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昇格

 僕が地竜を討伐してから数時間後、小地竜の群れの撃退にも成功した。


 地竜は群れのボスだったのか、地竜討伐後、しばらくして小地竜は一斉にどこかに消えていった。


 しばらくあたりを警戒し、小地竜が戻ってこないことを確認すると、砦に監視員を少数残し、残りは帰路についた。


 最も、僕はその時気を失っていたから、事の顛末は後日サラとリネールに教えてもらったのだが。


 人的被害もほとんどなく、襲撃の規模からすると、大戦果と言える結果だったそうだ。



―――――



「今回の最大の功労者はお前さんだ、チェスター」

 

 誰がどう見ても明らかだがな、と荷車に座っている僕の肩をギルマスが叩いた。


 僕は小地竜がどこかに消えて少し時間が経ってから目を覚ましたが、動くことができなかったので荷車に乗せてもらっていた。


「いてて、痛いですって、ギルマス!」


 強化の代償か、全身の骨や筋肉を損傷していた僕に取っては、何気ないその行為でさえ、地竜の一撃に匹敵するほどの痛みを生み出していた。


「大丈夫だろ、これくら」


「それ以上やったら頭を射抜く」

「そして黒焦げになりますわよ、ギルマス」


 なおも僕の肩を叩こうとしたギルマスを遮り、ギルマスの目前に弓につがえられた矢と魔術杖が突き出される。


 その言葉が冗談ではないことを、サラとリネールの目が物語っていた。


「じょ、冗談だ」


 ギルマスは慌てて手を引っ込め、誤魔化すように早口で続けた。


「そんなことよりもお前さん、最近この街にきたのか?

お前さんみたいな実力者が来てくれてありがたいよ。

ギルドランクはいくつなんだ?」


 ギルマスが手を引っ込めると、リネールの魔術杖は目前から引かれたが、サラは未だに矢を突き付けている。


 ギルマスの額に大量の汗が浮き出ていた。


「ギルドランク? Gランクですけど」

「そうかそうか、やっぱり高ランクだな。

この街に来る前はどこ街のギルドに所属していたんだ……って!

Gランク!?」

「はい、そうですけど」


 ほとんど話を聞いていない様子のギルマスに、僕は呆れて首を振った。

 

 もう気が済んだのか、ようやくサラの矢が引っ込められた。

 ギルマスは安堵したように額の汗をぬぐった。


「そうか、わかった。前職は傭兵か何かか?

相当な戦闘経験があるだろ?」

「いえ、ミカンを育てていました」

「ほう! 魔獣育成師だったのか! ならあの戦闘力もわかるな。

魔獣育成師に一番重要なのは戦闘力だからな。

して、ミカンってのはどんな魔獣だ?」

「果実です。木になる。市場にも売っていますよ」


 戦場であんなに頼りになっていた人とは、別人なのだろう。

 僕は内心でそう思うことにした。


 僕は上を向き、空を眺める。

 さっきまで襲撃を受けていたのが嘘のような、綺麗な夕焼けが広がっている。


「ギルマス、チェスターの言っていることは事実。

チェスターは今日が二回目の魔獣討伐。

冒険者登録したのも今日」

「しかしサラ、俄かにはそんなこと信じられないのだが。

魔獣を討伐せずに、どうやってあのレベルの戦闘力を持つのだ?」


 サラの言葉に、ギルマスは首をかしげる。


 魔獣を討伐することによって魔獣の得ていた経験を吸収し、戦闘力を上げるというのは常識だった。


 ろくに戦わずに地竜と戦って勝てるほどの実力をつけることは、常識に照らし合わせると不可能なのだろう。


「それは私も知らない」

「余計な詮索をしないのは、冒険者のマナーですわよね、ギルマス」


 穏やかな口調とは裏腹に鋭い目をしてギルマスを見ているサラとリネールに、ギルマスは両手を上げて降参する。


「わかったわかった。詮索はしない。

まぁ、理由はどうであれ、戦闘力が高い冒険者がいることは、ギルドに取ってはいいことだからな」


 ギルマスは自分を納得させるように何度も頷いている。


「そういうことなら、チェスター。今回の戦功で、お前さんのランクをBに上げようと思う」

「B?!」


 僕は思わず荷車から跳ね起きようとしたが、全身を襲う激痛に再び荷台に倒れこむ。


 ギルマスはその様子を見て、無理すんなよ、と笑う。


「そうだ。実際問題、地竜と殴り合いで勝てるやつに、低ランクの任務なんてやらせていたらもったいないからな。

おめでとう、チェスター。登録した日にBランクに到達したのは、当然最短記録だ」

「でも、他の方々は納得しないのでは?」


 僕は荷車の周囲を歩いている他の冒険者たちを指し示した。


「確かに、このことは立った今俺の独断と偏見で決めたことだがな。

お前さんを低ランクに置いていたら、それこそ他のやつらが納得せんよ。

なぁ、そうだよな?」


 話を聞いていたのか、荷車の周りにいる冒険者が僕に向かって笑顔で頷く。


「Bランクは妥当。記録を抜かれたのは悔しいけど」


 サラは全く悔しくなさそうな、無表情である。

 むしろサラのイヌミミはぴょこぴょこと忙しなく動いている。

 嬉しく思ってくれているのかもしれない。


「今回の戦いでは、街の冒険者はほとんど参加していますわ。

その中で、あの地竜と互角以上に戦ったんですもの。

納得しない人なんていませんよ。

それにもし、このことに対して文句を言ってくる人がいましたら、私が消し炭にしてさしあげますわ」


 リネールは少し上気した顔をしている。


 言っている内容はなんとも過激であるが、それよりも、


「様って……さっきまでは、さん、だったのに。

いきなりどうしたんですか?リネールさん?」


 名前の呼び方が変わっていることの方が気になった。


「当然ですわ。チェスター様は私を救ってくださいました。私の王子様ですもの」


 リネールは荷車に近づき、チェスターの手を握った。


「それに、そんな他人行儀な話し方はおやめくださいな。

リネール、と呼んでいただきたいですわ」

「チェスターから離れろ」


 リネールの反対側から、サラがチェスターの手を引っ張る。


「なんですか、サラさん。いくらサラさんといえど、チェスター様はお譲りできませんわ」

「チェスターは私が先に目をつけた。だから私の物」


 美少女と美女に両手を取られ、所有権を主張されている僕の様子を見た周囲の周冒険者たちは、面白がって囃し立てる。


「おう! もっとやれ!」

「がんばれ、銀疾風!」

「俺はサラさんを応援するぞ!」


「痛い! まだ治ってないから!」


 竜魔術の後遺症が残っている僕の体は悲鳴を上げるが、サラとリネールはまったく聞く耳を持たない。


 さっきは肩を叩いただけのギルマスにあんなに怒ったのに。


 地竜と戦っている時よりも、僕は命の危険を感じていた。


「お願い! 離して! 痛いから!」



―――――



 この日、後に数々の功績を挙げ、後世に伝説のパーティとも呼ばれるようになったパーティの中心メンバーが集結した。


 最も、そのリーダーとなる男は、全身を引き裂かれるような痛みに苦しんでいるのだが。


「ちょ、ちょっと! 本当にお願いだから僕を離して! 痛いんだって!」


「リネールが離せばいい」


「ですから、お譲りできないのですよ」


「本当に! 二人とも! 離してぇ!」


 ようやく見えてきた街の壁は、夕陽を受け、オレンジ色に輝いていた。

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