第7話『涙の向こう。』
イヴが少し落ち着くまでの間。俺とマリアは部屋から出て庭にある花壇を眺めていた。
『綺麗なお花達ですねっ。皆ニコニコしていて。イヴさんが大切に育てたから喜んでいるように感じます。』
俺はマリアにこたえる。
『そうだな、きっと一緒に育ってきたんじゃないかな?花には詳しくないからわからないけど。何か伝わってくる感じがするよ。』
マリアは黄色い花を撫でるように触れる。
『同じエルフでもここまでの仕打ちをされていたなんて。私は少し落ち着きません。ましてや家族を失っています。盗賊が許せません』
マリアはしゃがんでいた姿勢から立ち上がり強く拳を握る。俺達がイヴから聞いた話はあまりにも残酷で。簡単な事が言えない状況だった。
『俺達に何ができるだろうか。彼女を、イヴを笑顔にするにはどうすればいいんだ?盗賊を殺しても家族は帰ってこない。くっ!無力なのか。俺は』
俺は俯き拳を握る。花壇に風が吹くと花達はゆっくり揺れる。俺の問にマリアは答える。
『いいえ。クロス様、私達は決して無力ではありません。』
『考えてみろよ。下手に行動をしてイヴに何かあったら!』
マリアは優しい眼差しで立ち上がった俺を見つめる。
『私達がイヴさんを助けたいという気持ちが無くならない限り無力ではありません。』
マリアの目は力強く。決心は揺るがない。そんなめをしている。
『そうか。わかった、俺も男だ。言ったからにはしっかりやるさ。でも何をしてやれる?今は1人暮らしのイヴにしてやれることって。』
マリアは町の先を見る。そこに見えるのはマルドゥ城。
『イヴさんの幸せを願うならマルドゥ城に行く必要があります。あそこならきっとイヴさんを助けてくれる筈です。』
『マルドゥ城。詳しくは知らないけど確かにあそこなら何か案を出してくれそうだな。』
俺はイヴの居る部屋の窓を見つめた。
少ししてイヴが部屋から出てきた。俺は問いかけた
『身体は大丈夫なのか?あまり身体の調子は良くないってさっき言ってたよな?』
イヴは小柄だ。大丈夫と伝えたいのかクルッとその場で一回転。
『問題ありません。激しい運動をあまりしないならですが。たまには身体を動かさないと家から庭の距離だけでは大した運動できませんし』
ニコッと微笑むイヴ。少しドキッとした俺。
『あ、あぁ。ならイヴからの依頼だけど一緒にいこうか。』
俺は照れながら歩きだそうとするが。誰かに腕を掴まれた。振り返ると。
『私も一緒にいきますっ。いきますよっ、私も。』
『あ、あぁわかってるよ。』
ものすごい頬っぺたを膨らませてるマリア。イヴはクスクス笑う。
『お二人はいつもそんな感じなんですか?』
イヴは話しながら歩き出したので横に並ぶ形で歩く。
『そんな感じとは?』
さっきのやり取りだろうか?俺は質問に質問でかえしてしまう。
『えーと。恋人同士みたいな感じで仲良しさんみたいですしっ』
イヴはニコニコしながら話してくる。俺は真っ赤になりながら。
『こ、恋人同士!?それはないだろ!マリアは美人で可愛いけど有り得ないだろ!』
そこで過剰反応をする相方のマリア(女性)。
『ひ、酷いですクロス様...私なんか眼中にないのですね....』
マリアは、よよよ....と泣く真似をする。
『な!?いくら泣く真似でも卑怯じゃないか!』
俺は慌てる。それを見ていたイヴは
『ぷふ!あははは!お二人共やめてください、あははは!』
俺とマリアは目を合わせる。やっぱりイヴは笑っている方が似合う女の子だ。だから尚更今の一人だけの生活から開放してあげたい。だから俺はあの話をすることにした。
『なぁイヴ?今の一人だけの生活。楽しいか?』
その質問をすると。
『正直...一人だけの生活は寂しくて辛いです。ですが仕方ありません。どうすることも...』
イヴの返答は力弱い。俺が同じ立場ならと考えたらきっとイヴのように生きてはいないかもしれない。だが、イヴには希望が残されている。俺は話を続ける。
『1つだけ希望がある。マルドゥ城へいくんだ。マリアからの受け売りだけど、マルドゥ城にいくと何かしら支援を受けられる。そこには他のエルフ達も給仕をしながら生活をしているらしい。』
マリアから聞いた話をそのまま伝える。イヴは
『で、でも。亡くなった母上や父上、兄上などに申し訳なくて。自分だけ幸せになるなんて。』
俺が何かを言いだそうとすると。マリアが先に言い出した。
『幸せは確かに皆で共有するものです。ですが、自分から幸せにならずに我慢するなんて。それこそお母様やお父様、お兄様に失礼です!幸せを願わない家族はいないのです!自分の幸せやチャンスを逃してはダメです!』
マリアが珍しく強い口調になる。イヴもビックリしたのか、俯いてしまう。それに気づいたマリアは
『あ、ご、ごめんなさい!わ、私ちょっと感情的に。あららどうしましょう!』
イヴは目から涙を流す。マリアはテンパる。
『ま、マリア落ち着け。い、イヴすまん。何もマリアは怒ってるわけじゃないんだ。あの、そのな。』
そしてテンパる俺。イヴは涙を拭いながら。
『わたし、幸せになっていいんですよね?...うぅ、私。好きなことをしてもいいんですよね?』
それを聞いた俺は。
『当たり前じゃないか。幸せになっちゃいけない奴なんか誰一人としていない。イヴの幸せは俺もマリアも願ってる。だから。一人じゃなくて色んな人と生きろ。イヴは一人じゃないから。な?』
俺はニッコリ笑顔をしてみるが。マリアがそれを見てクスクス笑う
『笑顔が不器用ですよ?クロス様?』
『う、うるさいな!気持ちは本物なんだからいいんだっ。』
俺はちょっとツンとする。イヴは泣きやみニッコリ笑顔で。
『はい!私は一人じゃない。クロスさんやマリアさんがいますし。その先で会う人達もいますっ。ですから。私は幸せを掴みにマルドゥ城へいきますっ。』
イヴのその言葉を聞いた俺達。きっとイヴにならどんなことでも乗り越えられる。そう俺やマリアは思った。