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彼我の差

「竜魔術『強化』」


 地竜を睨みながら、僕は竜魔術を使う。

 身体中に金色の魔術が行き渡り、僕の力を強化する。


 同時に、『異次元の扉』を開けてエルダーオーガの骨を取り出す。


「うわぁ!」


 僕は恐怖を押し殺して地竜に近づき、右前足にエルダーオーガの骨を叩きつけた。


 金属音が鳴り、僕の攻撃は弾かれる。

 手応えは全くない。


 竜が左足を振りかぶるのが見えた。


「くそっ!」


 全力で横に飛ぶと一瞬前まで僕が立っていた場所を、竜の左足が押しつぶしている。


 地面に細かな亀裂が入っていた。


 危なかった。あのままあそこにいたらきっと死んでいた。



 僕の攻撃は、蚊が刺した程度。

 敵の攻撃は一撃必殺。


 これはキツイ。

 正直、勝てるビジョンが見えない。


 僕は、心の中で悪態をつく。


 やっぱり、攻撃が通じないのをなんとかしないと。

 攻撃さえ効けば、勝てる可能性も出てくる。


 僕は距離を取り、再び『異次元の扉』を開く。


 『強者殺し』の概念が宿ったレフカムゾラン様の牙なら、きっと通じるだろう。

 なんせ、地竜よりも確実に上位のレフカムゾラン様に通用したんだから。


 僕は期待を込めて『異次元の扉』に手を入れ、レフカムゾラン様の牙を握る。


 しかし、その瞬間、牙から拒絶の意思が流れ込んできた。


「……だめか」


 牙は地竜を強者と認めなかったから、地竜相手には牙は使えない。


 現状を打破できる手段だと思ったのに。



 でも逆に言えば、地竜はその程度の相手ということだ。


 僕はレフカムゾラン様の牙から手を離し、エルダーオーガの骨を握りなおす。

 数日前に初めて持ったとは思えないほど、手になじんだ感触が帰ってきた。


 10回攻撃してだめなら、100回叩けばいい。

 100回叩いてだめなら、1000回殴ればいい。


「竜魔術『強化』」


 僕は『強化』を重ねがけする。


 さっきよりも格段に体が軽くなった。


 これなら、さっきくらいの攻撃なら避けられる気がする。



 問題は、攻撃が通るかどうか。

 いや、『強化』というくらいだから、攻撃力も上がっているはずだ。


 僕は力を込めて地面を蹴る。


 先ほどよりも、はるかに早く周囲の景色が流れて行った。


「おらぁ!」


 自然と、僕の口から気合の声が漏れる。

 先ほどと同じように、エルダーオーガの骨を地竜の右足に振るう。


 地竜は僕の攻撃など効かないと思っているのか、避ける素振りすら見せない。

 攻撃が弾かれてバランスを崩している僕を狙うつもりなのかもしれない。


 でも、きっと。

 これなら。


 僕の攻撃が地竜の指に当たった瞬間、鈍い感触が手に伝わってきた。


「グオォ!」


 地竜は苦しげな声あげ、その場で尻尾を何度も地面に叩きつけた。

 地面が揺れる。

 僕は揺れている地面に足を取られそうになりながらも、なんとか地竜の足元から離れる。


「よし! 効いている!」


 僕が攻撃した地竜の指の先端は潰れ、血が大地に染み込んでいた。

 『強化』二回でこれなら、三回もかければ互角以上に戦えるだろう。


「竜魔術『強化』」


 僕の体はさらに軽くなる。


 すでに僕の全身を覆う金色の魔力は、視覚化できるくらい濃密になっていた。


 背丈よりも大きなエルダーオーガの骨を、大した力を込めずに振りまわせるくらいに力が強化されている。


 よし、行ける。


 僕は身体中に満ちるエネルギーを爆発させ、地竜に向かって突撃する。


 10メートルほどあった距離は、一瞬で消えた。


 そのまま地竜の横を通り過ぎ、すれ違いざまにエルダーオーガの骨を叩きつける。

 地竜の後ろ足に当たり、地竜がバランスを崩すのが目の端で確認できた。



 僕は急停止からの急加速を連続で行い、前後左右から何度も地竜を攻撃する。


 戦場に、硬いもの同士がぶつかる音が連続して響く。


 僕がエルダーオーガの骨を振るうたびに、地竜にはダメージが蓄積されていく。

 僕の速度に地竜は全く反応できていない。


 このままなら行ける。



 僕は更に攻撃を加速しようとして、両足に力を込めた。



 しかし、地竜はそんなに簡単な相手ではなかった。

 いや、僕にとって実質的に初めての戦いだったことが原因だったのかもしれない。



「え?」


 地竜と目が合った。

 僕の姿を捉えられていないはずの地竜と、だ。


 次の瞬間、僕の体に衝撃が走る。

 駆けてきたコースを逆走するように弾き飛ばされる。

 

 何度か地面にぶつかり、ようやく止まることができた。


「何があった……?」


 全身を襲う痛みに歯を食いしばりながら、僕は体を持ち上げ、地竜に視線を向ける。


 地竜は腕を振り切った姿勢で僕を睨みつけていた。

 きっと殴られたのだろう。


 さっきまで僕の姿を全く捉えられていなかったはずなのに。


 でもまだ体は動く。


 あれでダメなら、もっと早く。

 もっと鋭く。


「竜魔術『強化』」


 『強化』をかけたおかげか、痛みが薄くなる。


 よし。まだ行ける。


 僕はさっきよりも早く、鋭く一歩目を踏み出そうとした。


 しかし。



「……あれ?」


 急に、身体中を覆っていた魔力が消える。

 同時に堪えようもない吐き気が僕を襲う。


「ぐっ!」


 なんだこれは。


 僕は歯を食いしばり、地竜から距離を開ける。

 先ほどまでの僕の攻撃が効いているのか、地竜が僕を追いかけてくることはなかった。


 あんなに軽く感じたエルダーオーガの骨が、今は支えることすらできないほど重い。

 僕は肩で息を繰り返しながら、一歩、また一歩と地竜から距離を取っていく。


 僕の前方で、魔力が揺らめいた。

 地竜は大きく口を開けている。


 あれは。

 まさか。


『それ』に気が付くと、後退していた僕の足は止まった。


 竜の喉の奥に爆発的に魔力が集中すると、一泊後、紅色の竜の息吹となって魔力は放たれた。



 竜の息吹は、空間そのものを削り飛ばし、全てを破壊する。

 竜を種の頂点に位置付ける一つの大きな理由となっている。

 竜種にだけ許された、地上最強の攻撃魔術である。



 僕に迫る竜の息吹は太く、僕を飲み込もうとしている。

 弱った僕の足では、到底避けることはできない。


 終わった。

 死んだ。

 やっぱり、僕なんかが竜に挑むのが間違いだったのか。

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