第10話『王との約束』
せっせと書物の整理をしていく、俺とトールは話しながらも作業の手は止まらない。気になった書物はあとから貸出してくれるとのこと。二冊ほどあとから借りる予定だ、中にはかなり古い地図とかもあった。あとはボロボロになり過ぎて読めない本とか、かなり眠っていたに違いない。
「この箱はどうする?中身は地図ばかりだけど」
「それじゃあ、こっちに置いてもらっていいですか?」
俺はわかったと頷く。埃がすごいからマスクをしてるけど、目ばかりは無理だった。ちょっと目が痛い。
「二人は上手くやってるかなぁ、確か給仕だったか」
マリアとイヴは初めての給仕。ちょっと心配かも。
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その頃二人は、給仕のリーダー。ファニス・クライツに給仕の内容を教わっていた。ファニスはマリアと年齢はあまり変わらないため、マリアは話しやすいことから飲み込みが早いみたいだ。
「それでは、各部屋のお掃除から行きましょう。最初にやるのがベッドのシーツ交換からです。さっき教えたみたいにやってみてくださいな。」
まずはマリアからだ。マリアはベッドの横に立ちシーツを外す。それをカゴに入れて新しいのに変える。枕カバーも交換して最後に軽く整えて完了。
「ど、どうでしょうか?」
「そうですね、初めてにしてはよろしいかと。では次はイヴさん。イヴさんは窓ふきをお願いします」
イヴは強く返事をして、窓の前に立つ。濡れタオルを絞り、拭こうとしたら。
「ふんにゅぅぃぅぅぅ!!!!.......ふんにゅぅぃぅぅぅ!」
身長が低いために上の方が届かないみたいだ。ファニスは脚立をイヴの横に置いて。
「届かないなら脚立を使っていいのですよ?はいっ」
脚立を立ててくれた。イヴは顔を赤くしながら登り拭き始める。それを見ていたマリアはクスっと微笑む
「わ、笑うなんて酷いですよぉ!」
「ご、ごめんなさいね。でも、クスッ」
マリアは口を手で抑えながら笑う。ファニスも二人を見てニコニコしていた。二人は他の部屋も着々と終わらせていく。最後の部屋に向かう途中、廊下の窓から見えた馬車。
「あの、馬車が来ましたが?」
「カルティ様がお戻りになられましたね。少し早い帰還のようですが」
マリアは窓の外を見ながらファニスの話を聞く、イヴも窓の外を見る
「あの方が、カルティ王。クロスさんにお伝えしたほうがいいんじゃないでしょうか?」
「そうですねっ、私クロス様に伝えてきます!」
走り出そうとするとファニスに腕を掴まれる。
「クロスさんが居る場所わからないでしょ?三人でいきましょ?」
マリアは「あ、そうでした」と恥ずかしそうに呟く。
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「ふぅ!とりあえず終わりかな?」
「そうですね、大分纏まりました!ありがとうございます!」
クロスは埃の着いた服をパンパンと叩きながらそう言うと、トールはペコリと頭を軽く下げてそう言った。
「何言ってるんだよ、俺もトールと一緒の作業員なんだ。当たり前じゃないか」
「クロスさん....」
「トール......」
待て落ち着け、トールは男だぞなんだこの桃色は。と見つめあっていると
「く、クロス様....そんな、浮気ですか!?」
話に夢中というか、見つめ合ってしまっていて気がつかなかったが。いつの間にかリーダーの女の人と、イヴとマリアが入口に立っていた。
「う、浮気ってなんだ!それにトールは男だって!」
「ということは、クロスさんは男の人を.....」
イヴまで何かを言い出し
「トール。失望しました。」
リーダーの方まで....トールはトールで恥ずかしそうにしたままだし。こちらから話を振ることに
「というか。どうしたんだよ?話があったんだろ?」
「あ、はい!カルティ王が帰ってこられましたよクロス様っ」
王カルティ・マルドゥが帰ってきた。本来ここにイヴを残す為に王と話すつもりだったんだ。俺は手袋を外し
「じゃあ、直ぐにいこう。えーと、リーダーさん」
「ファニスでいいですよ?」
「ファニスさん、カルティ王の場所まで案内してもらっていいですか?」
「はいっ、お任せください。」
俺はトールと一度別れて、王カルティ・マルドゥが居る王室を目指した。
「き、緊張します」
「む、無理もないな。俺も女王の時以上に緊張してるしな。」
イヴの言葉に俺も賛同。だって王だよ、怖いイメージがある。それに正面には馬鹿でかい扉がある。今は入れと言われるまで廊下で待機している。
「落ち着いてくださいお二人とも。今から緊張していると、顔合わせした時には気絶してしまいますよ?」
「マリアも目が泳ぎまくりじゃないか」
「ふぇ!?いえこれは。そうです、運動です!」
めちゃくちゃな言い訳するほど緊張してるのかとボソリと呟く。そしてでかい扉を左右に立っている警備により開かれる。開いた扉の奥中央の玉座に座る王の姿と右側に立つ女王セレメリィの姿。俺達は二人の待つ場所へと向かい。軽く会釈。
「俺...僕はクロス・ハイドといいます、こっちがマリア、そしてイヴです。」
俺もそうだが二人もカチコチになっている。
「軽く話は聞いているよ待たせてすまなかったね。私がカルティ・マルドゥだ、よろしく頼むよ」
カルティ・マルドゥ。勝手な妄想でおじいさんが王かと思ったが二十歳過ぎくらいの青年だ。
「セレメリィから聞いているよ。孤児支援を受けたいんだよね?」
「はい!受けるのはこの子、イヴです。数年間ずっと1人だったので生活も苦しく、身体もあまり強くありません。そこでこちらの孤児支援を知ったのです」
俺はイヴのことを掻い摘んで話すと
「お、お願いします!」
イヴはペコリと頭を下げる、つられてマリアも下げる。
「わかりました。ではイヴさんの孤児支援を引き受けます。ですが、条件。というのは堅苦しい、お願いがあります。」
俺達は顔を合わせる。マリアは俺の耳元で
「お、お金を取られたりしませんか?」
「た、多分大丈夫だろう、多分」
変にビクビクしていると。
「クロス・ハイドくん。君に少しの間マルドゥ騎士団に入って頂きたい。」
「「「えっ?」」」
三人揃って気の抜けた声で言った言葉が、玉座に響いた。