序
寝所をそっと覗き込むと、その小さな子は静かに寝息を立てていた。今日からは一人で眠ると言って、夕食のあと早々にあてがった部屋に向かったのだった。少し前まで、一人寝はおろか、眠ることすら恐れていた子の安らかな寝顔。ほっと息をつき、その傍に椅子を引き寄せた。
月明かりが薄青くその子の額を照らしている。冷えそうな夜だ。掛け布を首元まで引き上げてやって、その横に腰かける。外からは傍を流れる水路の音が静かに聞こえてくるだけだ。
「本当に、大きくなりましたね」
聞こえないことを知っていて、語りかけるように言う。のぼり始めた月に似た、淡い金の髪を撫でてやる。額に触れ、悪夢を見ていないのを確かめて、健やかに伸びた手足を見た。これならば、十五の歳までと預けられた刻限も、きっと瞬く間にくるだろう。子が育つというのはそういうものだ。仮親の身であることは重々承知しながら、この手から離れていく日のことを思うと胸が痛んだ。
そして。
幾度となく、流れ星のように傍らを過ぎていった命の内に、いつかこの子も加わるのだろう。見送らねばならなくなる。それを思う時が何よりも辛いのだった。
遥かあの夜のような寂しさが、青白く照らされた自分の身を包む。
それは、また少し昔の話だ――