第11話「旅人、迷い」
マルドゥ騎士団に?俺が?まだ来て一日しか経ってないのに突然なぜ?困惑する俺に理由を話始めるカルティ。
「今の各国の情勢を知っているかな?我が国は見た目こそ安定はしているものの、周りからの攻撃は止まらない。一番の発端は、水の都がウラネクに侵略されてからなのです。」
ウラネク帝国。マリアから軽く聞いただけで詳しくは知らない。マリアやイヴ達の生まれた国、アラド。今はウラネクの支配下にあると聞いたっけな。カルティは話を続ける
「ウラネクはエルフを手にし、武器となりうるエルフを軍に引き入れたり、野盗などにエルフを売りつけたりと非道なやり方をし。他国を責め行っているのです、我が国にはボルデ・マスター(エルフと交わる者)があまりいない。民達も戦に加わる事がいまでもある。死人が出るのを避けたいのは当然だが、避けられない。戦を止めるには戦うしかない、負の連鎖が起きるのもわかっている。しかし、止めるには力がいる。クロス・ハイド君、力を貸して欲しい。」
王は頭を下げる、女王セレメリィも頭を下げながら
「この白にいるエルフは私のみ。戦いにも参加をしていますが、一人でも多く仲間が欲しいのです。お願いします」
二人に頭を下げられる。俺は慌てて
「そ、そんな。頭を上げてください!俺はまだ1回しかマリアと戦っていません。力になんて」
マリアは少し俯きながら
「戦いは避けられません、ですが本当に変わるでしょうか」
「私達が変えなければ行けないと思うのです、マリアさんやイヴさんを救うためにも、どうかお願いできないだろうか」
俺達は顔を見合う。王や女王は頭を下げながらお願いをしてくる。俺はマリアや他のエルフを助けたい、そう思ってマリアと行動をしている。でも戦いに参加をしないといけないとは思っていなかった。考える事十分
「すみません、二日間だけ考えさせてください。」
俺はそう告げた。
「わかりました。二日間ゆっくり考えてください。もし断られてもイヴさんはしっかり孤児支援をしますから、安心してください。」
俺はありがとうございますと軽く会釈をした。
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その後、俺達は各部屋に戻る。一人部屋状態の俺は考えるには十分な静けさだ。ベッドに座りそのまま横になる。
「騎士団か。そういうのは初めてだな、要は人を斬るんだよな?」
自分の言葉を自分に向けて言う。人なんて斬ったことはないし、ちょっと悪い賊を殴る程度にしか。そうやって悩んでいると
「クロス様。やはり先程の件でお悩みなんですよね?」
「マリア....」
マリアが部屋に来た。マリアは優しい笑顔でそう話しかけてきた、俺の隣に座る。
「マリアはどうなんだ?いくら悪い奴らでも同じ人間。そいつらを殺すような行為を。」
マリアは少し間を空けてる。俺はゆっくりと起き上がる。
「嫌です。エルフは人を支え助けるために生まれてきました。それを裏切るようなことはしたくありません。ですが、そのエルフを利用して民や国を恐怖に陥れようとしている。それを黙って見過ごす事はしたくありません。クロス様は最初に言ってくれましたよね?俺はエルフ達を助けたい。そう仰ってくださいました。その言葉を聞いて私は、一人じゃないんだ、この世界にもそうやって他人の為にがんばってくれるんだって。」
「いや、俺はタダの世間知らずだったんだ。その時の俺はどこか浮かれていたような気がする。でも助けたい気持ちは本物だ、マリアやイヴも助けたい。でも俺はタダの旅人だ、いきなり騎士団なんて。」
俺は自分の手のひらを見つめる。すると、少し震える手をマリアが両手で握ってくれる
「クロス様は既に二人もエルフを救っていますよ?イヴさんをちゃんと王の元へ連れて来てくださいました。それに私も、あの時の森で助けてくださいました。届かない声を、必死に叫んだ私の声を。探して助けてくださいました。もしクロス様が別のルートを歩いていたらきっと、私は....」
それを想像すると、本当に森を真っ直ぐに進んでよかったと思えた。ただあの時は真っ直ぐ進まないといけない、そう感じたからだ。エルフの力だろうか?マリアはそんな力のことは言っていなかったから、気の所為かも知れないが。
「大丈夫ですっ、まだあと二日間も考えられます。ゆっくり考えてください。私はどちらを選んでもお供致しますよ。」
マリアはそう答えると立ち上がり
「私は給仕のお仕事がありますので、またですクロス様っ」
小走りに部屋を去った。俺はその入口を見つめながら、ずっと悩み続けていた。
「父さん、人を守ったり助けたりするのってむつかしいんだな。」
俺は再び横になり、眠ってしまった。
そして、ふと目を開けると寝る前までは夕方空だったはずだが、窓から見える太陽。どうやら晩御飯も食べずに寝入ってしまったみたいだ。
「ふぅ、まだ薄暗いな。ちょっと歩くか」
俺は軽い散歩のために、部屋を出る。ずっと真っ直ぐに続く廊下を歩いていると、扉が少し開いた隙間から光が漏れている部屋。マリアとイヴが寝ている部屋だ。俺はその隙間から中を覗くと、テーブルに向かって何かをしているイヴの姿が見える。
「邪魔をしないほうがいいかな、どうしよ。」
もう一度よく見てみると、何かをずっと見ている。手に取って眺める物。写真か?俺は軽く扉をノックすると。
「へ?あ、クロスさん。早いですね、まだ外は薄暗いですよ?」
「お前こそ早いじゃないか。何をしていたんだ?」
「写真を眺めていたんです」
別に隠したりせずに手渡してくれた、そこに写っていたのは
「家族写真か」
「はい。唯一の宝物なんです、それがあるから諦めずに色々こなせて来ました。」
写真にはお母さん、お父さん、イヴにイヴのお兄さんが写っていた
「写真ってすごいですよね、そこにずっと居るんですから。」
写真をイヴに返すとそのまま引き出しに戻した。
「写真か、あまり撮ったことはないな。生き物観察に撮ったことがあるくらいだが俺自身が写った写真はないな」
「勿体無いですよ!」
イヴは立ち上がり俺に指さす。
「写真です!皆さんで写真を撮りましょう!」
マリアが横で寝ているのに関係ないように張った声で言ってくる
「それは構わないが、またいきなりだな」
俺は苦笑いしながら答える
「私、確にクロスさんやマリアさんとはまだ出会って短いですが。気持ち的に長く居るような感じになるんです。思い出の1つとして、写真を撮りたいんです!...ダメですか?」
そ、そんな潤んだ目で見られたら断れない。断るつもりもないけどさ。
「わ、わかった。マリアもちゃんと誘って写真でも撮ろう」
イヴはニコッと弾けた笑顔で
「やったぁ!それじゃ、今日早速撮りましょう!楽しみにしてますねっ!」
軽く散歩のつもりが、1時間近くイヴと話し込んでしまった。