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悪足掻き

作者: 彦根祖一

 まず初めに西暦と現在の日付、そして世界設定を述べ、そして物語が始まる、という体の小説を僕は何度も目にしてきて、そしてそのたびに嫌悪している。そんなものを語らずとも、小説の中での既成事実であるならそのまま既成事実として、当たり前のように普通の生活から始めればいいのに、と思う。どうして、そう周囲との隔絶を図るのか、自分のこいつ姓を大事にするのか、僕にはよく分からなかった。そして今も分かっていない。自分らしくありたい、個性を持っていたい、自分だけの事柄が欲しい。

勿論そんな自己顕示欲(使い方あってたっけ)は持っていないことを前提としても、だ。特別な者なんてどこにもいないというのに。

 天才的な人。成程、努力したか、生来の能力か、両親の遺伝かだろう。大勢から慕われる人だって、優しいか、統率があるか、ただ恐喝が得意なだけかだろう。何かにつけ最後まで突き詰めていくと畢竟として突き当たる。人間はみな人間である、という点だ。間違うことだってある。人間だから。失敗することだってある。人間だから。心が折れることだってある。人間だから。まずは、これを読むにあたって、という訳ではないが、貴方が人間であることを願いたい。とりあえず現時点では地球外生命体は確認されていないので、人間宛ということにしておく。

 しかし、誰かが読む前に炎上するなり風化するなりで、分からない状態になるかもしれない。あまり間延びしても仕方が無いから、本題に入るとしよう。一体この文章をどこの誰が、どんな状況下で読んでいるのか、僕には皆目見当もつかないが、タイトルを悪足掻きとでもしておけば、きっと誰かが手に取ってくれるだろう(理工学専攻なので文章作りはあまり得意ではない。そのため誤字や意味不明な文章になるかもしれないが、その辺りは勘弁してほしい)。


 優良な種を残したい。それは世界中の誰しもがどこかで一度は思ったことのあるものではないか、と考えてる。日本の古来芸術の後継者不足を筆頭として、自分の遺伝子を後世に残したい、生き続けたい、という生存本能に似たものだと思っていい。それが、全ての人間に備わっているものだとしよう(詳しい話は脳科学専門の者に聞いてくれ。僕にとって能とはみそ漬けのナスの塊のようなものなのだ)。たとえば、あくまでたとえば、それが肥大化し、後生に残す遺伝子を優良なものに厳選しようという意思が肥大化したなら…。つまりルックスが良くて秀才であるものは保有、それ以外は切り捨て、優良な者同士がセックスをし、もし劣ったものが生まれようものなら即切り捨て。などという過激を通り越して破滅的思考が実現したらどうなるか。

 それでどうなったかは、世界のすべての人間が知っている。僕は容姿としてはあまりよろしくない方で、しかし家族は全員整った顔立ちである程度の成績を収めていたので、僕だけが追い出された。初めはどうして僕だけと思ったが、いつの間にか順応して、仕方が無いと考えるようになってしまった。そのうちはみ出者や遺伝子に欠陥のある者、優良でない者、容姿が悪い者はどんどん逮捕され、人扱いされなくなったらしい。

 罪の名前は『不適罪』。世界に不適だから、だそうだ。そして差別の過激化は加速し、とうとう追い詰められた『劣った』方と、追い詰めた『優れた』方の間であることが起きた。

 優れた方は、劣っている方の完全な根絶のために。

 劣っている方は、優れた方への必死の対抗のために。

 かつて大量の死者を伴い、もう二度と参加しないと決めたはずのこと。


 戦争である。


 冗談?

 僕もそう思いたい。戦争をしているということ自体が幻想であってほしい。犠牲になった人々の死が悲しい。集団的自衛権がどうたらで政府と我々庶民との間でのいざこざがあったことがつい昨日のことのようだ。ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう、と、この前まで僕はそんな風に思っていた。だが今は違う。実際に戦争をしている。空襲警報が鳴り響き、空から他国軍の焼夷弾や爆弾が飛び交い、防空頭巾をかぶって逃げ惑うような、太平洋戦争の名残のかけらもない。重要文化財?世界遺産?自然の景観?生半可なチャンバラごっこならともかく、これは紛れもなく戦争で、だからこそ、どちらも容赦しなかった。徹底的につぶし合い、最大限の戦力を使い、兵士を駒のように動かし、戦闘機は鋭く空を裂き、新しい死を運んでくる。『これが現実だ。受け入れなくてはならない。』。そんな都合のいい言葉で誤魔化せるほどこの世界は優しくない。容姿が違う、才能が違う、というそんなちっぽけなどうでもいいことで、人間と人間は争ってそして、今まさに自滅しようとしている。これが現実でなくてなんだっていうんだ。最早ヒトヲコロシテハイケマセンなどという人はいない。それはそうだ。この時を境にこの世から人と呼べる人間はいなくなった。

