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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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魔王のお茶会1

 恐怖の拘束から解放されたライズ達は悔しさよりも安堵の表情を浮かべた。


「流石に無理だ。見ただけで足が竦んで指先すらも動かせなくなった」

「然り。己が修行不足を思い知らされた」


 イズ達もゼロに駆け寄る。


「ゼロ様申し訳ありません。恐怖に支配されて何のお役にも立てませんでした」

「いえ、仕方のないことです」

「しかし、ゼロ様は恐怖に支配されませんでした」

「それは死生感の違いですよ。命ある者は本能的に死を恐れます。そんな中で私は死者と共に生きる死霊術師ですから感覚が違うんですよ。まあ、私の方が常識からズレているんですよ」


 ゼロが肩を竦めた。

 そんな様子をレナが憮然とした表情で見ているが、流石にもうプリシラに食ってかかるつもりはないようだ。

 そんなゼロ達をよそにプリシラは玉座から立ち上がった。


「ほれ、別室に案内するぞ。他の者ももてなしてやるからついて来い」


 プリシラはゼロ達を連れて別室に向かった。


 ゼロ達が案内されたのは執務室のような部屋で、謁見の間に相反してこじんまりした部屋だった。

 執務机の他に来客用の大きなテーブルが備え付けられていてゼロ達はそのテーブルの席についた。


「妾もこの城に居着いて日が浅いからの、あまりよいもてなしはできんが。少しばかり話し相手になってもらおう」


 プリシラも席について指を鳴らした。

 ほどなくしてお茶をワゴンに載せて運んできたメイドの姿を見てゼロ達が仰天した。


「イザベラ!」


 思わずヘルムントが立ち上がる。

 そのメイドは紛れもなくイザベラであった。

 無表情で皆の前にお茶と菓子を配膳する。


「そう驚くな。精神を支配してはいるが、傷1つ付けてはおらんよ。此奴め、この城への来訪の目的も述べず、生意気にも妾に刃を向けおった。仕置きとして小間使いに使っておったたけだ」


 イザベラ程の実力者ですらこの有り様である。


「貴様等が迎えにきたようだから他の者と共に帰してやる」


 お茶の香りを楽しみながらプリシラは説明した。

 ゼロも躊躇することなく目の前の菓子とお茶を口にするが、他の者は手が伸びない。


「ゼロといったか?何の迷いもなく口にしたが、貴様なかなかの胆力よの」

「このお茶の香りは知っています。私の知己ある貴族のお屋敷で出されるものと同じものです」

「フフッ、粗野な奴かと思ったがなかなかの見識だ。確かにこのお茶と菓子はお前達の国内で出回っているものだ。別に変な物は入ってないから安心せい」


 ゼロが先陣を切ったのとプリシラの説明をきいて他の者も手を伸ばす。


「さて、貴様等がこの城に来た用向きだが。行方不明の冒険者達を救出に来た、だったか?」

「はい、先程の話しではプリシラさんはイザベラさんをはじめ、複数の冒険者を拘束しているようですが」

「拘束とは人聞きの悪い。保護しているだけだ。この女と一緒にいた男以外は妾を恐れるあまり精神が凍りついたからひとまとめにしておるがね」


 そこでヘルムントが口を挟んだ。


「イザベラと共にいたアランは如何なされた?」

「あの男か?やはり妾に刃を向けおったから仕置きにこの城の掃除をさせておるよ」


 とりあえずはイザベラだけでなくアランや他の冒険者も無事のようだ。

 ただ、プリシラの話しでは最初のパーティーだけは全滅しているようだが。

 ゼロがプリシラに質問する。


「プリシラさんは全滅したパーティーは野良の魔物に襲われたと話していましたが、となると、例えばこの城に住む魔物はプリシラさんの支配下にあるということですか?」

「支配とはちと違うかの?魔物の方が妾の周りに集まってくるのだ。妾は魔王であるが、所謂魔物使いでもあるからの。魔物達が自然に集まってくるのだ」


 プリシラは窓の外を見る、

 丁度バルコニーにはハーピーが羽を休めている。


「この城にいる魔物は非常に穏やかに見えますが、これもプリシラさんの影響ですか?」

「貴様等にとって魔物とは凶暴であるとの認識かもしれんが、決してそうではないぞ。魔物の大半は非常に柔軟な生態を持っておる。野に住み食うか食われるかの中にいれば凶暴にもなるし、制御も難しいがの、この城にいる奴等のように争う必要のない環境にいれば大人しく、御し易いものだ」


 プリシラは愛おしそうにバルコニーのハーピーを見る。


「プリシラさんはこの城に魔物を集めてどうするつもりですか?」

「別にどうもせんよ。久々に現世に目覚めたからの、ちょうど住む者もいなく、周りに五月蝿い人間もいないこの城で静かに過ごしたいだけだよ」


 皆が顔を見合わせた。

 魔王とはすべからく邪悪と破壊の象徴であると認識していたため、静かに過ごしたいとのプリシラの言葉が俄に信じられなかった。

 ゼロが臆することなく質問を重ねる。


「そうしますと、プリシラさんは例えば国を滅ぼすとか、世界を支配するとか、そういった考えはないのですか?」

「他の魔王は知らぬが、少なくとも妾はそんなつもりはない。そんなことをしてもつまらぬし、面倒なだけだ。妾はここで魔物達と静かに過ごしたいだけだ。なればこそ、この地に攻め入ったり、妾に仇なすならば容赦はせんよ」

