オックスとの再会
風の都市を出発して4日後、ゼロとレナの2人は森の都市に到着した。
森の都市はその名のとおり周囲に緑豊かな森が広がっており、都市の中にも木々が豊富にある。
都市の中に森がある、というより森と都市が同化しているようだ。
ゼロ達は早速冒険者ギルドに向かった。
ギルド内に立ち入ったとき、ギルドにいた冒険者達の値踏みするような視線が2人を出迎えた。
突然現れた見慣れない2人の冒険者、しかも黒等級と銀等級の上位冒険者だ、他の冒険者の注目を集めるのも仕方ない。
そんな視線をよそに2人はカウンターに向かい受付にいた若い職員に声をかけた。
「ガンツさんの要請を受けて風の都市から参りました死霊術師のゼロと魔導師のレナ・ルファードです」
ゼロの言葉を聞いて受付職員の表情が強張り、ギルド内にざわめきが走った。
「はっ、はい。ガンツさんから承ってますし、風の都市からも連絡を受けています」
若い職員は声を上擦らせながら答えた。
「ガンツさんに取り次ぎをお願いします」
「はい。しかし、ガンツさん達は所用で出掛けています。間もなく戻ると思いますのでお待ちいただけますか?」
「分かりました。こちらで待たせていただきます」
ゼロとレナはカウンターを離れて端にある待合い用のベンチに腰掛けた。
ゼロは腕組みして目を瞑り、レナはギルド内を観察している。
そんなゼロの姿をギルド内にいた冒険者達は軽蔑の目で遠巻きに見るが、ゼロはそんなことは気にしない。
しかし、そんな中で3人の冒険者達がゼロ達に近づいた。
剣士とレンジャー、魔術師の3人組、何れも銅等級の冒険者でゼロの前に立ち、蔑んだ視線でゼロを見下ろす。
ゼロは一度だけ目を開くが、直ぐに目を閉じた。
そのゼロの態度に腹を立てたのか、剣士がゼロを睨む。
「おい、薄汚ねえネクロマンサーが何の用だ?ここはお前のような奴が来るところじゃねえんだよ!」
ゼロは目を閉じたままで口を開いた。
「私達は呼ばれたからここに来たのです。私が気に入らないのは理解できます。貴方達に関わるつもりもありませんので気にしないでください」
しかし、それがさらに剣士の神経を逆撫でしたらしく、剣士は更にゼロに詰め寄る。
「目障りだっていってんだよ!」
剣士がゼロに掴みかかろうとするが、それをレナが一喝した。
「止めなさい!私達が気に入らないなら放っておけばいいでしょう!」
レナの鋭い声に咄嗟に手を引いた剣士だが、レナを見て下卑た笑みを浮かべた。
「あんたも大変だな、こんな奴に付き合わされて、ろくな仕事にありつけないだろうよ?」
その様子を見たレナはため息をついた。
「緑が多くていい都市だと思っていたけど、冒険者の質は悪いようね?それとも貴方達の質だけが悪いのかしら?」
3人の冒険者が殺気立つ。
「おい!ナメてるんじゃねえぞ!」
剣士の手が剣に伸びるがその瞬間、ゼロが剣士の手首を掴んだ。
「そこまでです!こんな所で剣を抜けば只では済みませんよ!ギルドの規則で冒険者同士の私闘は禁じられているはずです」
剣士がゼロの手を振りほどこうとするがびくともしない。
それを見たレンジャーの男が自分のショートソードを抜こうとするが、ゼロの視線を受けて動きを止めた。
レナがゼロと剣士の間に割って入る。
「その辺にしなさい!私達はトラブルを起こしに来たわけじゃないのよ!それに、貴方とゼロが戦ったら貴方、本当に無事では済まないわよ。それに、先に手を出したのはそちら、何の名分も無いわよ」
「偉そうにしてんじゃねえよ。こいつなんざ死人の手を借りなきゃ何もできねえ奴だろう」
剣士は言ってはいけない言葉を放ってしまった。
それを聞いたレナの瞳が細く据わり、声のトーンが下がる。
それは端で見ていたゼロですら引く程の迫力だった。
「ならば貴方に聞くわ。貴方、たった1人でドラゴン・ゾンビを相手に渡り合って生き残れる?ゼロはそれを成したわよ。勝てなかったにしてもドラゴン・ゾンビを相手にたった1人で戦って、半日以上も足止めして鉱山の街の人々を救ったわ。ギルドの記録を見てみなさい。歪曲されているけど、矛盾点に彼のことを当てはめれば自ずと明らかになるわ」
レナの迫力に気圧されて剣士が後ずさる。
「それに、ゼロは死霊術を使わなくてもその辺の剣士や戦士なんかよりもよほど強いわよ」
詰め寄るレナに剣士は引きつった笑いを浮かべる。
「へっ、口だけならば何とでも言えるわな」
レナは更に追い詰めようとしたが、剣士の背後に視線を向けたかと思うと踵を返した。
「止めた。こんな奴等に本気で頭にきて私がバカみたいだわ」
レナが肩を竦めた次の瞬間
ドガッッ!
背後から何者かに殴られた剣士が吹き飛ばされた。
レンジャーと魔術師が振り返るが、レンジャーは剣士を殴った者に殴り飛ばされ、魔術師はもう1人の人物に押さえ込まれた。
「貴様等!俺の客人に無礼を働いたな!」
「貴方達こそ森の都市の冒険者の面汚しね」
殴られて気絶している剣士とレンジャーの耳にオックスとリリスの声は届かなかった。
剣士とレンジャーを殴り飛ばしたのはドワーフのオックス・ガンツ、魔術師を押さえ込んだのはエルフのリリス・エイリアだった。
「おうゼロ、済まなかったな、此奴等が迷惑をかけたようだ」
陽気に声を上げたオックスは振り返って遠巻きに見ていた冒険者達を睨みつけた。
「ここにいるゼロ達は俺の客人で闘技大会で俺を負かした手練れの冒険者だ!貴様等が束になってかかったって勝てる相手じゃねえ!それでも文句があるならば俺に言え!ゼロに勝負を挑むのは俺を倒してからだ!その方が貴様等の身のためだぞ!」
「これ以上森の都市の名を汚すような真似はやめなさい!」
オックスとリリスの声に周囲の冒険者はバツが悪そうに視線を逸らしたりギルドを出て行く。
ゼロに絡んでいた3人は残された魔術師が気絶している2人を他の冒険者の手を借りて運び出して行った。
オックスは再び振り返り、ゼロに手を差し出した。
「重ねて済まなかった。そして、よく来てくれた」
ゼロはその手を握り返す。
「お久しぶりです。私で力になれるならば何なりと言ってください」
ゼロの言葉にオックスとリリスは頷いた。




