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まおう日記  作者: 木之元 玲
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エピソードⅠ

私の一日は牛魔族からの献上される牛乳を一気に飲むことから始まる。


喉にまとわりつくような濃厚さ!

それでいてほのかな甘みが体を優しく包み込み、体がポカポカと温まっていくのが感じ取れる。

なんと甘美な飲料なのだ牛乳。

お前が魔族であったなら栄誉魔族勲章を授与し万の言葉で褒めたたえることが出来るというのに

なんと惜しいことだ・・・


唇をかみしめながら朝の身支度を開始する。

開始するといっても私の住まいは魔王城、つまり仕事場に住んでいるため

着替えて執務室に移動するだけである。


手早く着替えを終え、執務室へ向かおうとドアを開けたところに彼女は立っていた。

秘書のサエリアである。


「おはようございます。本日のご予定ですが...」


表情一つ変えず仕事の話を始めるサエリアを手をかざし制す。

察したのか頭を下げ半歩下がり私の後をついてきた。


(いや普通部屋の前で待つ!?怖いよっ!)


前任の秘書はオンとオフを切っちり分けるタイプで執務室では物腰柔らかく丁寧な振舞いだが、

それ以外の場所ではガサツで私を弟のようにいじった。

実際私の方が歳下ではあったが魔王なんですが・・・

また大酒飲みで酔うと一段と絡む。


そんな前秘書がある日突然やめると言い出した時には驚いたものだった。

私も彼女との距離感が嫌いではなかったし、引き留めたが聞く耳なんて持つような相手ではない。

さらに驚かされたのが後任にサエリアを連れてきたことだ。


「知り合いの娘なんで面倒見てやってよ!そうだ秘書の後任サエリアに決定!!」

などと勝手に決めていったのであった。

諸々の手続きは全て済ませておいて"そうだ"はないだろ確信犯め

実際サエリアの第一印象は悪いものではなかったので拒否はしなかった。


肩まで伸びた艶のある黒い髪、

スーツから伸びるすらっとした肢体、

そして鋭い目つきと眼鏡・・・


目つきは置いとくとして真面目な印象を受けたのは確かだ。

真面目な印象については今でも変わっていないが、いやむしろ実際真面目でよく働く。

だがしかし行き過ぎなのである。


彼女については後々嫌でも語ることになるだろうのでこのくらいにしておこう。



「今日の予定を教えてくれ。」

執務室に着くなり彼女に問いかけた。


「はい。本日のご予定ですが、これから龍神族との会合、その後昼食をとり事務作業となります」


この事務作業が厄介なのだ、書類に目を通し問題があれば訂正をさせ問題がなければハンコを押すのだが、秘書がサエリアになってからというもの、問題があったことなど今の一度もないのだ。

最初は私もラッキー仕事減ったわーなどと軽く考えていたが、

問題が無いとわかっている書類に目を通すことの生産性のなさ。

ただハンコを押すだけのマシンになっている現状が苦痛になってきた。


ならば目を通さずにハンコだけ押せばよいと思うだろうか?

私も同じことを閃き実行したことがある。

おおかたの想像の通りすぐさまサエリアに叱られた・・・

それ以来真面目に目を通しているのである。


何はともあれ会合に向かうとしよう。



「ご機嫌いかがですかな魔王」

低くしゃがれているがよく通る声が呼びかける。

「うむ、お主も相変わらず衰えしらずの様だなスー」

「ほほほ、衰えを感じない日などここ数千年ありはしませんとも。

しかし老体である私が長生きできているのは魔王のお陰で生活が潤っているからですな」


本日の会合相手の龍神族は名前の通り龍である。

世間ではリザードマンなどと呼ばれることもある。

戦士である男は固い鱗に覆われており角が生えているものもいると聞く。

一方女は戦う必要が無かったためか体にわずかに鱗が生えている程度だ。


そしてこのスーという男、大魔王の時代から龍神族の長である。

戦士の名に恥じず体には無数の傷が存在するが年のせいか穏やかな顔をしているのが特徴だ。


龍神族との会合の内容は大方戦力の補強のための人員補充である。

魔界が安定しているとはいえ数千年続く"人間"との戦いは終わっていないのだ。

最近は膠着状態が続いており戦闘は殆ど起こっていない。


「では戻るとしよう」

つつがなく会合は終了し戻ろうとしたタイミングでスーから声をかけられた。

「魔王、折り入って相談があるのだが・・・」

いつもとは雰囲気の違うスーの言葉に身構えた。


「この娘を魔王城で働かせてくれんか」

どこに隠れていたのか少女がスーの横から出てきた。

「私の血筋の者なんじゃが、嫁修行に魔王城はちょうどいいと思いましてな」

確かに魔王城の仕事は多岐にわたる、

掃除はもちろん料理、洗濯、庭仕事、etc


既に多数の者が働いている魔王城、1体増えたところで問題があるわけではない。

なぜ渋っているのか、それは少女の見た目である。

まさに少女なのである。


「スーよこの子はいくつなのだ」

「魔王はご存知ありませんでしたか、龍神族は長生き故歳を数える習慣はないのです」

知らなかった・・・

確かに龍神族は数多ある種族の中でも圧倒的に長生きだ。

しかし歳を数える習慣がないとは思いもしなかった。


「むー・・・」

少女に目をやる。

褐色の肌に濃紺の鱗が頬から首にかけて繋がっている。

目が合うと少女は目を反らした。

「お前はどうしたいのだ、無理に働かせるのは私に意思に反する」


スーの裾を掴んでいた手を放し一歩前へ出てきた。

「は、はたらかせてくださいっ!」

おどおどしている割には力強い言葉だった。


「よかろう魔王城で働くことを許可しよう!

まだ名前を聞いていなかったな、名はなんという?」


「リンっ!」

窓からさす明かりが少女の金色の髪を強調させたからなのか、

初めてみた笑顔のせいなのか

とてもまぶしい見えた。


「ではリンよろしく。サエリア、しばらくリンの世話を任せるぞ」

サエリアは何も言わなかったが頭を下げた。



一日の仕事を終え部屋に戻ると、今日は特に疲れているようだった。

リンの世話を任せたからなのか、事務作業中いつもよりサエリアの当たりが強かった・・・

明日以降は機嫌を直してくれると助かるのだが・・・


とはいえサエリアに世話を任せておけば悪いようにはならないだろう。

生活に慣れたらメイドとともに掃除の手伝いかキッチンで皿洗いの手伝いでもさせるのがよいか。


ふぅーっと長い溜息が出た。

珍しく予定外の事態が起きたものだから身体は疲れているが、

不思議と気分は悪くなかった。

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