五話〜対人型モンスター戦闘訓練〜
「今朝はヒトツイズミに絡まれて大変だったみたいね? 強引で猪突猛進な人達だから、面倒だったでしょ?」
「……そうでもない」
現在、午後の戦闘訓練の時間。勇は訓練施設の見学席で、クロエと鬼島の二人と共に1組と2組の合同戦闘訓練を見下ろしていた。
なぜこんな事になったのかというと……。
「あー……昨日の事で分かっただろうが、詳細な事は伏せられているが、こいつはとある金剛級冒険者の関係者だった。ずっと前から戦闘訓練を受けていて、昨日のアレは我々を驚かせる為にああいう形になったらしい。その為、今のお前達の戦闘訓練に参加させる訳にはいかないから、暫くは見学という形になる」
という、鬼島の鶴の一声があったからである。
能力が制限されていようと、現人類の最高峰である事に変わり無い勇に、冒険者見習い達との訓練をさせられる訳が無いし、互いに無駄な時間にしかならない。
まだまだ武器に振り回されている未来の冒険者達を見て、ルクス時代の幼い頃のことを思い出した勇は、無意識に優しい目付きになっていた。
「なんだ。ムッツリしてる奴だと思ったけど、そんな顔も出来るんだな」
「……どうでもいいだろ」
「怒るなよ。褒めてんだから」
「ユウ、モモの事は気にしないで良いわよ。「鍛えられた良い腹だ! ちゃんと鍛えて俺の腕よりも太い女なんざ初めて見たぜ!」って女相手に褒め言葉で言うような馬鹿だから」
「アンリには謝っただろうが!」
「パーティにボコボコにされないと謝れないような馬鹿にかける言葉なんて無いけど?」
言い返せなくなった鬼島に満足して、クロエは勇に質問する。
「それで、貴方これからどうするつもりなの?」
「俺に聞かれても困る。そもそも、俺がどこかに所属する事はよく思われてないんじゃないか?」
「まぁそりゃね。私にもデッカい釘を刺されちゃったし。勝手に海外に引き抜こうとするなー、ってね。まぁ最終的には国で囲い込みたいんじゃない? ユウの実力と、ユウが持っている物は喉から手が出るほど欲しいだろうし。私はオススメしないけど」
「俺の自由を奪われる気はない」
「ユウにその気は無くても、例えばご家族を人質に〜、とかそういう事も考えられるでしょ?」
「そうなったら……容赦無く叩き潰すだけだ。人質程度で俺を縛れるなどと勘違いされても困る」
その物言いが気に食わなかったのか、直情的な鬼島がドンッと自分の膝を叩いて反応する。
「おい、人質程度だと?」
「あんたまさか、人質程度で俺の力を利用出来ると思ってるのか? この俺の力を。この世界の最高峰の武力なんて知らないが、俺が本気を出せばこの世界の人類を殲滅する事も出来るんだぞ。俺の大切な人と世界の全ての人間なんて、天秤にかけられる訳がない」
「…………」
「仮に人質に取られても救出を諦める気はない。だが、それで誰かに与して何かを害す事は、あってはならないことだ。神にすら届いたこの力を、俺以外の意思で振るわれる事はあってはならない」
「悪かった、全面的にお前が正しい。力を持つ人間は、その力に責任を持たなけりゃならんよな」
鬼島は勇の背中をポンポンと叩いた。
そうして三人、新入生の訓練をただ眺める時間が流れていく。
今日の訓練内容は対人訓練だ。基本的には人型モンスターに対しての訓練と、闘技大会などの為の訓練でもあるのだが、冒険者の中には犯罪に手を染めて指名手配モンスターに指定される場合がある。通常のモンスターとは厄介さが異なる事もあり、そういう"モンスター"に対しての対応も必要な為、対人経験は必須技能となっている。
現在、明らかに対人戦に慣れている経験者組が13人、対人戦には不慣れそうだが戦い方が上手い将来有望組が28人、戦い慣れてない未経験者組の18人の三組に別れて訓練を行っている。指導官が能力を見て別けたようだ。
「どう? 貴方から見て」
クロエにそう聞かれた勇は、経験者組を見た。
「あそこは、恐らく小〜中学校の間に武道系の習い事でもしていたか、親が冒険者だとかだろうな。将来的に冒険者になる事を想定してそういう幼い頃から訓練する家も多いと聞く。だが、対人戦は上手くても対モンスターは苦手という奴もいる」
「そういう一般的な事じゃなくて! 貴方から見て良さそうなのはいる?」
「そうだな……大剣の短髪男子と、弓のポニーテール女子。あの二人は鍛えればかなりの腕になるんじゃないか?」
