スライムと救出
「きゃあああああああ!」
「なんだ!?」
湖から伸びた何本もの透明な触手が、アイリスを絡め取っていた。
すると、湖が盛り上がっていき、半球体状の物体が姿を現した。
かなりデカいぞ!?
『該当データ照合……スライムですね。湖に擬態していたようです』
「スライム!?」
もしかして、この湖そのものがスライムなのか!?
「ぬ、抜け出せない!」
拘束から逃れようともがくアイリスの手は、スライムの触手をすり抜けている。
そのくせ、スライムはアイリスをがっちり掴んで離さない。
その触手どうなってるんだ?
「今助ける!」
俺はアイリスに手を伸ばした。
しかし、
「きゃあああああ! ――!」
「アイリス!」
あと一歩のところで、触手に掴まれていたアイリスは、スライムの体内へと引きずりこまれた。
「くそっ!」
俺がもっと早く動いていれば!
「――! ――!」
アイリスがスライムの中でもがいているが、自力で脱出できそうにない。
「いやまだだ! スライムの中に飛びこんで……ん?」
うおっ!? アイリスの服だけ溶けてる!?
アイリスがあられもない姿になっていく。
意外と立派なものをお持ちでいらっしゃる。
って、いけないいけない! はやく助けないと!
「アイリス!」
俺はスライムに手を伸ばした。
ジュワァ!
「あっつ!」
スライムに触れた部分が火傷したように熱くなり、思わず手を引っ込めた。
「え……」
スライムに触れた部分が少し熔けている。
『分析……完了。強力な酸を検出』
強力な酸!?
「やばい! アイリスも溶かされる!」
『今のところは無事のようです』
「え? 本当だ」
よくわからないが、アイリスは溶かされていないようだ。
溶かされているのは、アイリスの眼鏡や服などの持ち物だけだ。
「なんでだ?」
『おそらく、無機物だけを溶かしているのでしょう』
無機物だけ?
よくわからないが、アイリスは溶かされる心配はないってことか?
でも、早く助けないと、スライムに溺れてアイリスが死んでしまう!
「うりゃ!」
もう一度スライムに手を突っ込む。
「ぐっ! あっつ!」
ダメだ! とてもじゃないけど、手を入れられない。
『先ほども同じ行動をして手を溶かされていましたよね? 学習能力がないのですか?』
ご、ごめん。
というか、なんで熱いんだ?
スライムの体の温度がそんなに高いようには見えないけど。
酸で俺の体が溶かされて化学反応が起きたから熱くなったって感じでもないし。
『この機体の痛覚は、熱さに変換されているからです』
そういうことか。
なら、この熱を持った部分は、本来なら激痛が走っているってことか。
痛みがなくてよかった。
この熱さから考えると、もし痛みがあれば今頃のたうち回っていたはずだ。
とにかく、アイリスを助けるには別のアプローチが必要だな。
とりあえず、石ころを投げてみるか。
「うりゃ!」
投げた石ころは、スライムに当たると溶けた。
「次はこれだ!」
さっき拾ったカプセルの残骸をスライムに投げつけた。
これも溶かされた。
「だめか……」
木の枝も投げてみたが、溶かされた。
「……、……」
アイリスの動きが弱弱しくなってきている。
どうすればいい!?
何かないのか!?
『ガラスは溶けていないようです』
「え? あ、本当だ」
透明で少し分かりにくいが、スライムの体内でガラスだけ溶けていない。
だけど、それがわかったからってどうしうもない。
ガラスの破片があったって、アイリスを助けられないし……。
ん? 待てよ?
もしかすると……。
俺はカプセルの残骸が入った袋からガラスを全部取りだした。
まずは、サユに確認してみないとな。
「サユ、ここにあるガラスで俺をコーティングできるか?」
『可能です』
よし! やっぱり思った通りだ!
