勇者が来たけど、ちょうどそのタイミングで入浴してしまった魔王の話
俺は魔王、この魔界を支配している魔族の王だ。
最近では人間界にも手を出しており、世界を我がものにする日もそう遠くはないだろう。
俺を殺しに来た勇者達は一人残らず返り討ちにしたし、最早人間など敵ではない。
そして今日も、一人の勇者が我が魔王城に攻めてきた。しかし、どうやら今回の勇者はこれまでとは違うらしい。
部下に調べさせたところ、現在魔王城で暴れている勇者は、選ばれし者しか抜くことの出来ない聖剣を抜いた光の剣士だという。
「面白い・・・返り討ちにしてくれる!!」
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「我が名はアリアンローズ!愚かな行為を繰り返す魔王よ、今すぐ姿を現しなさい!」
勇者が魔王城にやって来た。驚くべきことに女である。
謁見の間で聖剣を抜き、そして彼女は閃光を纏いながら周囲を見渡す。
しかし残念ながら、魔王城の主である俺は謁見の間に居ない。
「私に恐れをなしたか、魔王!」
風呂入ったのだ。
勇者が来る5分くらい前に風呂入ってしまったのだ。現在俺は湯船に浸かっている最中で、目の前に映し出された映像を見て勇者の様子を伺っている。
燃えるように赤く美しい長髪が良く似合う、大変可愛らしい少女だ。鎧を着ているので分かりづらいが、胸は大きい方だと思われる。
まあいい、せっかく来てくれたので彼女の相手をするとしよう。
『よく来たな、勇者アリアンローズよ』
「っ、貴方が魔王か。隠れて話しかけてくるなんて、恥ずかしいとは思わないのかしら?」
この女、全裸で謁見の間に移動してやろうか。
そもそもお前が魔王城に攻めてきて、その後すぐに撤退したから俺は風呂に入ったんだぞ。そんな速攻で戻ってくるとは思わんだろうが。
『隠れている・・・か。やれやれ、これだから人族は馬鹿なのだ』
「な、何ですって!」
『感じないか?この城に満ちた我が魔力を。これだけ膨大な魔力をさらに高めればどうなるか、お前程の実力者ならば考えなくても分かるはずだ』
「まさか貴方、魔力増幅の儀式でもおこなっているというの?」
すまん、残念ながらただの入浴だ。
『くくっ、どうだろうな────ピヨっ』
「今、声が聞こえたわ。どうやら人間を利用して儀式をおこなっているようね、この屑め・・・!」
あ、いや。今のピヨっはあひるのおもちゃを握ったら鳴った音だ。なのに屑とか言うなよ、傷つくだろう?
『汚れを知らぬ美しき聖水が黒く濁ってゆく・・・ふははっ、その調子でもっと俺に力を与えるのだ』
「貴様、何をしている!」
そう怒るな、入浴剤を入れただけだ。肩こりに効くらしいので、個人的にはかなり有難い。
『さて、そろそろ流れ出る不快な液体を洗い流すとしようか』
「ほ、本当に何をしているの?まさか貴方、人間の女性を・・・」
湯船から出て、桶の上に座る。そしてシャワーを出して俺は汗を洗い流した。アリアンローズは何か勘違いしているらしいが、今此処に居るのは俺だけだ。馬鹿め。
しかし、毎回思うが角が邪魔だ。これが無ければもっと楽に頭を洗えるというのに。
まあ、今更何を言っても角は体の一部なので、とりあえずシャンプーで頭を綺麗にするとしよう。
『うっ!?ぐああ、目がアアアアアッ!!!』
「っ、まさか女性が抵抗して・・・待ってなさい、すぐに助けに行くわ!」
泡は全て流したと思ったが、角に付着していたシャンプーの残りが垂れてきて目に入った。これは痛い、鏡を見たら目が真っ赤になっているではないか。
『ふざけおって!まだ抵抗するのかッ!!』
シャンプーの分際で調子に乗りおって、大人しく洗い流されろこの馬鹿めが!
「いい加減にしなさい、魔王!何処に居るのか分からないけど、出てこないのならこのまま城ごと消し飛ばしてあげる!」
『待て、ならば俺の目の前に移動させてやるから落ち着け』
「消えろ、聖剣────」
おいおい、まだ体を洗っている最中だというのに・・・仕方ない。
「─────へっ?」
「ようこそ、魔王専用大浴場へ!」
俺の前で、アリアンローズは呆然と立ち尽くしている。そして彼女は俺を見て、雪のように白い頬を真っ赤に染めた。
何故なら俺は入浴中で、服などを一切身にまとっていない状態だからだ。
「ひっ!?」
さらに、彼女は気付いた。
此処に転移させる際に装備を全てひん剥いてやったので、自分も俺と同じく全裸だということに─────
「さて、裸の付き合いといこうかっておい待て、その聖剣は何処から取り出して────」
「きゃあああああああッ!!!!」
その後、大浴場どころか魔王城そのものを消し飛ばされたというのは言うまでもないだろう。




