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ブラックサファイア  作者: 早紀
39/227

8-2


「なにを調べてるんだ、ヴィレ?」




 麗らかな陽気の午後――。


 ここは、王宮内の第一王子ヴィレの自室。


 すぐ傍にはユーリも控えていた。


 ユーリは、ヴィレが真剣な顔をして過去の宝石眼(ユヴェールアオゲ)の文献を読んでいるのを不思議がった。




「前サファイアの記録を読んでいたんです」


「前の?」


「はい。ユーリも不思議だったでしょう?なぜサフィーの瞳は黒目だったのか」


「そういえば」


 ユーリは、珍しいサファイアの瞳を思い起こしていた。


「調べたら、三代前のパールの宝石眼(ユヴェールアオゲ)を持った女性は白ではなく淡い桃色の瞳だったそうです」


 ヴィレが文献の一部を指さしながら書かれた文字を読んでいた。


「ピンクパールってことか」


「はい。その理由の仮説として示唆(しさ)されたのが血縁関係でした」


「血縁?」


 ヴィレは頷いた。




「四代前のパールの宝石眼(ユヴェールアオゲ)は、彼女の実の祖父だったそうです。その彼が亡くなった直後に彼女の母親は妊娠に気づいたそうです」


「つまり、血縁関係でそのまま宝石眼(ユヴェールアオゲ)を受け継ぐと異なる色の瞳で生まれてくるってことか」


 ユーリはわかりやすく噛み砕いた。


「はい。その当時はそれが最も有力な仮説だったそうです。しかし、十二の宝石眼(ユヴェールアオゲ)の内、血縁で瞳を受け継ぐのは通常は王家のダイヤモンドのみです。だから、きっとこれは宝石眼(ユヴェールアオゲ)自身の望みだったのではないかと云われています」


宝石眼(ユヴェールアオゲ)の?」


「なんらかの理由で、自分の死後に孫へ己の瞳を譲りたいと強く願ったということですよ。生前その四代前のパールの宝石眼(ユヴェールアオゲ)は、遺言で己の死後生まれる子の瞳に注視しろ、と家族に告げていたそうですから。だから、両親と異なる瞳を持って生まれた彼女をすぐに王宮で検査して頂いたそうです」


「それで、その時代のパールの宝石眼(ユヴェールアオゲ)は労せず己が宝石眼(ユヴェールアオゲ)であると知られ認められたわけだ」


「ええ。王宮の検査を受けようとした際、不安からかすぐに泣き声を上げてしまった赤子の彼女の瞳からパールの(トレーネ)が出現したそうですから」


 ユーリは頷いた。


 しかし、疑問が残る。




「それでなんで、色が変わったんだ?」


 ヴィレが神妙に過去の文献に視線を戻した。


「……神の意志とは関係なかったからではないでしょうか。神は愛し子を本来自分で選択するものです。しかし、四代前のパールの宝石眼(ユヴェールアオゲ)である愛し子の最後の望みを叶えた。そのため、運命を歪めた分だけ色が異なったのではと仮説(かせつ)が立ちました」


「じゃあ……」

 ――サフィー殿の血縁者にも……、とユーリは呟いた。




 それが真実なら、宝石眼(ユヴェールアオゲ)捜索にも、なにか新しい進展があるかもしれない。


 ユーリは、それを期待した。




「はい。そう思って前サファイアの記録を洗ってたんですが、前サファイアの女性はこの王宮のなかで病死したと記録されているんです」


「そうなのか?」


 ユーリは拍子抜けして言った。


「俺はお逢いしたことはありませんけど、前ダイヤモンドである先々王が大変寵愛し王宮に留まらせていたらしいんです。しかし、その祖父が一人で看取ったと記されてます。それも生涯独身で」


「じゃあ、サフィー殿との血縁関係なんてないじゃないか」


「そうなんです……。ただ、彼女は生前祖父が惚れ込んでいた王宮お抱えの宝石加工職人と親しくしていたらしく、それを頼りにすれば情報が得られるのではと思ったんですが、残念ながら前サファイアの死後職を辞していて行方知れずなんですよ」


 ヴィレが重い溜息を吐く。


「それじゃ、真相は闇のなかだな。案外血縁は関係ないかもしれないしな」


「……そうですね」


 ヴィレは、そのまま文献を仕舞った。







 前サファイアの死。


 それは先々王のみぞ知る秘密。


 しかし、その輝く蒼き瞳を世間へ晒すことなく、慎ましく暮らした女性がいた。




 そう。


 サングラスを掛けたまま――。







 遠き過去の彼らが望んだ、遙か未来への想いをサファイア達が知り涙する日は、一体いつのことやら――。




 もしかしたら、明日かもしれない。


 生涯訪れないかもしれない。


 すべては、ユヴェール神の御心次第――。




 第一部 完。


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