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霧戦争二次創作シリーズ

霧戦争5期 第6週目日記

作者: SB2S

◆◇◆


「シズカ・ビハインド・ブラスト・ベットトゥステーク。状況を報告しろ」

「はいはい。お疲れ様ですシズカです。オーヴァー」

「定例報告の時間だ。””速く””しろ」


「今回の戦死者は一人でした。レ……リ……レッド・リーザリー。大隊番号10番、私より””速い””登録者です」

「報告書で読んだ。たしか、取引相手の一人だったかい……」

「そうです。コロッセオでの活動について、まあ、色々と。例の篠崎の残党とも取引をしていたみたいですが」

「あの男が死ぬとは思えないが……まあいい。俺が弔電を出しておく」

「人違いだったらどうするんです?」

「死人は気にしないさ……」


「それと、もう一つ。いい加減どうにかしろ」

「何がですか? 職務は頑張ってますよ。いい食堂も見つけたんですよ」

「名前の話だ。お前の名前は長すぎる……」

「仕方ないですよ。これ、上から付けられたコードネームなんですから。先輩もそうですよね?」

「何事も短いほうが強い。短ければ声に出すのも速い。速いことは即ち強いことだ……」

「そりゃまあ、速度に勝るものは無し。社是ですしね」

「短い名前は強度が高い。長い名前には不要な情報が多い。不要な情報を与えれば付け入られる。いつだって悪魔は名前を介して取引を持ちかけるだろう……」

「あ、これ先輩音声切ってますね? こっちの声聞いてませんね?」

「短く、端的で、速い名前。名前そのものがそれ自体を指す、代名詞を目指せ」

「はーこういうところあるんですよこの人。ホント、年取ると頭固くなっちゃって」

「代名詞は速い。サルガッソで、お前はドッヂウォールの……いや、聖ヨケルギウス記念体育大学の代名詞になれ。以上だ」


◆◇◆


 サクラの脳裏に焼きついた光景に間違いが無ければ、報告の男は五年前の禁忌戦争で死んだとされていた男だ。その男が死んだのであれば、間違いなく死んだのだろう。大隊の死亡者名簿は常に的確で、正しく、必要な情報を与える。戦いが終わるたびに名簿に目を通すよう、シズカに念を押したのはサクラ自身だ──見落した経験から来る忠告だ。

 レッド・リーザリー。いくら名前を変えたとしても、本質まではそうそう変わるものではない。あの戦いでハイドラ大隊を裏で動かしていたのは間違いなく奴だ。大枚をはたき、ライダーの横の繋がりを加速させ、企業連盟に背く道を選ぶほどの強さを与えた。ブローカーの代名詞。歴史の表には決して登場せず、霧の中を自在に歩き回るワンデイパスポート・ユーザー。


「誰もが俺を超えていくな……」


 サクラは椅子から立ち上がると、誰の目にも止まらぬ速度で胸元でY字を切り、彼の””速さ””を悼んだ。

 その男が死んだのであれば、間違いなく死んだのだろう。死に場所を選べたのだから、それは自由というものだ。


◆◇◆


『悪いことは言いません、シズカ。次のミッションはコロッセオに行くべきです』


 ねぐらとしているセーフハウス(言い方はかっこいいがただの安アパートだ)へと帰投したシズカは、ヴェイスののメンテナンスをしながら、ドッヂウォール現地支部の人間から次回のミッションの通達を受けていた。

 ミッション名はハッキング。

 デバステイター・ユニットを内蔵するデバステイター・センチネルに守られたセクションの攻略であり、危険度の高い任務には違いなかった。


「どうしてですか? 確かに私は聖ヨケルギウス記念体育大学の宣伝のためドッヂウォールお嬢様直々の命令を受けて来たわけですけど」

『どうしてっていうかそれが答えですよ。あなたの任務は北の遺跡の攻略ではない。目的を履き違えないで下さい』


 デバステイター・センチネルが行う攻撃は、五年前の禁忌戦争時代よりも熾烈で不明瞭な原理に基づくものだ。遺跡攻略は大企業の威信をかけたプロジェクトでもある。活躍したところで、その勇姿は外部に流れない。


