表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックサファイア  作者: 早紀
40/227

9 過去と日常

「ねえ、今喜んでる?」





 

 薄暗い部屋のなかで、それとは対照的な華やかな純白の衣装に着飾った花嫁は、己の血肉を分け合って生を受けた双子の兄へゆっくりと訊ねた。


 豪華な一点物の花嫁衣裳は、彼女の美しさを見事に引き立て、まるで聖女を思わせる出で立ちだった。


 それ以上に、艶やかな彼女の微笑に彼はただ息を吐くことしかできなかった。




 自分は、正しいことをしているはずだ――。




 そう、幾度となく自分に言い聞かせてきた。


 そうでなければ、今この場に花嫁はいない。

 

 これは、彼女を宝石眼(ユヴェールアオゲ)として生き続けさせるために必要なことなのだ。






「あぁ。すごく嬉しい。お前が、あいつと結婚してくれるなんて。……俺は幸せだ」


 彼は、嘘を吐いた。


 宝石眼(ユヴェールアオゲ)への虚偽を彼は厭わない。


 なぜなら、彼自身もまた神に愛されし宝石眼(ユヴェールアオゲ)なのだから。





「そう」


 妹の詞は嬉しそうにも聞こえ、悲しそうにも聞こえた。


 それを、もしあの瞬間訊き返していたならば、過去は変わっていたのだろうか。



 もし、あの時――。


 その回想たる呟きは、彼が最もこの世で嫌う詞。


 そして同時に最も焦がれる詞。




 そんな詞を生涯使用しないような人間でありたかった。


 そんな詞を何の躊躇もなく言える人間でありたかった。




 なら昇華しよう。


 己を別の存在へ。


 それが単なる逃げであったとしても。


 そうしないと、俺は――




 


 〝後を追いたくなるよ〟






 その時代、最も有名な双生児。


 母親の胎内より生まれしその日に、双方が異なる配色の瞳を持ち誕生した。


 国中にたった十二人しかいない宝石眼(ユヴェールアオゲ)を彼らは身内で二つも受け持ったのだ。


 そんな奇跡のような双子の物語――。




 その影に隠れた真実の物語をあなたは知りたい?


 観たいのは喜劇?それとも悲劇?


 この物語を聴きたいならまずはそれを教えて。


 そうでないと、きっと後悔してしまうから。






 好奇心は身を滅ぼすんだって。


 まるで、パンドラの箱だね――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