古代遺跡第四階層~守護者戦?~
第四階層も、これまでと変わらないような雰囲気だった。
広い通路に、薄暗い灯り。
どこから何が出てきても不思議ではない空気が漂っている。
しかし、
「……何もないな」
第二階層や第三階層にように、大量の魔獣の奇襲や大量の罠を警戒していたが、今のところ特に何もない。
ただの通路が伸びているだけである。
サラとケールさんもしきりに辺りを見回している。
「油断するな。何があるかわからない」
僕たちはケールさんを先頭にゆっくりと通路を進む。
ケールさん、リネール、僕、サラの順番だ。
分かれ道一つない、真っ直ぐに道が伸びている。
先頭のケールさんは機械式の罠を警戒してか、金属の棒で地面を念入りに叩いている。
「……本当に何もないのか?」
いくら進んでも、罠一つ、魔獣一体出てこない。
一歩進むごとに、困惑が大きくなっていく。
進んだ距離的に、そろそろ次の階層への階段が出てきてもおかしくはない。
「……あれ?」
唐突に、これまでになかったような広い空間に出た。
そしてその一番奥に。
「大きいな」
「ええ、ゴーレムみたいですね。気を付けた方が良さそうです」
「あいつがいたから、この階には何もなかったのか」
巨大なゴーレムが、広間の一番奥に仁王立ちしていた。
僕の身長の5倍くらいはあるだろうか。
地竜よりも大きい。
手足は太く、いかにも力強そうである。
体の大きさに比べると、頭は小さく、小さな子どもが粘土で作ったような、顔がついている。
最も、目や口にあたる部分は穴が開いているだけなのだが。
表面には他の魔獣と同じように、金属的な光沢がある。
「……遺跡の守護者ってやつですか?」
そう尋ねると、ケールさんは首を傾げた。
「まあ、立っている位置からすると守護者なんだよな。
でもなあ……。これまで戦っていた遺跡の守護者の強さは、その遺跡の難易度に比例していたんだ。
この遺跡は、俺が挑戦したどの遺跡よりも難易度が高かった。
だから守護者の強さもあんなものじゃないはずなんだが……」
「そうなんですね」
「あれは、でかいだけのような気がするんだよな……」
ケールさんはいくつか魔術を使うと、首を振った。
「やっぱり大した強さじゃなさそうだな。
……チェスター、一人でやってみろ。
いい相手になるはずだ」
こういうこともあるのか、というケールさんの独り言を背に、僕は一歩前に出る。
ケールさんが僕一人で大丈夫だって言うってことは、本当に丁度いい強さの敵なのだろう。
「竜魔術『強化』『強化』」
『強化』を重ね掛けする。
体に魔力がいきわたる感覚にも、すっかり慣れた。
他の階層の魔獣と同じように、きっと魔術に対する耐性は高いだろう。
だから、近接攻撃で戦う。
エルダーオーガの骨を握りなおすと、いつものように足に力を入れ、敵に向かって走り出す。
昨日ケールさんと模擬戦をしたおかげか、これまでよりもはるかに鋭く、そして重い攻撃ができるようになった。
最初の一撃は、全力で叩き込む!
「うおおおおッ!」
ガキリとした手ごたえが帰ってきた。
一撃叩き込むと、すぐにバックステップで離れる。
ヒットアンドアウェイだ。
これまでの魔獣の傾向からすると、ゴーレムの攻撃を一撃くらったら致命傷になりかねない。
一撃も食らわないようにしないとな。
ゴーレムの様子を確認すると、僕が攻撃した右足に、微かにヒビが入っていた。
よし、効いている。
このまま続ければ問題ないだろう。
「竜魔術『強化』」
三重に『強化』をすれば、相手の攻撃に捉えられることもないと思う。
一つ深呼吸をすると、姿勢を低くして地面を蹴る。
流れるように風景が後ろに消えていった。
エルダーオーガの骨を地面と水平に振り、再びゴーレムの右足を狙う。
手に固い感触が伝わり、エルダーオーガの骨が弾かれた。
その反動に逆らうことなく、ゴーレムから距離を取る。
そして間髪おかず、再び攻撃に移る。
目の端でゴーレムが腕を振りかぶるのが見えた。
避けるか?
いや、こっちの攻撃の方が早い!
更に速度を上げて接近し、攻撃を振り切った。
今度は、何かが砕けるような音が鳴る。
「よし!」
右足が砕けたようだ。
ゴーレムは地面に膝をついている。
このままなら余裕でいけるか?
……いや、油断するとやられる。
何か特殊な攻撃方法を持っているかもしれない。
でもやることは変わらない。
近づいて、攻撃して、離れる。
それだけだ。
先ほどと同じように、接近する。
「危ない!」
しかし、ゴーレムもさすがに学習したのか、振りかぶることなく左手を突き出してきた。
威力は下がっていると思うが、それでも当たれば致命傷だ。
振りかぶっていない分、さっきよりも早い!
「くそっ!」
慌てて足に力を入れ、地面を蹴って進路を変える。
耳の横を轟音が通過した。
打ち付けられた地面が揺れる。
危なかった。
間一髪だった。
もう一瞬遅れていたら、叩き潰されていた。
ゴーレムの攻撃はやはり相当な威力があったようで、手首まで地面に埋まってしまっている。
あれ?
これ、チャンスじゃね?
「うおおおおお!」
地面に埋まったゴーレムの腕を駆け上がる。
相当深く地面に埋まっているのか、ゴーレムが腕を引き抜く気配はない。
ゴーレムの表面はごつごつとしていて、走りやすい。
腕を蹴って、上腕へ。
上腕を踏みつけ、肩へ。
そして。
「竜魔術『強化』!」
4回目の『強化』を使う。
体から漏れ出した金色の魔力が、目に見えるほどに濃密になる。
「おらああああ!」
ゴーレムの頭を狙って、エルダーオーガの骨を振るう!
ごしゃり、と何かが潰れるような音がした。
ゴーレムの頭は粉々に砕け、周囲に飛び散っている。
ゴーレムの体が徐々に傾いていく。
このままだと下敷きになってしまうかもしれない。
慌ててゴーレムから飛び降り、距離を取る。
距離を取ると、ゴーレムの体はゆっくりと崩れ落ちた。
やはり相当な重量があったようで、地面が揺れるのを感じた。
「……終わった?」
いや、守護者がこんなにあっさり終わるわけがない。
きっとここから何かあるはずだ。
油断しないようにしないと。
……まだ動かない。
……あれ?
これって、まさか。
倒した?
いや、まさかね。
「……終わったみたいだな」
ケールさんが僕の肩を叩きながら言った。
あ、やっぱり?
本当に終わったのか。
これで?
「やけにあっさり終わりましたが……」
「まあ、あれだ」
ケールさんは誤魔化すように頭を掻いた。
「守護者じゃなかったみたいだな」
ケールさんがゴーレムの立っていた場所を指さす。
その場所には、下に伸びる階段が口を開けていた。
「次の階層がきっと守護者の階層だろう」
「……そうですよね」
そんなことなんじゃないかと思っていたよ。