サユは、カプセルの残骸を使って俺の体を直したと言っていたから、出来ると思ったんだ。
『ですが、この量では全身をコーティングすることができません』
「わかった。なら腕だけ頼む」
『わかりました。ガラスコーティングを開始します』
「おお?」
サユが俺の体を動かして、集めたガラスで両腕をコーティングしていく。
サユも体を動かせるのか。
『マスターの許可があれば可能です』
そうなのか。
『例外として、マスターの意識がない緊急時には、マスターの許可なく体を操作することができます。まあ、そんなことは普通は起こりえませんが』
その節は大変ご迷惑をおかけしました。
『もう気にしてませんよ』
はい! 嘘だね!
『ガラスコーティング、完了しました』
両腕とも肩までガラスでコーティングされた。
「ありがとう」
よし、俺の意思で体を動かせるようになったな。
「アイリスを返してもらうぞ!」
スライムに手を伸ばす。
よし! 熱くもないし、溶けてもいない!
これならいける!
「ぐっ……!」
ガラスでコーティングされていない体に少しスライムが触れたが、俺はアイリスの体を掴んで引っ張りだした。
よし、救出成功だ!
「大丈夫か!?」
声を掛けるが、返事がない。
ただ、呼吸もしているし脈もあるから、生きているのは確かだ。
アイリスは気を失っているだけのようだ。
よかった。
それにしても……。
ほぼ全裸のアイリスは、目のやり場に困るな……。
そこへ、スライムが触手を伸ばしてきた。
「うわ!」
またアイリスを狙っているようだ。
俺はガラスでコーティングされた腕で触手にチョップをかました。
「うりゃ!」
すると、触手が千切れた。
どうやら、ガラスだと触手に攻撃が通るらしい。
『今のうちに逃げましょう』
「わかった!」
アイリスを抱きかかえて走る。
機械の体のおかげか、人一人担いでいるのに軽い。
「きた!」
触手が追いかけてくる。
「あっつ!」
足に触手が当たった。
「うわわ!」
どうにかアイリスを傷つけずにすんだが、バランスを崩して転んでしまった。
スライムがのそのそとこちらへと向かってくる。
って、おまえ動けるんかい!
触手が迫ってくる。
もうだめか!?
弱点とかないのか!?
って、ん? なんだ? スライムの体内で光る物があるぞ?
スライムの中心に何かある?
『スライムの核ではないでしょうか』
どうやら、スライムの核が光を反射して光っていたようだ。
今まで気づかなかったが、スライムが湖のある穴からこちらに上がったことで、見えるようになったみたいだ。
じゃあ、あれを壊せばスライムを倒せるってことか?
『おそらくは』
アイリスに触手が伸びる。
「やらせるか!」
俺はガラスでコーティングされた腕で、アイリスに迫る触手を防いだ。
また連れて行かれる前に倒してやる!
「サユ、石をガラスでコーティングしてくれ!」
『わかりました。腕のガラスを一部流用します……コーティング完了』
「よし! くらえ!」
俺はガラスでコーティングされた石を思いっきり投げた。
「くそ! 外した!」
一投目は外れたが、ガラスでコーティングされた石は溶けることなくスライムを貫通していった。
「次行くぞ!」
二投目はスライムの核に当たり、スライムの核にヒビが入った。
「砕けろ!」
三投目もスライムの核に当たり、スライムの核が砕けた。
よし! 砕いた!
すると、スライムの触手が弾けて、スライムの体は形が崩れて、ただの液体になっていった。
おっと、危ない危ない。
この液体に触れないようにしないと。
「な、なんとかなったな……」
『お疲れ様です』
精神的に疲れた。
体もところどころ溶かされているので、サユに修復してもらう必要があるな。
なんにせよ、アイリスが無事でよかった。
ただ、あられもない姿になっているので、目のやり場に困る。
アイリスの荷物にあった大きめの布をアイリスにかけてやった。
これで一安心。
『グランドマスターから通信が入りました』
「え? 誰から?」
『スライム討伐おめでとうー!』
この声は……マキナ?
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