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少女と森の狼



「きゃああああああ!」


「なんだ!?」


 突然森の中から女の悲鳴が聞こえた。


『北西の方角。ここより直線距離100mから女性の声が聞こえました』


 空耳じゃなかったか。


 しかし、距離があるにしてはやけにはっきりと声が聞こえたな。


 機械の体だから人間よりも聴覚が良いのかもしれない。


「サユ。声がした方へ案内してくれ」


『悲鳴の上がった地点では、何かしら問題が発生していることが予想されますが、本当に行くつもりですか?』


「そうだね」


 何があったか知らないけど、助けられるなら助けたいしね。


『不確定要素が多すぎます。危険です』


「機械の体なんだから、多少はどうにかなるだろ?」


『ですが、ポンコツなマスターでは対処しきれない可能性は十分にありえます』


「ポンコツって……。わかった。なら、とりあえず様子を見るだけにしておこう。無理そうなら逃げればいい」


『……了解しました』


 かなり不服そうだけど、了承してくれてよかった。


『ナビゲートを開始します』


「よろしく」


 サユの案内で森を駆け抜ける。


 機械の体だから息も切れないし、疲労も感じない。


 悲鳴を上げたと思われる少女の姿が確認できるところまで、あっという間に来れた。


 いきなり出ていくのは怖いので、俺は近くの木の陰に隠れて、少女の様子を窺った。


「ガルルルル」


「来ないでぇえええええええ!」


 少女は5匹の狼から必死に逃げていた。

 狼は、鋭い牙を剥きだしにして、凶悪な顔をしている。


 いくらロボットの体とはいえ簡単に噛み砕かれそうだ。


「この体ってあの狼と戦えるのかな?」


『該当データ参照。スペックは問題ありません。なので、勝てるかどうかはへっぽこマスターの戦闘能力次第です』


 あ、戦えるんですね。

 でも、俺次第って言われても、狼はおろか人を殴ったことさえないんだけど……。

 果たして勝てるのだろうか?


「はうっ!?」


 あ、少女が躓いて転んだ。


「ガルルルル!」


「ひぃいいいいいいい!」


 やばい! もうあの子やばそう! 早く助けないと!


 でも俺、生前武術を嗜んでいたわけじゃないから、戦い方がわからないんだよな。


「ガルルルル!」


「ひっ!」


 ああもう、今にも狼たちが少女に襲い掛かりそうだ。


 ええい! もうなるようになれ!


「うわあああああああああ!」


 俺は木の陰から出て、叫びながら一番近くの狼に向かって駆け出した。


「ガル?」


「え?」


 突然現れた闖入者に、少女も狼も驚いて動きが止まっている。


「おりゃあああああああ!」


 俺はがむしゃらに拳を振り下ろして狼の頭を殴った。


 ガツン!


「キャイン!」


 何とか命中して、金属で硬い物を叩いた鈍い音がした。


 狼は悲鳴を上げてフラフラになって倒れた。


「お?」


 なんかあっけなく倒せた?


 念のため狼をつんつんと指でつついてみる。


 どうやら狼は気絶しているようだ。


 正確なところは分からないが、俺が振るった拳はハンマーで殴ったくらいの威力はありそうだ。


 もしかして、この体って結構ハイスペックなのかな?


『なんですか今のへなちょこパンチは? 5歳児の方が断然ましですよ』


 え、そんなにひどかった?


『蚊が止まりそうでした』


 それもう動きが悪いってレベルじゃないよね!?


『その通りです。よくわかりましたね』


 褒め言葉なのに、心がすごく痛いんですが。


「ガルルルル!」


 おっと、狼たちは仲間をやられたことで多少気を入れ直したらしく、標的を俺に定めたみたいだ。


 とりあえず俺は先ほど狼を殴った手を握ったり閉じたりして問題ないか確かめてみる。


 うん、なんともないね。


 正直、人を殴ったことさえない俺なんかが狼を倒せるか不安だったが、これならいけそうだ。


「ガルァ!」


 狼が飛びついてきた。


「うわわっ!」


 俺は驚いて、反応できずにそのまま地面に押し倒されてしまった。


 そして、抵抗できないまま思いっきり狼に噛みつかれた。


 ガチン!


「痛っ! ……くもなんともないな」


「ガル、ルル……」


 むしろ狼の方が歯が痛そうにしている。


 ロボットの体が頑丈で助かった。


「ガルル!」


 ガチンガチンガチンガチン!


 気を取り直した狼は俺をかみ砕こうと懸命だ。


「ははは! こいつめー」


 対して俺は、犬にじゃれつかれてるような感覚で、甘噛みとすら感じない。


 上にのしかかっている狼の毛並みをさわさわと撫でる余裕すらあった。


 ロボットの体だけど、ちゃんと手触りとかわかるんだなー。


『何を遊んでいるのですか?』


 あ、これ、声は無機質だけど、サユ完全にキレてるね。


 あれかな? 壊れないとはいえ体に噛みつかれて傷がつくのが嫌なのかな?


 いや、傷がつくのかどうかすら疑問に思うほどこの機械の体頑丈なんだけどね。


「ごめんつい」


 ここは素直に謝っておこう。


『狼ごとき早く倒して、あの少女から情報を引き出してください』


「あ、はい」


 名残惜しいけど、ふれあいタイムは終わりだ。


「さてと。いい子だからおねんねしててね」


 俺は上にのしかかっている狼の横っ面に拳を叩きこんだ。


「キャイン!」


 狼は悲鳴を上げてパタリと気絶した。


「よっこいしょっと」


 俺は体の上に倒れている狼をどかして立ち上がった。


「残りは3匹か」


 もたもたしている間に、狼に3方向を囲まれてしまっていた。


 ただ狼たちは警戒していて、なかなか襲って来ない。


 こっちから仕掛けようかな?


『後ろです』


 サユの声に振り向くと、背後から狼が飛び掛かってきていた。


「うりゃ!」


 俺は咄嗟に拳をお見舞いした。


「キャイン!」


 俺の拳はちゃんと狼の顔に命中して、狼は悲鳴を上げて気絶した。


 さっきは取り乱してしまったが、ケガをしないとわかった今では平常心でいられた。


 というかサユって死角も把握してるのか。すごいな。


『当然です。どこかの能無しマスターとは格が違います』


 うん、その口の悪いところさえどうにかなれば素直に尊敬できるのになー。


「さて、残るはあと2匹か」


 と、思っていたら残りの2匹は森の奥に逃げていった。


「なんとかなったな。もしかして俺って結構強い?」


 サユは俺のパンチについて蚊が止まりそうなんて言っていたが、3匹も狼を殴って気絶させることができたのはすごいんじゃないか?


『何をほざいているのですか。私が何回あなたのよぼよぼパンチの軌道修正をしたと思ってるんですか』


 なるほど。

 俺が戦えていたのはサユのサポートがあったおかげだったと。


『死ぬほど感謝して下さい』


「あ、うん、ありがとう」


 サユからの評価は散々だったが、なんとかこの場を切り抜けることができて良かった。



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