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小地竜の襲来(前編)



「落ち着け!」


 加速度的に騒めきを増すギルド内に、大きな声が響いた。

 声の方を見ると、真っ赤な髪の毛をした大柄な男性がカウンターの前で仁王立ちしている。


「ギルマス!」


 騒めきは静まり、代わりに赤毛の男に視線が集まる。

 彼がこの冒険者ギルドのギルドマスターなのだろう。


「騒いでいても小地竜は撃退できねえ!

いいか、お前ら。焦りは準備不足を生み、準備不足は被害を拡大させる。

いつもオレが言っていることだろう」


 ギルマスはよく響く声で続けた。


「モリドン、状況を確認したい。小地竜の数と、ここまでの予想到達時間を知りたい」


 ギルマスは、血まみれで飛び込んできたモリドンに、落ち着いた声で話しかけた。

 モリドンは手に持っていた回復薬の最後の一口を飲み干す。


「はい、ギルマス。

奴らと接敵したのは、ここから歩いて5時間程度の場所にある森の境です。

接敵してからまだ10分も経っていません。

数は不明。俺がテレポートで逃げるときには、数は100以上程度でしたが、次から次へと森から出てきましたので、最終的に何匹になったのかはわかりません」


 モリドンの話をギルマスは腕を組み、目を瞑って聞いていた。


 話終わったあともしばらくそのままだったが、しばらくして目を開くと、声をはりあげる。


「よし! 推定される敵の数は500、到達時間は2時間後!

30分以内にこの街にいる全ての冒険者と騎士団を正門前に集めろ!」

「騎士団も……ですか?」


 ギルマスの言葉に、ギルドの職員が口を挟む。


「騎士団もだ」

「ということはつまり……」

「そうだ、今回の件は、緊急災害第2種に指定する」

「だめですよ、ギルマス!

緊急災害第2種に指定するには、王都のギルド協議会の許可が必要なんですよ!

わかっていますよね、ギルマス!」

「王都のクソジジイ共の決定よりも、小地竜がこの街に来る方が早い。

騎士団と連携しなかったら各個撃破されるだけだ」

「でも」

「王都のクソジジイどもがいちゃもん付けてきたら、俺が責任とって辞めるからいいだろ」


なおも抗弁しようとするギルド職員に、ギルマスは大きな掌を突きつけ、口を閉ざさせる。


「お前ら! 30分後に正門集合だ!

おい、誰か騎士団に走って行ってくれ。

あと、街中の回復薬をかき集めてこい!」


 ギルマスの指示に従い、ギルド職員が数名、扉から勢いよく飛び出していく。


 どこからか鐘の音が鳴り出した。

 どこか不吉な響きのある鐘の音は、街中に響き渡っている。


「すごいことになっちゃったね」


 僕はいつもと変わらず、無表情で立っているサラに話しかけた。


「ん。小地竜が500匹。かなり厳しい」

「小地竜ってどれくらいの強さなの?」

「単体で、平均的なCランクパーティと互角くらい。1対1で勝てそうなのは、この街では10人もいない」

「それ、もう絶望的だよね?」


 僕の言葉に、サラは肩をすくめ、そうかもね、と呟いた。


「サラさん、アレ、やりましょう。出し惜しみしている場合じゃありませんよ」


 リネールが何度か首を振ると、サラに手を伸ばした。


「ん。しょうがない。タイミング、ミスらないように」


 サラはリネールの手を掴んだ。

 美女と美少女の握手ってのも、なかなか目の保養になるな、と僕はくだらないことを考え、現実逃避していた。


「大丈夫ですわ。サラさんとわたくしですから」


 とリネールは微笑む。

 その自信に満ちた表情は、ギルドの喧噪が嘘のように静やかで、凛とした美しさがあった。


―――――


 それから30分後、僕たちは正門の前にいた。


 僕が未だかつて見たことのないくらい、たくさんの人がいる。

 きっと、100人以上いるだろう。

 僕の村の住人を全て合わせたよりも、きっと多い。


 そしてそれだけの人数が思い思いに喋っているせいかとてもうるさい。

 どの顔も強張っており、状況の厳しさを物語っていた。


 この集団から少し離れ、端の方に立っている揃いの白色の全身鎧を着ている人たちは、きっと騎士団の人たちだろう。

 整然と並び、微動だにしないその姿は、冒険者の半分くらいの人数しかいなそうだが、冒険者よりもはるかに強そうに見える。


「よし、集まったな!」


 集団の前に立っていたギルマスが声を張り上げた。

 さっきは持っていなかった真紅の大剣を持ち、同じ色の革鎧を身につけている。


 ギルマスの横には、ギルマスと並ぶと子どもにしか見えない体格の、白く輝く鎧をつけた金髪の女性が立っている。

 タレ目で優しげな顔をしているが、格好と立っている位置から推測するに、彼女が騎士団長さんなのだろう。

 人は見かけによらないものだ。


 ギルマスの話は続く。

 すごく大きい声だ。

 騎士団長さん、あんなに近くでこの大声を聞いて、うるさくないのかな。


「戦術は簡単だ!

まずこの位置に土魔法で陣地を作る。

それでやつらがやってきたら、遠距離攻撃で勢いを削ぎ、タンクが受け止める。

勢いが完全に止まったら、横から騎士団が突撃をかける。

その後は騎士団が撤退、突撃を繰り返し、冒険者はそれを支援する。以上だ!」


「栄えある王国騎士団の諸君、勇気ある冒険者の諸君。敵は強大です。

ですが私たちが協力すれば、必ずや勝利は私たちのものとなるでしょう」


 戦術を説明するギルマスに続き、騎士団長さんが口を開いた。

 小さな声で話しているようにしか思えないが、よく通る声をしていた。


 騎士団長が話し終わると、周囲の人たちから歓声があがり、一斉に動き始めた。


 土魔法を使える人たちだろうか。15人ほどの冒険者と騎士が、ギルマスの指示に従って辺りに散らばっていく。


「ねえ、サラ」


 その様子を見ながら、僕はサラに尋ねる。


「せっかく大きな壁があるんだからさ、あれに閉じこもればいいんじゃないかな?」


 僕は、僕たちの背後にそびえる、街を覆う壁を指差した。


「それは悪手。あの程度の壁なら、小地竜は簡単に登ってくる。

それに、広すぎて全部を守るには戦力が足らない」


「……そっか」

「小地竜は、というよりも魔獣は高い戦力を持っている人に向かってくる性質がある。

私たちがここに固まっていれば、小地竜はここをめがけてくる。

戦力を集中すれば、守りきれる」


 僕は彼女の言葉に頷いた。


「それで、僕はどうすればいいかな?」


 遠距離攻撃ができない僕は、やはり前線にいるべきなのだろうか。

 正直、ほとんど初の実戦だし、自信がない。


「あなたは私のそばでサポート。

具体的には矢と回復薬を取ってくる仕事。まだ乱戦は厳しい」


 よかった。

 それなら安心だ。


 僕はサラに頷いた。

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