「いやあ……私もちょっと興味があるんですよね。デバステイター。先輩が言ってた奴とも違うみたいですし……」

『理解不能です。個人的な事情を挟む事は許されない。それがドッヂウォールの犬としての役目であり、首輪です。それであなたは給料を貰っている』

「……私、ここ最近お給料貰ったことって無いんですけど」

『あなたが318ヶ月分を前借したからだったと思いますが』

「ギルデンロウ式金儲けも潰されちゃったわけですしねえ……」


「待て」


 声に気付いて後ろを見やれば、そこには山と見紛うような威圧感を背負った””存在””が仁王然として立っていた。


「えっ……だ、誰ですか? 家賃の支払いは滞納していないので立ち退きは無いはずですが」

「お前はこの残像領域で今日を生き残ったに過ぎない」


 ””それ””の表情は険しく、きつく睨み付けていた。


「まずはじめに断っておく。残像領域は依然としてかこくだ。おまえがユニオンギャンボルにせいを出すのはけっこうだが、ほんとうの脅威は霧の向こう側からあほと腰抜けには聞き取れない静かな摺り足で背後に迫ってくる。お前はそいつらに焼かれ、フィンブルヴェト・ウルフにも慰められない死を迎えるだろう」


 真に迫ったその声音に、シズカは思わず唾をのみ込んだ。

 顔も知らない、得体の知れないその”””存在”””に、僅かな恐怖すら感じていた。


「デバステイター・センチネルをトロトロとあたりを見回すトーチカや電磁鉄線と同じと決めつけるのは愚の骨頂だ。アセンを組み替えろ。クイクドライブ数を下げてでも、金塊を捨ててでも、おまえのハイドラをマーケットで鍛えなおせ」

「いやあ……無理じゃないですかね。お金ないですし。今日の分はさっきお店で使っちゃったですし」


 生とは、勝利とは、運だけで引き寄せられる物ではない。

 祈りとは行動であり、運命であり、受け入れるための儀式である。

 旧避聖書に曰く、祝福の際、ヨケルギウスは謂った。「お前がお前の肉体からその敏捷を取り払い、辞めるときであろう、おまえが死を成就するのは」と。

 大きな””””存在””””の言葉は、シズカにその聖句を思い出させるには十分だった。


「戦い続ける覚悟を決めたおまえにはおれは問いかけ続ける。おれは抜け目のない真の男の中の男は嫌いじゃない」

「いや、だから女なんですけど」

「おまえの選択は固まっただろうか? 悩む時間はおまえを強くする。目つきから甘さが消え、錆と電磁波をふくんだしめったくうきが似合う男になるだろう。おれは何人もの男が真の男になるのを見てきた……」

「あ、この人も話聞かないタイプですね。分かってきました」

「今まで以上におまえの中の真の男らしさがためされる。北の遺跡は禁忌よりも危険で、てんもんがく敵な脅威が腹をすかせた犬のように待ち構えている。どのみちそいつらかお前のどちらかは戦場で焼け死ぬ。おれもお前もそいつらも、この残像領域で今日を生き残ったに過ぎない……おれが言いたいことはそれだけだ」


 そう言い残して、”””それ”””は去っていった。

 企業連の思惑を、新たなドゥルガーの夢を、『ただ生き残っただけ』だと、そう言って。


『ミスター・マツド……』


「え? 誰ですか? それ」

『いえ。忘れて下さい。オルノーの探知にすら引っかからなかった伝説上の存在です。内部資料にはその名前と、五年前に一度観測されたという噂だけがあったのですが……それよりも、コロッセオの申し込みは既に締め切られてしまっていますね』

「好都合じゃないですか? 遺跡に行くには……それに、死ぬつもりなんてこれっぽっちも無いですし」


――聖ヨケルギウスと彼に委託された全ての回避壁に無限の最大回避とクイックドライブあれ。


◆◇◆

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