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連戦

「竜魔術『強化』」


 僕の体を金色の魔力が覆う。


「よし、行こう!」


 僕が魔獣の群れに突撃すると同時に、サラの弓が鳴り、リネールの魔術が飛ぶ。


 視線の先には、大型の猿のような魔獣が歯をむき出しにして唸っている。

 Aランクの魔獣、エンシェントエイプというらしい。


 僕よりも頭数個分は大きく、全身を覆う灰色の毛は最高級の防具にも使われる程の硬度があるそうだ。

 それぞれの手には、大きな棍棒を持っている。


 地竜程の戦闘能力がある訳ではないが、知能の高さと、それを活かした連携が強力な魔獣である。


「はぁっ!」


 僕はエンシェントエイプまでの距離を一瞬で消すと、先頭に立っているエンシェントエイプの頭に向けて武器を横薙ぎに振るう。


 エンシェントエイプは持っていた棍棒を頭の横に構え、僕の攻撃を防ごうとした。


「甘い!」


 その様子をみた僕は、武器を振るいながら、全身に力を込め、一歩踏み込む。

 踏み込んだ地面が鈍い音を立てる。


 重さを増した僕の攻撃は、エンシェントエイプの棍棒を砕き、ほとんどそのままの勢いでエンシェントエイプの頭を砕いた。


「チェスター様、後ろから来ています!」


 リネールの声に振り返ると、別のエンシェントエイプがチェスターの後ろに回り込み、棍棒を振り上げていた。


「竜魔術『障壁』!」


 魔獣の筋力で振り下ろされた棍棒を、大きな音を立てて障壁が受け止める。

 流れのままの動きで、僕は右手をエンシェントエイプに向ける。


「竜魔術『極雷』!」


 僕の伸ばした手から雷が放出される。

 雷は瞬く間にエンシェントエイプの頭に着弾すると、肉の焦げる嫌な匂いが辺りに漂った。

 エンシェントエイプの体がゆっくりと地面に倒れる。


 その様子を確認してから周囲を見回すと、既にエンシェントエイプは全て倒れていた。


 頭を矢が貫通しているのはサラが、身体中が穴だらけになっている二体はリネールが倒したのだろう。



 昨日からの連戦で、既に僕たち三人は、Aランクの魔獣5体を相手にしても瞬殺できるほどの戦闘力を持つようになっていた。



 魔石の回収をサラにお願いをするために振り返ろうとすると、後ろからサラが鋭く声を上げた。


「チェスター!」


 僕がそちらを見ると、サラが森の奥に向かって矢を射かけているところだった。


「もう1グループ来てる!」


 矢の向かった先には、更に大きな、四つ足の魔獣が群れを成していた。


 それらは、物凄い勢いで僕たちに向かって突進をしてきている。


 近づくにつれ、足音が辺りを揺らす。

 魔獣がぶつかった木が粉々に吹き飛んだことを見ても、その突進の威力が見て取れる。


「くそっ! 連戦かよ」

「チェスター様、慌てないでください。

まずは遠距離から攻撃して敵の勢いを止めましょう」


 サラに続き、リネールも魔術を飛ばす。

 魔術が当たった魔獣は一瞬速度を緩めたものの、致命傷には程遠い様子だった。


 僕はリネールの前に立ち、武器を振りかぶる。



 そこからは、連戦に次ぐ連戦だった。

 昨日よりも魔獣が密集しているのか、1つの群れと戦っていると、音や血の匂いに誘われ、次々に魔獣の群れが現れる。


 しかもどの魔獣も、Aランクか、Bランクでも上位の魔獣だった。



 朝早くから戦い始め、いつしか陽は天頂まできていた。

 倒した魔獣の数は、軽く3桁を超える。


「いつまで続くんだ。これは」

「チェスター、そろそろ撤退も考えないとまずい」


 例え相手がAランクの魔獣でも、少数であれば一蹴できる僕たち三人だったが、ここまでの連戦をこなすことは困難であった。


 サラの体力は尽きかけているようで、動きにいつものキレと精細がなくなっている。

 リネールも、僕に守られながら、小規模の魔術を休み休み使っている状況だ。


「くそっ!」


 僕はまだ体力も魔力も余裕があったが、リネールをかばったままいつまでも戦い続けることはできそうにない。


「一度撤退しよう! サラ、先導してくれ!」

「わかった」

「竜魔術『神鳴』!」

 

 経験を積んだお陰で使えるようになった竜魔術を発動させる。


 天から一条の雷が轟音と共に降り、地面を抉る。

 辺りに土煙が舞った。

 瞬時に視界が潰れる。


 僕はリネールの体を抱えると、サラに手を引かれ、目を閉じたまま走り出す。

 サラはこの視界でも見えているのか、迷いなく走っている。



―――――



「ここまでくれば大丈夫」


 数分走ったところでサラは足を止めた。

 やはりサラの体力は限界に近かったのか、顔色が悪くなっている。


「周囲に魔獣の気配はない」

「危なかったな」


 僕はリネールを地面に降ろした。


「あんなに魔獣が密集しているとは、思ってもみませんでした。

通常であれば、お互いのテリトリーを侵さないようにある程度離れて生活していることが多いですのに」

「やっぱり何か異常が発生しているんだね」


 僕もリネールの横に腰を下ろした。

 自覚していない疲れが溜まっていたのか、地面に座った瞬間、体が重くなる。


 僕は鞄から魔力回復薬を取り出すと、二人に手渡す。

 二人は薬を飲むと、大きく息を吐いた。

 やはり、魔力は限界だったようだ。

 薬を一本飲んでも、まだ顔色は良くない。


「……あんまり休んでいられないみたい」

「どうしました、サラ?」

「こっち」


 サラが顔を上げ、イヌミミをピクピクと動かした。

 緊迫した状況ではあるが、その様子は可愛らしい。


「こっちから何かの気配がする」

「どんな気配?」


 僕は重い腰を上げる。

 既にサラは立ち上がり、弓を構えていた。


「わからない。けどこれまでの魔獣とは全然違う」

「その気配の持ち主が異常の原因かもしれませんね」


 リネールは鞄から魔力回復薬をもう一本取り出すと、一息に飲み干した。


「案内してくれ。遠くから姿だけでも確認できるといいな」


 サラは無言で頷くと、静かに歩き出した。

 いつもよりも警戒しているのか、イヌミミがピクピクと細かく動いている。



 しばらく歩くと、いつしか道は上り坂になっていた。

 坂を登るにつれ、ピリピリとした圧迫感が辺りに漂うようになってくる。

 ここまでくれば、サラでなくてもこの先に何かいることがわかる。


 さっきまではあんなにいた魔獣に全く遭遇しない。

 そのことが、かえって僕たちの緊迫感を増していた。


「そろそろ見えるはず」


 自然とサラの声も囁くように小さくなる。

 僕とリネールは無言で頷いた。



「これは……」


 坂を登りきると、そこは切り立った崖になっていた。

 本来であれば、眼下に森が広がっているのであろう。


 だが、


「海……?」

「いえ、これは……」


 森があるべきところに、青いゲル状の『何か』が広がっている。

 ゲル状の『何か』と森の境目では、木々が次から次へと倒れ、ゲル状の『何か』に吸収されているようにも見える。


「グラン・グラトニー・スライム……!」


 リネールの顔が蒼白になった。

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