「短髪は……1組の蒲池 豪だな。弓の方は……あぁ、池田の娘か。2組の池田 舞那だな」
鬼島はタブレットを操作してプロフィールを検索する。
蒲池も池田も共に冒険者の両親の子供であり、池田の母親は金等級の有名冒険者で、舞那と同じく弓使いだ。
グループ分けされている中でも、二人だけ他の新米に比べて明らかに動きが良い。二人はそれぞれのクラスを代表する人材になっていく事だろう。
蒲池からチラリと視線を向けられた勇はすぐに視線を切る。
「意識されてるわね?」
「誰かをライバル視したり、目標にするのは悪い事じゃない。それで飛躍的に成長する人間もいるからな。正しい方向に進めれば、だが」
「貴方にもそういう経験はあった?」
「いや……俺は無いな。他人の事なんて気にしてなかった」
「あー、なんか分かるわ。「誰かを理由にしないと戦えないなのか?」とか言いそうだもん、貴方」
「……………………」
実際にルクス時代の学友に似たような事を言ったことがあったため、目を逸らして訓練の方に意識を向けた。
現在、3対3のパーティ戦の訓練を行われており、メンバーは先程別けられていたグループから一人ずつ選ばれて進行しているようだった。ルールは単純で、死亡と判定される有効な攻撃を受けたと指導官が判断し、武器を置いていくというもの。
単純な多人数戦の訓練……というだけではない。「戦いに不慣れな人間と一緒にどう戦うか?」「即席のパーティで戦えるか?」という点も評価される。そのことに気付いているのは、既に冒険者としての心得を叩き込まれている人間以外にはいない。
「諏訪、アウト!」
そんなこんなで、サクッとお互いの未経験者達がアウトになり、そのままの勢いで有望組もやられ、長剣と拳を武器にした経験者同士の戦いは、パワーのあるインファイトで強引に押し切った拳側の勝利に終わった。
そのまま多人数戦が行われてゆき、いよいよ最後の戦闘訓練になったところで、勇は「あ」と声をあげた。
「俺が抜けてるから、一人足りないな」
「あー、まぁ誰かが代わりに入るだろ。まだ余力ある奴もいるだろうし」
(まぁ、そうか)
と黙って成り行きを見守っていた所、最後に残っていた生徒の一人が、勇の方に指先を向けて指導官に何事か話していた。
勇はその会話に聴力を集中させる。
「……ひ手合わせをしてもらいたいです。同級生である以上、問題はないでしょう? 向こうの訓練にはならないと思いますが、どうせ見学してるだけならこっちの訓練に付き合って貰っても良いじゃないですか」
「うーむ……それはそうだが……」
――というやり取りをしていた。
聞こえた事を二人に伝えると、鬼島がフンッと鼻を鳴らした。
「時間の無駄だっつってんだろ。格上過ぎる相手とやっても何も得るもんなんざねぇっつうの」
「別に俺は構わないぞ。前生でも、下級訓練生の教練をやらされていた」
「まぁお前が良いなら良いんだけどよ……」
勇は立ち上がり、そのままフワリと跳んで指導官の後ろに静かに着地した。
「俺は別に大丈夫ですよ。手加減は慣れてますから」
「おっ!? お、おぉ……君が良いならいいんだが……」
「ただ、このままのルールでやっても意味はありませんし、俺が一人に五人がかりで戦うルールでお願いします」
「それなら俺も参加させてくれ!」
既に自分の出番を終えて座っていた蒲池が、即座に立ち上がって大声をあげた。
指導官は勇に視線を向ける。
「別に構いませんよ。何人でも同じですから」
「……分かった。ただ、くれぐれも無茶な事はしないでくれよ?」
それは勇を心配した言葉では無い。「新米相手にやり過ぎるなよ」という釘刺しであり、勇は分かっていると言わんばかりに軽く頷いた。
勇はケースに入れられている訓練用の鉄剣を一つ取り、横並びになって準備している6人に向かい合う。
先程指導官と言い合っていた男が、一歩前に出て自己紹介をした。
「僕の名前は万智 大代だ。昨日の君の戦いぶりは凄まじかったから、是非手合わせしていただきたかったが、こんな形になってしまった事は申し訳なく思っているよ」
「真成 勇だ。俺も早々に見学してろと言われて退屈していた所だから構わないよ」
そのまま万智に続いて他の四人も自己紹介を始める。
「鹿丸 嶺二です」と頭を下げたのは経験者組、プロの冒険者が利用しているフィールドアシストAI付き冒険者ゴーグルを着けた男子。右手に長剣、左手に短剣を持っている。
