亡骸と魂を狙い、自らの眷族にしようとしていること、そして貴族のたった1人の孫の命をも狙っているとのことだった。

 今は森の都市のシーグル教の司祭が屋敷に強力な結界を張って凌いでいるがそれも長くは持たない。


「そうしますと、私達にその悪魔を討伐しろと?」


 ゼロの問にオックスは首を振った。


「それだけではない。悪魔に命を奪われた彼の魂を清めるために亡骸をシーグルの総本山に運び、そこで祝福をうけて埋葬したいのだ。その葬列の護衛を頼みたい。もちろん俺達も一緒に行く」


 オックスとリリスは頭を下げたが、ゼロは腕組みして首を傾げる。


「懸念というか、疑問が2つあります。1つは、その葬列に死霊術師の私が入っていいのかということ。自分で言うのもなんですが、死霊術とは特に神職の方達からは汚らわしく、忌み嫌われる存在とされています。その私が葬列にいると問題になりませんか?もう1つは、なにも葬列を組まずとも、まずその悪魔を討伐してから何の憂いもなく本山に向かえばいいのではありませんか?」


 ゼロの疑問にオックスは頷いた。


「その2つについては俺達も考えた。まず、順番が逆だが、2つ目の方だ、これは俺達もそうしようとしたんだが、あの悪魔は全く手出ししてこない。屋敷で俺達が守っていると厄介だとでも考えたのかもしれん。俺達が亡骸を運び出すのを待ってやがるのさ。そして、1つ目はシーグルの司祭に了解を取りつけてある。確かに問題になるが、他に手だてが無いならば、悪魔の手に落ちるよりはマシだそうだ。なので、シーグルの総本山に立ち入ることはできないが、その手前までの護衛ならば致し方ないとのことだ」


 ゼロは肩を竦めた。


「だから引き受けて欲しいの。これは私達の面子の問題ではない。クロウシス家にたった1人残されたあの少年のためなのよ」

「まあ、そうは言っても、ある意味では俺達の面子と意地の問題ではある。守ることが出来なかったあの老人のため。そして、あの坊ちゃんのためだ。これをやり遂げなければ俺達は冒険者を名乗れねえ」


 オックスは悔しそうに拳を握りしめた。

 リリスも同様だろう。


「分かりました。微力を尽くさせていただきます」


 ゼロは立ち上がって手を差し出した。

 オックスとリリスはゼロの手をしっかりと握りしめ、その手の上にレナが手を添えた。


「明日の朝一番でクロウシスの屋敷に向かう。なに、この都市から半日も歩けばたどり着く」


 その夜、ゼロ達は森の都市に投宿し、翌朝一番にオックス達とクロウシスの屋敷に向かって出発した。

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