 使用した核兵器の数は知れない。容赦しないのだから当然非人道的兵器すら使うだろう。ん?何を動揺しているんだ。二度と使用しないなどという戯言を、まさか信じたわけではないだろう?非核三原則などといううわべだけの設定を、まさか本気で信じていたわけではないだろう?その程度の拘束は今現在の人間にはビニール製の紐以下の強度でしかない。これがお伽噺だと思うのならそう思っていて構わない。だが、僕たちはもしここを切り抜けたとしても、またどうしようもない理由で争いを始めるだろう。 結局、自分を御することなんて、他人のことを慮ることなんてできるはずがないのだ。

そんな風に気付いたところで状況は既に完了していて、空気の汚染や放射能、過激化する殺し合いにより、人類は崩壊していた。気付くのが遅かった、どころではない。まだ絶滅とまではいかなくとも、互いが互いを破壊しあう破滅的な状況下だ。もう終わったんだ。もう死ぬしかないのだ。



 そんな一人語りを栄養不足の頭でもっと続けていたいのだが、なかなかどうして時間は意地悪なもので、こういうときに限って積極的に意識を遮ろうとしてくる。頭がおかしくなっているのか、視界が奇妙に歪曲していく。手も震えてきた。気持ち悪くて吐きそうだ。さぞかし奇妙な顔をしているんだろうな、今の僕は。でもまあ、元から顔は馬鹿にされてばかりだし、何をしても笑われるような僕だ。まあ苦しんで死ぬとか、嘲笑されて死ぬよりは幾分かマシか。

 死にかけてか、走馬灯かは分からないが、僕の脳裏に、僕の家族の光景が浮かんだ。僕の妻は世間一般的に見ての容姿評価は普通であり、決して造形が悪いということは無かったが僕を夫に持つという理由で、僕以外容姿が整っているというのに妻だけでなく家族全員が殺されてしまった。僕がこんな顔をしていなければ、僕さえいなければ。朦朧とする意識の中でそんな考えが渦巻き、僕はいつのまにか泣いていた。

 丁度その時、すぐ近くに武装した5人の兵士が通りかかった。目が半開きながらも僕が生きていると分かった彼らは僕に近づいてきて――どうやら『優れた』方であり僕の顔を見てすぐに『劣った』方だと思ったらしく――5つの銃口を僕の心臓付近に向けた。

 流石に死ぬわこれは。僕は悟った。その瞬間に、今まで僕の心を満たしていた悲愴感が消失した。もっと恐怖や悲しみを伴うと思っていたが、いざ覚悟して直面してみると、もうすぐ死ぬ、という無意識だけが残って、後は何もなくなっていた。むしろこれで戦争に関与しなくてすむ、という安堵の心すらあった。まさか生きているうちに死ねてよかったと思える日が来るとは夢にも思っていなかったが。

ああ、そうだ。撃たれて死ぬ前に何か一言言っておこう。

 ほんの些細な差異でお互いを抹殺し合い、その結果人類存続の危機に瀕しているという僕たち以上に哀れで醜く滑稽な動物たちに向かって言う言葉。それは案外あっさり思いついた。僕の最後の悪足掻きに等しい、ともすれば滑稽かもしれないそれを言うのに、僕は躊躇しなかった。


 涙で濡れた不恰好な顔で、嘲笑するような不気味な目で、この場に及んで挑発するかの如き不愉快な態度で、自分の醜さを全て見せつけて、もうすぐ尽きる命を差し出しながらも決して諦めない泥臭い決意を胸に、最高で最後の笑みを浮かべて、僕は言った。


「ざまあみろ。」


貴方の一番大事なものは、なんですか。

そんな質問が、小学校の道徳の時間に担任教師から投げかけられました。勿論正しい解を設けることなく、生徒にどんどん案を出させるのが狙いなのでしょう、教師陣もそういう雰囲気を出して生徒が主張しやすい環境になっていました。「お父さん」、「お母さん」、「誕生日に買ってもらったゲーム」、「飼い犬」、「家族」、「心」、「命」と、成程小学生が出しそうな案が多く頭上を飛び交う中で私は特に何も思いつきませんでした。黙っている私を見て先生が声をかけてくれましたが、私には何も答えられませんでした。先生にはそれが満足ならなかったようで、そして当時の私もその後の面倒くささを察して、適当に『両親』と答えた覚えがあります。今思えば嫌な子どもですね。まとめると、世の中人それぞれ個性があって、みんな違ってみんないい、なんて言いますけど、細部をみてみればそんなことはなくて、割と同じ方向に強制されていたりするものなんだなー、と。

 そんな思いで書いた『悪足掻き』、読んでいただきありがとうございました。初めてなので入力するところから緊張して、要項の入力に予想以上の時間がかかってしまいました。ここまで持ちこたえてくれたPCに感謝します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小説の内容よりも、 後書きの印象が強く残りました。 自分自身も相手が期待するような答えを言っていないだろうか。 たぶん言っています(笑) 自分自身、豚顔の女性が好きなんですけど、 好き…
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