裏一話 もう一人の主人公
もう一人のぼっち。
深い闇を抱えています。
敗北から学ぶ事があると言うが、それは強者にのみ通用する言葉だと思う。
弱者は負け続ける。そこから学ぶことなんて自分の弱さしかない。
そんなのは嫌だ。僕は、僕は、ボクハ·······。
「ボクにチカラを下さい、神様。」
僕は自分の弱さを憎んだ。自分を弱者にした親を憎んだ。弱者と強者を分けた人々を憎んだ。
弱肉強食なこの世界を憎んだ。
僕はいつも哭いていた。
大事な物も、大事な人も全て奪われ、食われ、殺され。そして捨てられた。
奪った奴が憎い。殺したい。ぐちゃぐちゃにしたい。
あぁ、そんな事を想像するだけで興奮してきた。
殺す前にどうしようか、死なないように散々痛め付ける?それとも下半身を油でカラッと揚げてみる?
想像が膨らむなぁ。
僕はチカラをくれれば何だってする。
泥だって食べるし、虫だって美味しそうに食べて見せる。
なんなら人間でも食べてみようかな。どうせ死んだらただの肉。虫よりよっぽどいいや。
だからお願いだ、神様。いや、邪神さま。
僕にチカラを。
僕は祈った。すると僕の体が黒い煙で覆われ始めた。
やばい、眠い。このままだと眠ってしまう。
っち。どうせ寝てしまうなら最後まで祈ろう。
僕は意識を手放した。
次に起きた場所は何もない場所だった。
周りを見回しても何もない。
僕は死んだのかな?だとしたらここは天国だよね。
そんな呑気なことじゃないのかな。まぁいいか。
僕はもう一度寝ようとする。
すると何もない場所、それも僕の目の前に黒い煙が現れ始めた。
僕は何が出るかワクワクした。もしかしたら何も出ないかもしれない。
でもこの暇な空間で一時でも楽しめるならそれでいい。
そう思いながら見てると、だんだん煙が人の形になっていく。
そして最後には煙は消え、残ったのは僕と一人の少女。
少女は年齢は12才ほどだろうか。僕は人間には興味がないが、多分可愛いと言えるレベルに入るだろう。
黒い長い髪に整った顔、そして人形の様な服。
この少女は人工物ですと言われても、信じられる。
しかし人工物では無かった。
少女が喋ったのだ。
「私を呼んだのは君?」
少女は首を傾けて僕に聞いてくる。普通の男がどう思うか知らないが、僕はとてもイライラしてくる。
しかし質問されたので、しかたなく答えよう。暇だし。
「何の事ですか?僕はチカラを欲しがったのです。君みたいな少女はいらない。」
「ですから私を呼んだのですね。神様と。」
この少女は何を言っているのか。
僕は確かに神様にチカラをくれと言った。それで出てきたのがこの少女。
これが神様だと。笑わせてくれるな。
いや、有り得ない話では無いかもしない。
実際僕は神様なんてイメージでしか知らないし。
まぁいいや、チカラくれるならそれでいいや。
「はい、呼びました。でも神様と話したいんじゃなくてチカラが欲しくて呼んだのです。」
「分かっています。貴方の望む通りのチカラを与えましょう。しかし条件付きですが。」
条件付きだってさ。チカラがあればどうってことないよ。
僕は強者の上に立つ強者になる。
その願いが叶えられればそれでいい。
「条件は問題有りません。なのでチカラを、早くください。」
「そうですか。ならチカラを授けます。どのようなチカラが良いでしょうか?」
僕は悩んだ。とにかく強ければ何でも良かったので、希望は無い。
強いて言えばどんな相手でも変わらず優位に立てる事。
そのチカラがさえあればいい。
「どんな相手でも必ず勝てるようなチカラを。」
そう言うと少女は少し悩んだような素振りを見せる。
そんなチカラなんて無いのかな。
しかしその恐れは無かった。
「分かりました。ではチカラを授けます。」
少女がそう言うと僕は黒い煙に再び包まれる。
これでチカラが手に入る。怯えることも逃げる事も無くなる。
そう思っていたとき少女から言われた言葉は
「貴方には異世界へいってもらいます。それが最初の条件でした。しかしチカラを授けるためにある物を捨てなければならなくなりました。非常に言いにくいですが.....。」
少女はいきなりそんな事を言い出した。
なんて言ったって望んでも出来ないことをしてくれるというのだ。
僕は地球上には居場所も国籍も名前も存在も全て無い。
死んだことになっているから誰も助けてくれなかった。
毎日本当に死にたいと思っていたけど。
名前も奪われた。前の名前は忘れた。
だから僕は地球に未練なんてない。
しかし少女もうひとつ条件があると言った。何だろう。
「貴方は人の肉でしか栄養を採れなくなりました。」
僕は特に驚かなかった。逆にそんなものかと。
その姿を見た少女は僕が絶望したと思ったのか色々メリットを話始めた。
「大人一人食べれば一ヶ月は食事がいらないですよ。まぁ、動かなければの話ですけど。動くのならば二週間に一度くらいでしょうか。」
いい話を聞いた。
僕は食事というものがそんなに好きではない。
食事をするということは、排泄をする、歯磨きをするということをしなければならないからだ。
そんな時間があれば、僕はチカラを求めた。
だから僕にとって好都合だったのだ。
「分かりました。ですがそこまでするチカラとはどんな......?」
僕は単純に気になった。その代償を支払うチカラを。
そして僕は納得した。
「逆転のチカラですよ。貴方と戦う者が貴方より強ければ、必ず貴方が勝ちます。力の差を逆転させるチカラですから。相手が弱くても、少しでも貴方が弱ければ勝つ。」
なるほど。弱者の僕に相応しい。僕を弱いと思って近付いて来るやつらをいたぶれる。
なんてったって僕はこれ以上弱くはなれない。
今ほど両親に感謝した時は無いね。まぁ、神様への感謝には程遠いけど。
「ありがとうございます。このようなチカラを僕に与えてくださるなんて。僕は異世界でもあなた様を信仰いたします。なので名前をお聞きしたい所存であります。」
僕は弱者なりの態度を学んだので意外と作法はしっかりしている。
「私の名前はティターナ。異世界で名前を知るものは居ないと思いますが。」
最後に悲しそうに付け足した事を僕は分かっている。
僕はその時ティターナを異世界の唯一神にする事を決めた。
「さぁ、行きなさい。あ、貴方の名前は私が決めておきました。貴方の名前はティタ。私の名前から取りました。年齢は今のままの16才です。」
僕って16才だったんだ。
そんな事を思いながらまた僕は意識を手放す。