第15話『イトラルを目指して』
その夜、松明により照らされた城の広場に集結したマルドゥ騎士団と俺達は王カルティの号令を聞いていた。
「各地にある小さな国や町にウラネク帝国の仲間と思われる盗賊共が好き勝手している。それにより民は傷忰しきっている、さらには町は腐敗しスラム状態だ。再建、復興するには奴らを捕らえてウラネク帝国のことについて聞き出さなければならない!皆の偵察などが頼りだ、頼むぞ!」
マルドゥ騎士団達の勢いある声にイヴは俺の背中に隠れてしまう
「そ、そんなので現場に行けるのか?」
「だ、大丈夫ですよ!現場ならなんとか、はい、大丈夫ですよ!」
イヴは苦笑いだ、本来なら城に残ってもらうつもりだったが『力になりたいのです!』と言われ断れなかった。
「無理はするなよ?俺だって偵察は初めてだからな、緊張するし、変な汗は出るし。その点マリアは余裕そうーーー」
「...........」
完全に固まっていた。
「ま、マリア?もしもーし」
「へ?あ、はぃ!?な、なんでしょうか!」
完全に声が裏返ってるぞ....とにかくお互い焦らず、励ましながら、いよいよ王都マルドゥを出る。
目指す最初の小さな町は『イトラル』と言う所だ。
田舎だが工業が栄えていて各国の騎士やお城などの武器製造などに力を入れている。しかし盗賊が頻繁に出入りしているということから製造はストップしている、さらには武器製造は限られた数しか製造できない決まりがある。そんな町に俺たちAグループが向かう。
「イトラルか、父さんに聞いたことがある程度しかしらないが、どんな町なんだろうか」
「イトラルは武器製造の町です、さっきクロス様が喋られる前に説明が書かれていましたよね?」
「な、なんの話だ?というか....まぁいいや」
マリアと話していると
「マリアさんはイトラルに行かれたことがあったのですか?」
イヴは重いリュックを背負い込んで歩きながらマリアに話しかける
「はい、盗賊から逃げている最中にイトラルに入りました。一日だけでしたが良くしてくれましたよ?」
「武器製造と聞くとなんだか怖いおじさんがいそうで、少し恐縮してしまいます....」
なんだかブツブツ言い出すイヴだが、今はそっとしておこう。
「イトラルまではあとすこしみたいだな、地図を見る限り歩いて4時間か」
「それ、後少しって言うんですか!?」
イヴはビックリした顔でそう言う
「まぁ、旅してたら4時間程度の距離ならどうとは思わないぞ?」
「クロス様、さすがに4時間はまだまだ長いかと」
「そ、そうかな?俺がおかしいのかな」
マリアはクスクス笑う、そうしているとこのAグループの団長が声を上げる
「よし!とりあえず休憩だ!30分休憩したらあとは一直線に向かうぞ!それまで自由にしろ!」
休憩と聞いたイヴは重いリュックを投げ捨て、ドサっと座り込む
「も、もう限界です!!歩けません....」
「イヴさん?こちらお水ですよ?」
「有難うございます!」
イヴはマリアから水の入った水筒を受け取ると、ゴクゴク飲んでいく
「そんなに飲むとトイレ近くなるぞ?」
「大丈夫です!今のうちに飲んでおかないとへばってしまいます!」
俺達が歩いている場所は山に近い野原。人が歩いていた道を使っているから辛くはないが、イヴは元々国からでたことない。辛いのは仕方ない
「ほかの方々はお昼みたいですね、クロス様?イヴさん?お弁当に致しませんか?」
マリアはリュックからひょいっと取り出したお弁当。三段になっているがいつ作ったんだろ?イヴが蓋を開けると
「うわぁ、美味しそうです!!玉子におにぎり、お肉!」
「マリアは異国の料理ができるんだな、和風と言う奴だよな?」
「はい、元々料理は好きでしたので色々勉強をしていたのですっ」
マリアはフォークを俺達に配り、手を合わせて
「「「いただきます!」」」
三人でマリアが作ったお弁当を食べたのだった。
休憩はあっという間に終わり、再び歩き出してから2時間たった頃だった。
「ぁ....うぅ!?」
イヴはお腹を抑え倒れ込む。
「どうした!?しっかりしろ!」
「す、すみません、食べ過ぎてしまいました...いたた...」
「こ、これは腹痛ですね、歩けそうな感じでもありませんし、クロス様?おぶっていけそうでしょうか?」
「そうだな、無理させるのはダメだ。イヴ背中に乗って!」
イヴは頷くとクロスの背中に身体を預けた。
「捕まってろよ?町まで後少しだ」
「うぅ、はぃ、すみません...」
イヴを担いで更に1時間歩く。ルートは山の後ろに回り込むように続く道をひたすら歩く、すると
「町が見えたぞ!後少しだ!」
団長の声を聞いた俺達は笑顔になる、イヴを早く医者に見せないといけない
「イヴ後少しだからな?がんばれよ?」
「はい、すみません、足を引張ってしまって」
イヴは暗い顔をする、マリアはイヴの頭を撫でながら
「これも旅では良くあることです、気にしてはいけませんよ?」
「その通りさ、こんなことくらいで謝るなよな?」
「有難うございます、クロスさん、マリアさん」
顔色は悪いが笑顔を俺達に見せてくれた。マルドゥを出てから約4時間ちょっと、ようやく『武器製造の町イトラル』に着いた。ここからは偵察というのを伏せて旅人として行動することになる、グループは解散し、俺達三人も周りと被らないように町に入る。
「まずは医療機関を探そう、イヴをこのままにはできないしな」
「はいっ、町の人に聞いてみましょう」
マリアが歩きだそうと振り返ると
「きゃぁ!!......いたたぁ」
マリアは転ばなかったが、相手の女の子は転んでしまう
「申し訳ございません!大丈夫ですか?」
「ちょ、ちょっと!!ちゃんと前を向いて歩きなさいよっ!」
立ち上がるなり凄い剣幕でマリアに言う。
「これだからおっぱいデカイ女と長身男が嫌いなのよっ!!」
いきなり初対面でここまで言える子は初めてだが、見た目はイヴと歳が近いくらいか?14歳くらいだろうか?俺がじっと見ていたのに気づいたのだろうか、ザッザと近づいてきて
「なによっ!文句あんの?!」
「い、いやないよ!それよりどこか医療機関はないか?この子ちょっと調子悪くて困っているんだよ」
帽子を被りサイドバックを肩から提げたサイドポニーテールの女の子は俺をすんごい目つきで睨んでくる
「あんた達見ない顔ね、旅人?商人?商人は有り得ないわね、リュックは持ってるなら旅人か。まぁいいわ、困っているんなら教えて上げるわよ、ついて来なさい」
早足で歩き出す女の子に俺は慌てて声をかける
「ちょ!ちょっと!君の名前は?!」
「はぁ?先に名乗んなさいよ!」
「そ、そりゃそうだ。俺はクロス・ハイドだ、旅人だ」
すると彼女は足を揃えてミニスカの両箸を手でつまみ上げて
「私はフェルディナ・アテナ...新境アイリス騎士団の団長よっ」