第3話『エルフ』
俺とマリアが森を抜けたのは深夜。
吹き付ける夜風が少し冷たく感じる。
俺はマリアに歩き疲れていないか聞くと。
『私は大丈夫です、クロス様こそお疲れでは?』
俺はさっきの賊との事を思い出す。
長かったような短いような時間での事。
今になって恐怖心が湧き始める。
『そうだな、少し休憩しないか?』
マリアは頷くと大きな岩に腰を掛ける。
『マリア、俺はエルフについてよくは知らないんだ。よかったら教えてくれないか?』
俺も隣の岩に腰を掛ける。寒さで震えているのか、恐怖心で震えているのか。きっと後者だと思う。
マリアは夜風を見上げながら語り始める。
『私達エルフが住む国はある帝国と協力関係で結ばれていました。私達エルフは国こそ大きいのですが王や姫が存在しません。』
俺は質問してみる。
『何故だ?国が存在するなら王や姫が居なくては生活をしているエルフ達はどうやって生きているんだ?』
俺は疑問をぶつける。
『私達エルフは派遣されていて、その各国のお城の護衛や警備。町にいる人達のお手伝いなどをしてお側に置いてもらっていました。しかし私達エルフはある日王や姫が失踪したと情報が入り。一度国に戻ったのです。』
俺は思わず立ち上がる。
『い、いなくなったって何故だよ!?だってエルフ達を見捨てることと同じじゃないか!』
マリアは俯きながら話す。
『私達もわからないのです。一度は探しましたが見つからず。このままではまだ子供のエルフが死んでしまうと考えていた時でした。エルフと協力関係の帝国は生活など全てを支援する。だが条件があると。』
俺はもう一度腰を掛けると。マリアは話を続けた
『戦闘型エルフを戦に参加すること。』
それを聞いた俺は目を見開く。
『そんな!だって協力関係だったんだろ?いきなり戦に参加しろだなんて。』
戦は人を傷つける。戦は人を殺す。それを考えただけで俺は胸が苦しくなる。
『それだけでしたらいくらでも移住すればよかったのですが、子供エルフを人質にされてしまい。私達エルフは参加するしかなかったのです。』
マリアは目から涙を流す。俺は戦なんて経験したことがない。本当に喧嘩程度だ。だが国同士となれば死人も裏切り者も出る。最初は冷静に聞いていたが少し気持ちが落ち着かなくなり手に汗を握っていた。
『それでマリアも戦に参加したのか?』
マリアは首を横に振る
『いいえ、私は帝国に連れていかれる所を逃げ出しました。私以外のエルフ達は....』
マリアはさらに暗くなる。話を詳しく聞いてしまった以上放っては置けない。だが、俺に何ができるのだろう?森に居た時は一緒に助けよう。そう言ったが、死にたくはない。だけど今ここで引き下がるとマリアがエルフ達はどうなる?俺はどうしたらいいのか考えていると俯いた顔を上げたマリアは俺の右手を握りながら。
『戦闘型エルフは一人では力を発揮できませんが。人間と交われば、戦えます。』
俺は少し俯いていた顔上げ、隣に座っているマリアに視線を向けると真っ直ぐな瞳が目に入る。
『ひょっとしてさっき森に居た時にしたあの変身か?』
マリアは頷く。
『あの力は人間とエルフでしかできません。エルフ同士ではお互いが発する魔力が強過ぎるので弾かれてしまうのです。ですが人間ならば魔力を持たないので影響無く変身ができます。』
俺はあの時変身したのは確かだ。心が暖かくなって。身体が軽くなる感じを体験した。
『あの変身は何回でも有限なくできるのか?』
マリアは首を横に振る。何故か照れながら。
『そ、その、一回の変身で長くそのままで居ると....お腹が空いてしまって変身が解けてしまうのです....//』
今さっきまで深刻な話をしていたのに不意にそんなことを言われて。
『ぷふっ、いや、すまない。』
マリアは頬を膨らませて。
『笑わないでください!それにクロス様が私と交わった状態で殴られたり蹴られたりすると私もダメージを受けますし、あまり酷ければ変身が強制的に解けてしまうのですから注意が必要となります。』
脱線した話を元に戻す。変身をしてる間は一心同体ということを告げられた。
『それでその。クロス様は私と共に行動してもらえますか?』
俺は少し考える。さっきも思ったが怖い気持ちはある。死の恐怖。人と人の衝突。そこに俺はついて行けるのか。マリアと知り合ってまだちょっとしか経っていない。でも俺の心はもっとマリアの事を知りたい。そんな風になってきたのだ。
俺はゆっくり立ち上がり。マリアの正面に立つ。
今から話す事をマリアに告げたら後戻りはできないだろう。少し緊張してきたがマリアの目をしっかり見つめ。
『俺はマリア達エルフを救えるかわからない。俺自身正直怖いんだ。でも』
俺は深呼吸をする。気持ちを落ち着かせる。
『マリアの事をもっと知りたいんだ。まだまだ分からないことも沢山ある。怖いけどマリアをエルフ達を助けたいから。こんな俺で良ければ。力になるよ』
するとマリアは俺の話を聞いて。立ち上がり。
『ありがとうございます。とても嬉しいですっ。』
マリアは俺に駆け寄り抱きついてきた。何度目のよろしくになるのだろう。
『よろしく頼むよ。マリア』
『はい。クロス様』
俺はエルフの事を助けたい。マリアも助けたい。そんな一心で、後少しで着く王都マルドゥがある空を見つめた