第1話『クロス・ハイド』
俺の名前は『クロス・ハイド』。
風の向くまま気の向くままに旅をしている。
俺は餓鬼の時に、小さな村にある教会の司祭に拾われ育てられた。
司祭に言われるまでわからなかったが、俺が赤ん坊の時に教会の入口に置かれた籠の中に入った俺を見つけそのまま引き取ったそうだ。
お陰様でここまでデカく成長し自立できるようになった。
俺が旅に出ると言い出したのは二年前になる。
何時までも世話になるのは悪いと言った俺は何でもできる司祭からサバイバル技術を学び、武術や作法といった必要最低限のことを教えてくれた。
あと旅に出たいと思った理由は世話になりっぱなしになるのが嫌なだけでなく、今の世界の事情を知りたいのもあったりする。
教会にいた頃によく出入りする旅人が色々世界の事情を司祭に話していたりしたのを司祭が俺に話してくれたりした。
でもそれだけじゃ、話だけじゃ物足りなくなった俺は敢えて世話になりっぱなしになるのは悪いからと言って教会を出た。
でも司祭から反対の言葉などはなく、色々な経験を積んできなさいと背中を押してくれた。
司祭は俺にとって父親見たいな存在だとおもっている。
いつか恩返しがしたいと思ってる。
さて、今俺は森の中で迷っている。
この森に来る前に居た村で民からある話を聞いたのだ。
『この村の先にある森を抜けると王都がある、そこで仕事を探してみるといいよ』
その話を聞いた俺は迷わずにその王都に行くことにしたが、案の定森に入ってから方角がわからなくなってしまった。
手持ちの食料も残り僅かで、一日分程度しかない。
空も夕焼けに染まりつつある。
夜の森での行動はかなり危険で、獣と遭遇しやすくなる上に獣の嗅覚が良く利きやすくなる。
『しまったな、方角は間違っていないと思ったがコンパスが狂っていたのか』
少し歩き疲れた俺は大樹の根元に座り込む。
森の外と比べ中は少し蒸し暑さを感じる。
水分を取るにも水筒の中身も空になっているし、湖も川もない。
『仕方ない、水分を含んだ【アリンの木】でも探すしかないな』
アリンの木とは何処の森にも育つ木で、木の枝を切るとそこから水がシミ出てくる少し細めの不思議な木だ。
俺はそのアリンの木を探すために、再び重い腰を持ち上げる。
疲れた足に謝りながらもう一度歩き出す。
森に居ると時間の感覚も分からなくなるから、太陽の向きを見ながら歩く。
多分人の歩いた足跡だろうか、靴の跡も残っている。
それを頼りにしながらアリンの木を探す。
しばらく歩いていると、周りの木とは違う細めの木を見つける。
『ナイフどこにしまったかな』
俺はリュックを地面にドサッと置くとリュックの中身を漁る。
『おっ、あったあった』
ナイフを鞘から抜き、アリンの木の枝をカットする。
カットした枝からシミ出して、ポタッポタッと落ちてくる水を水筒に移していく。
『とりあえずこれで水は大丈夫だろう』
ホッと安心した俺はアリンの木に立ったまま持たれかかる。
座り込んでもよかったが、座ってしまうと歩くのが嫌になりそうだから立ったまま木に支えてもらう。
『ふぁっ....ねむくなってきたな、仮眠取ろうかな』
アクビをして一瞬意識がシャットアウトしそうになった時だった。
『パンっ!!!』
乾いた音が聞こえた。
ビックリした俺はバッと木から離れる。
『銃声か?近かったような、獣狩りか?』
一瞬のことで俺も理解に苦しむが、次の悲鳴で確信する。
『助けてくださいっ!!誰かぁ!きゃぁ!』
人の叫び声に銃声、それを聞いた俺は先ほど枝を切る為に使ったナイフを持ち声のする方向に走り出す。
『はっ、はっ、どこだ!』
汗を掻きながらひたすら声の聞こえる方向に向かって走る。
その間にも銃声は続く。
探すのに夢中になっていて気がつかなかったが、悲鳴が聞こえなくなった。
『はぁ、はぁ、この辺だと思ったんだが』
息を切らした俺は走らずにゆっくり歩くことにする。
後ろ前左右見渡しながら進むと、草が生い茂った場所に誰かが倒れているのを見つけた。
『お、おい!君大丈夫か!?しっかりしろ!』
俺は見つけるなり駆け付け抱き起こす。
ビックリしたのは彼女は人間ではなくエルフだったこと、今はそれどころではないと思い話しかける。
『しっかりしろ!誰にやられた、賊か?』
幸いかすり傷程度みたいだが走り疲れたのかあまり話し方に元気がない。
『私は....マリア・イクリス....逃げてきました....』
マリア・イクリスと名乗る女の子はどうやら賊から逃げてきたみたいだ、それだけを告げると彼女は意識を失った。
『気を失っただけか』
俺は彼女をそのまま地面に寝かせ、立ち上がると。
『はぁはぁ!ようやく見つけたぜ女ァ!!』
走ってこちらに来たのは息を切らした山賊だった。
俺はナイフを構え話しかける
『なんだお前は、山賊ならキノコでも獣でも狩ってたらどうなんだ』
山賊の男に睨みつけるように話す、男は余裕なのかゆっくり近づいてくる。
『餓鬼は黙ってろ、その女は俺のだ、そいつをよこせ!』
デカい声で俺に威嚇する。
気を失っていた彼女が目を覚ましその場に座り込む。
彼女は男に話しかける。
『私は...貴方の玩具ではありません!』
先ほどの元気のない声ではなく、しっかりとした声で男に言い放つと男はイライラしたのか。
『なんだとごらァ?!てめぇは俺の玩具だ!あんまり舐めた口を聞くなら、殺すしかねぇよなぁ?』
男はショットガンを構えこちらに向けてくる。
俺は彼女を庇うように前に出る。
『なんだかわかんないけど、あまりしつこいなら容赦はしないぞ』
男はさらに近づいて、俺の心臓の位置に銃口を突き付ける
『てめぇの心臓なんかぶっ飛ぶぜ?一発でな?あははははっ!!』
さすがにフリだと思った俺は、誰かを守って死ぬなら悪くないと思い目を瞑ると。
『私と一つになってください』
俺の後ろから聞こえた声に思わず目を開けてしまう俺は。
『え?』
彼女が何を言っているのか理解ができなかった。
『私と一つになってください、私が貴方の力になります』
俺はこの場を凌げるなら、彼女を救えるならばと思いこの言葉を彼女に向かって言った。
『神様は何時だって味方なんだな』
と話すと彼女は先ほどの暗い顔から、女神のような笑顔を見せてくれた。
男はこちらの会話を聞いていていよいよ鬼のような顔をして
『ぬぁぁぉぁ!!死ねぇぇ!女などもういらんわぁぁ!!』
キレた男はショットガンの引き金を引こうとする。
すると彼女は俺の背中を抱きしめ叫んだ。
『クイーン・ボルデ!!!叫んでください!』
俺は言われた通り叫んだ
『クイーン・ボルデっっっ!!!』
どうにかなるならどうにでもなれ。
叫んだ先に何が起こるかなんてわからないのだから