「そうは言ってもこの地は王国の領内ですからね、色々と問題になりませんか?」


 ゼロはこの中で唯一国に仕える役人のヘルムントを見た。

 レナも魔導院に所属しているが、こちらは形式的なもので何の権限もないので澄まし顔でお茶を飲んでいる。


「うむ、国としてみれば問題になるであろう。なにしろ国内に魔王が居着いているのだから」


 しかし、プリシラはどこ吹く風だ。


「それは貴様等の都合で妾は預かり知らぬことだ」


 ゼロは考え込みながら何かを思いついたようだ。

 その様子を見たレナは何の心配も無い様子でイザベラにお茶のお代わりを注いで貰っている。


「ものは考えようですよ。確かに国内に魔王たるプリシラさんが居座るにしても、プリシラさんはそれ以外に何も望んでいない。その上でもしもこの地に軍隊なりが攻め入ればただでは済まないでしょう」

「そうだな。妾の方から手出しするつもりはないが、妾に仇なすならば話は違うぞ」


 そこでゼロが不敵な笑みを浮かべた。

 その様子を横目で見たレナは対照的に呆れ顔だ。

(またゼロの悪だくみが始まった)


「この国は隣国との関係は良好であると聞いています。しかし、この地は南の山脈に接していて、道らしい道も整備されていない。更にその先には国交を結ぶ国は無く、少数民族が覇権を争っている地があると聞いていますが?」


 ゼロはヘルムントに訪ねる。


「然り、南方では蛮族共が争いあい、国というものが確立されていない。山脈が隔てているために我が国にはさしたる影響はないが油断はできぬ。この地を治める貴族も南方の監視を担って貰っているのだ」


 ゼロは頷いた。


「そこでものは考えようです。この山奥の城もひょっとしたら遥か昔にそのように南方に目を光らせていた砦なのかもしれません。ならば、ここにプリシラさんが居てくれれば南方に対する憂いも多少は減らせるのでは?」

「ゼロ殿、どういうことだ?」

「プリシラさんはこの地に攻め入れば容赦しないと仰っています。それは仮に南の山脈を越えて国に攻め入ろうとする者も同じでしょう?」


 ゼロはプリシラを見た。


「うむ、貴様等の領土争いなどに興味はないが、武力を持ってこの地に攻め入るならば話は別だ」

「そこで、プリシラさんにはこの地に住んでもらえば南に対する警戒の負担を減らすことができるというわけです」

「そうすると妾に国境警備の真似事をさせるつもりか?」

「そんな大層なものではありません。プリシラさんにはこの地で望むように静かに暮らしてもらうだけです。そうすれば自ずと南方から攻め入ることが困難になります。国としてみればプリシラさんがこの城に住むことを黙認すればいいだけです」


 ヘルムントが腕を組んで考え込む。


「確かにこれは一介の冒険者に過ぎない私が決めることではありませんし、国にしてみればそんな単純なことでもないかもしれません。ただ、現実的に見てプリシラさんに城を出てもらうことは不可能に近いです。ならば、双方に利のある選択肢を選ぶ方が良いと思います」

「「うーむ・・・」」


 ゼロの説明をきいてプリシラとヘルムントが同時に唸る。


「魔王たる妾がいいように利用されているような気がするが・・・」

「そんなことはありませんよ。別に何かを要求しているわけではありませんから」

「それもそうであるか。まあ、別に構わんが」


 プリシラは納得した様子だがヘルムントは難しい表情だ。


「これは流石に我には判断できぬ。王都に戻り報告して判断を仰がねばならぬ」


 ゼロは頷く。


「それはそうでしょう。でも決して悪い話ではないはずです。この地を治める貴族にも説明して協力を取り付ける必要もあるでしょう。私も知己のある貴族に相談してみますよ」


 ヘルムントは決心した。


「他に道はないようだ。我も頭の固い聖務院を説得してみよう」


 自らが所属する聖務院の上層部を頑固呼ばわりするなど、ヘルムントもよほど柔軟な思考の持ち主である。

 その様子を見たプリシラが面白そうに声をあげて笑い出した。


「ハハハハッ。ゼロよ、貴様は本当に面白い奴だ。魔王たる妾を平然と口車に乗せおった。ヘルムントとやら、約束しよう、貴様等が手を出さぬ限り妾も敵対することはせぬし、妾の影響下にある魔物は人間に害をなさぬように言い聞かせてやる。魔王自らの約束だ、これは無視できぬぞ?」


 ヘルムントは頷くと同時に目の前のお茶を飲み干した。

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