「原井 恭平」とぶっきらぼうに言ったのは、棍棒を持った将来有望組、坊主頭の男子。
「松笠 紫苑、よろしく」と覇気の無い挨拶をしたのは、未経験者組の眼鏡をかけた女子。魔法用の杖を持っており、魔法士見習いだ。
「私は鈴 花美! よろしくね!」と元気溌剌なポニーテールの将来有望組の女子。両手にガントレットを着けているので、拳で戦うようだ。
最後の一人、蒲池はその流れに続かず、勇をただ睨むように見ている。
「さて……そちらの戦力は、大剣1、長剣1、双剣1、棍棒1、拳闘1、魔法1のパーティだ。先程までは各々自由に戦ってたみたいだが……そうだな、まずリーダーを決めろ」
「リーダー? それなら蒲池君で決まりじゃない?」
「ふむ。その理由は?」
「えっ!? だって一番強くて唯一冒険者の訓練してたって言ってたから!」
「なるほど。ちなみにだが、鈴、リーダーの役割はなんだと思う?」
「役割……って、えーと……一番前で皆を引っ張っていく?」
「じゃあ、その役割を蒲池にやらせたとして、蒲池はどこで戦う?」
「ええ!? そりゃ蒲池君は一番前で戦うでしょ?」
「そうだな、蒲池はその方が活きるユニットだ。それで蒲池はどう指示を出す?」
「えー……と……後ろの様子を伺いながら……?」
「そうなると、目の前の敵と戦いながら、蒲池は後ろの様子を伺って指示を出す事になるよな?」
「……それって凄く大変じゃない?」
「その通りだ。勿論、場合によってはそういうパーティもあるだろう。仲間の事を理解し、どのような局面でもある程度以上の連携が出来るなら、物凄い強さを発揮する事もある。だが、今の即席パーティでそれが出来ると思うか?」
「絶対無理だ!」
「そうだな。今回蒲池をリーダーとして動く場合、蒲池の動きに着いていける人間しか戦力にならない。そして残念ながら、そちらの即席パーティで蒲池に着いていける人間はいないだろう」
なるほどー、と納得した鈴は、元気良く手を上げて更に続けた。
「じゃあ、一番後ろで状況を見ながら指示できる、魔法士とか弓士とかがリーダーに最適で、今回は紫苑ちゃんが正解!?」
「と言うわけでも無いのがパーティの難しい所だな」
「なぬっ!?」
「勿論、状況を一番よく見えるのは後衛だ。パーティによっては、後衛職が指示出ししながら支援するのが、上手くハマるパターンもある。だが、前衛に指示を上手く出し切れない問題や、詠唱や射撃に集中して指示が遅れる場合などもある。これも人によっては上手くハマる場合もあるが……」
勇が松笠に視線をやると、松笠は首を横に振った。
「指揮経験なんて無い。魔法にも慣れてない私には無理」
「だろうな。ここからはあくまで俺の持論だが、即席パーティのリーダーは中衛、遊撃手が向いていると思っている。だから俺なら、鹿丸か万智のどちらかにリーダーを任せる。両方共冒険者になる為の準備は出来ているしな。鹿丸は冒険者御用達のゴーグルまで着けていて戦況をより良く見渡せるだろう。万智は周囲を動かす力がある」
勇の見立て通り、万智は両親共に銀等級の冒険者で、幼い頃から厳しい訓練を徹底されて育ってきた。辛い事は多かったが、勝手にライバル視していた蒲池にいつか勝つ為にと鍛え続けていた。
複数パーティの動かし方なども基本教養として叩き込まれており、同じく座学はしてきている鹿丸に比べても、即席パーティの指揮官としては最適の人選である。
鹿丸と万智は視線を交わして、鹿丸が譲るように一歩引いたのを見て、万智は挙手した。
「じゃあ今回は僕が即席リーダーを担当させてもらう。至らない所もあるだろうし、戦い慣れてないだろうから指示通りに動けなくても気にしないでほしい。ただ、僕の声には必ず耳を傾けて、なるべくそう動けるようには努力してくれ」
話はまとまり、勇と即席パーティは100メートルほど距離を取る。
万智はパーティにだけ聞こえるほどの声量で話し始める。
「まず、如何あがいても僕達じゃアレには勝てない。手加減はしてくれるだろうけど、勝ち目は万に一つも無い。わかっているとは思うけど、それ程までに差がある事は理解してほしい。だからあくまで、ただの人形モンスターと戦う想定で指示させてもらう」
そう言って、万智は一般的な多対一の戦略を伝えるのだった。
少し忙しくなりそうなので、次回更新は遅くなる可能性が高い




