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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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魔王のお茶会2

「そういえば、1つお尋ねしたいのですが、最近各地で魔物の生態に変化が見られるのですが、何か心当たりはありませんか?」


 ゼロが思い出したかのようにプリシラに質問した。


「この周辺に限ってみればそれは妾の影響だ。妾がこの城にいるために多くの魔物が集まってきよる。そんな中で妾の影響下にない魔物が追い立てられて生息地を変えておるのだ」

「プリシラさんの影響下にない魔物?」

「うむ、ある程度の知性がある魔物ならば自ら望んで妾の下に集まるが、知性無き野獣の如き魔物は違う。恐怖で支配することは容易いが妾はそんなことはせぬ。その結果、其奴等が生息域を移動するのだ」

「この周辺といいますと、どの程度の範囲がプリシラさんの影響下なんですか?」

「特に妾が力を示している訳ではないからの。この城を中心に山2つ分程度だ。ただ、上位の魔物は妾の気に敏感だからの、もっと遠い地からも集まるぞ」


 プリシラは立ち上がり窓の外を眺める。


「ただ・・・もしも世界中で魔物の変化があるとすれば、それは妾の影響ではない」

「何か他に強大なものが?」

「分からぬよ。妾はここで静かに過ごしたいだけだ。他のことに興味はない・・・」


 プリシラは窓を開けてバルコニーに出た。

 ゼロも席を立ちバルコニーに出てみるが、他に席を立つ者はいない。

 プリシラと真っ向から対峙したのはゼロで、何もできなかった自分達はプリシラと対等に話すことはできないと理解しているのだ。

 バルコニーで羽を休めていたハーピーがプリシラに身体をすり寄せていたが、ゼロの姿に気づいて一瞬だけ緊張する。

 しかし、ゼロが手出ししないと理解したのか直ぐに緊張を解いた。

 バルコニーから見下ろせばそこは魔物の楽園のようだった。


「説明したとおり、この子らは非常に柔軟だ。このように穏やかにもなるし、野良の魔物でも空腹や身の危険を感じない限り必要以上に他者を傷つけることは少ない。しかし、その一方で時として破壊と殺戮、欲望の化身にも変わる。貴様等の歴史を紐解けば分かるはずだ、闇の軍勢として多くの魔物が貴様等と戦ってきた」


 プリシラに促されてハーピーが飛び立つ。


「結局はこの子らも不毛な覇権争いに利用されていただけだ・・・。妾は魔物使いとしてそのように利用される魔物を見とうない。しかし、妾も魔王とはいえ万能ではない。だからこそ、妾の手の届く範囲だけでも、この子達に平穏を与えてやりたいのだ」


 話を聞いていたゼロがふと思い出す。


「そういえば、私達がここに来るまでの道のりで結構な数の魔物と戦いましたが?」

「あれか?ちと痛い目にあわせて追い返そうとしただけだ。尤もことごとく返り討ちにあったが」

「私達を追い返そうとしているのはなんとなく分かっていました。ただ、手加減できる相手ではなかったので討伐してしまいましたが」


 バツが悪そうに説明するゼロだが、プリシラは笑みを浮かべた。


「別に構わんよ。そもそもあの子達も死んではおらん。妾の影響下にあるので致命傷を受けても簡単に死にはせん。貴様等に倒された後に目を覚まして帰ってきておる。これは魔王であり魔物使いでもある妾の加護の賜物だ。魔物を使い捨てにする他の輩には真似できぬ」


 プリシラは胸を張った。


「なればこそ、貴様と妾の間には何の禍根も生じておらん。ここに保護している人間も返してやるから皆で帰るがいい」


 ゼロは頭を下げた。


「ありがとうございます。私達も戻ったらプリシラさんがこの城に住めるように尽力します」

「うむ、頼むぞ。尤も、駄目だと言われても妾はそれに従うつもりはないがの。・・・しかし、もしも国として妾のこの城に手出ししないと約束するならば、たまに迷い込む末端の人間位ならば目こぼししてやろう」


 ゼロは再び一礼した。


「分かりました。それでは、そろそろお暇したいと思います」

「うむ、気をつけて帰るがいい。またお茶を飲みにきてもよいぞ」


 プリシラの冗談にゼロは無言で肩を竦めた。

 笑顔でその様子を見ていたプリシラがバルコニーの下を指差す。


「ほれ、奴等の準備もできたようだ」


 プリシラの指差した先を見れば、そこにはイザベラや行方不明になっていた冒険者達が整列していた。

 イザベラはメイド服から鎧姿に着替えている。

 ただ、一様に感情の感じられない無表情でいる。


「今ここで支配を解くとあの娘は妾に再び刃を向けかねん。だからあのまま連れていけ。なに、明日の朝には正気に戻るから、よく言い聞かせてやってくれ。もしもまた妾に刃向かうならば、次は容赦せぬぞ。今度は庭師としてこき使ってやる」


 悪戯っぽい笑みを浮かべたプリシラに見送られてゼロ達はプリシラの城を後にした。


「彼奴め、最後の最後まで妾に膝を屈しなかった。魔王の圧倒的な力を目の当たりにすれば並みの者ならば本能的に膝をつくものだかな。本当に面白い奴だ。流石は奴の弟子というところか・・・」


 プリシラは城を出るゼロの後ろ姿をバルコニーからいつまでも見送っていた。


 精神を縛られたままのイザベラ達は無表情でゼロ達の後を付いて来たが、プリシラの言ったとおり翌朝の日の出と同時に全員が正気を取り戻した。

 ことの一部始終を説明されたイザベラは悔しさに歯噛みするも、プリシラの城に引き返すようなことはせず、ヘルムントに協力して聖務院を説得することを約束した。

 アランや一緒に生還したシーグル司祭も同様に協力を申し出て、これにより聖務院特務兵の3人と高位の司祭が聖務院を説得することとなったのである。

 レナも魔導院に報告して協力を取り付け、ゼロ達の報告を聞いた南方を治める貴族に加えてエルフォード家も味方につけた結果、王国政府もプリシラの件は黙認することを決断した。

 ただ、あくまでも黙認であり、国内に魔王が住み着いたことは極秘事項とされ、事情を知るゼロ達も他言しないことを命じられた。


 後日談ではあるが、王国政府の決定をプリシラに伝達する役目を負わされたのはヘルムントであり、ゼロは再びヘルムントに付き合わされてプリシラの城を訪れることになったのであるが、ヘルムントと2人でプリシラの城に行ったことをレナに知られ、風の都市に戻ってからこっぴどく叱られたのであった。

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