一話〜冒険者学校入学式〜
東京冒険者学校。世界に魔物溢れるダンジョンが出現し、そして日本にもダンジョンが誕生した時に創立された、ダンジョン探索者を養成する為の学校である。ここで才能を発掘され、有名冒険者ギルドに勧誘される事で将来を約束される者も多数おり、特に東京は人が多い分、狭き門として優秀な能力を持った子供達が集まる事もあって、スカウト達も非常に入念なチェック体制を敷いて人材確保に励んでいる。
そんな冒険者学校の入学式は、例年騒がしくなるものだったが、今年は異様な雰囲気に包まれていた。
「あんな子見たことある!?」
「無いよ! 外からの子じゃない!?」
「あんなイケメンなら、わざわざ冒険者なんて目指すなよ……」
「いつものちょっと才能あるだけのファッション冒険者だろ。すぐに逃げ出すって」
「っていうか、なんか見覚えある気が……」
勇の美貌は、とにかく人目を強く惹きつけた。少し冷たい雰囲気はあるが、彼を見て容姿を貶す人間はほとんど存在しないだろう。どの角度から見てもイケメン、というのは良くも悪くも他者の関心を引いてしまっていた。
勇はと言えば、自分を中心とした騒動になんの興味も無かった。多数の視線を受けているのは気付いているが、ルクス時代にも良くある事だったので慣れたものだ。しかし勇は自分の優れている容姿に興味は無かった。いつ死ぬかも分からない道を選んだルクスには、容姿の良さなど何の関係もないステータスであった。
巨大な校舎門をくぐると、教師達の声掛けで列分けがされており、事前に言われていた通りに近くの受付に入学証を渡すと、「えーーーと……君は、二列目だね。入学おめでとう」と指示を受け、言われた通りに二番目の列に並ぶ。
少しずつ前に進み、勇の番になって前に出る。
「入学おめでとう。えーと……真成 勇くんだな。はい、これ。学習用冒険者端末。学生用に最低限必要なアプリだけ入った物だけど、それでも高性能な物だから、無くしたり壊したら自腹で買うハメになるし結構高いから気をつけてな」
「はい」
「使い方はこの後の最初の授業で教えるから、まだ触らないように。君は1年2組だ、校舎を入って左側、最初の教室だ」
「分かりました」
端末を受け取って校舎内に入る。無意識に靴を脱ごうとしかけ、外靴のまま入れるものだった事に気付いてそのまま中に入り、指示された通りに進んで指定された教室へ向かうと、入り口は開放されており既に楽しそうに会話する生徒達が散見された。
教室の前面に取り付けられているディスプレイに席順が表示されており、勇の席は一番後ろの窓側の席になっていた。教室内でも一気に視線が集まるが、気にせず指定の席に座る。騒がしかった教室が一気に静まり返ってしまう。
ヒソヒソと生徒達が話しているうちに、教師がやってきた。先程端末を配っていた教師だった。
「諸君、おはよう。私は金森 丸雄。少し頼りないようにも見えるだろうが、こんなんでも個人金等級の冒険者だ。よろしく頼む」
おお……と生徒達が声を漏らした。
勇は記憶の中にある、冒険者等級について思い出してみる。
冒険者の等級は8つに分けられている。低い所から、水晶級、青銅級、銅級、銀級までが一般冒険者と呼ばれている。水晶級は、冒険者学校に通わずに冒険者になった人に与えられる等級で、誰でもなれるものの冒険者の才能がなければ昇級できずに水晶級のまま冒険者を廃業する者も多い。冒険者学校を卒業した生徒は、銅級からスタートする為、如何に冒険者学校に通う事が重要かが分かるだろう。
冒険者の等級として、銀級が一つの壁となっており、その壁を突破した先にあるのが、白金級、金級の精鋭冒険者である。一般的には金級が最高等級と言われており、ここが二つ目の壁であり最大の障壁となっている。
金の更に上、黄金級は冒険者ギルドとして優秀と認定されたギルドのリーダーのみに与えられる特別な等級にして、国家権力と同等の権力を有している証でもある。その分、認定には厳重な審査が必要となっており、申請制ではなく国から与えられる物のため、望んで得られるものではない。
そして一番上、金剛級。これについても国が与える等級なのだが、現状与えられる理由については一切不明で、憶測以上の物は存在していない。ただ共通して、個人でとてつもない力を有しているか、常識を覆すほどの成果を得たものに与えられている事が分かっている。
以上の事から、一般の冒険者が目指しているのは金級であり、それより上は気が付いたらなっているものとして認識されている。
つまり金等級の冒険者である金森は、かなり上澄みの冒険者であり、冒険者志望の生徒達にとっては憧れの存在でもあった。
「早速だが、先程配った学習用冒険者端末の使い方を教える。まずは基本的なものだが、通信アプリ[冒険者ネット]だ。通話はもちろんチャットでのやり取りも可能であり、ダンジョン産の技術で作られた端末の為、通信傍受の可能性も無く回線不良もない。アカウントはこちらで作成済みですぐに開けるようになっている。アプリを開いて、左に検索用のバーがあるから、そこに1年2組と入力してみてくれ」
その通りに検索すると、1年2組に所属している生徒の名前が顔付きで一覧表示された。
「上の全体フォロー申請というのを押せば、そこに表示されている全員に申請が送れるし、表示された人の名前を押して個人にフォロー申請も出来る。と言うわけでだ、まずは全員に自己紹介と相互フォローしてもらおうかな。学生番号順に自己紹介をして、フォロー申請をしてくれ。青崎からだな」
「は、はい! 私は青崎⸺」
順番に席を立って自己紹介をして、全体フォロー申請を送信していく。勇は送られてきた申請を許可してゆき、そうして一番最後、自分の番になった。前の人達と同様に席を立つ。
「真成 勇。趣味は……(前生ではアクセサリーを集めるのが好きだったけど、勇の方に趣味らしい趣味は無いな……ゲームやアニメを暇潰しに楽しんてるくらいか)ゲームとアニメ鑑賞だ。よろしく」
ざわっ、と教室内がざわついた。誰もがスラッとした超が付くイケメンが、趣味にゲームとアニメを持ち出して来るとは思っていなかったのだ。正直なところ趣味と呼べるほどのめり込んでもいなかったのだが、スポーツに興味も無ければ、文化的な方面での趣味も無く、友人も無いまま両親まで亡くし、そのまま祖父母に引き取られた事になっている勇は、趣味を持つ暇も無かった。
全体フォロー申請を送信して席に座る勇を見守って、金森はパンっと手を鳴らした。
「良いかお前ら。今日からお前らはライバルとなるが、それと同時に同期で冒険者仲間でもある。これは先人としてのアドバイスで非常に大事な事だから言っておくがな、敵だとは思うなよ。あくまでライバルだ。自分の手柄の為に他者と敵対的になり、陥れたり踏み台にしたりするような真似はするな。今までにも何人も、汚い真似をして破滅していった馬鹿共がいる。俺の同期にもそんな馬鹿野郎がいてな、そいつは……同期を殺して成果を奪い、それがバレて逮捕されそうになって大暴れ、当時の黄金級冒険者に再起不能にされて、今もまともに動けない状態で特別収容施設に入れられている」
その忠告と苦々しそうな表情の金森は、生徒達への警告としては十分な役割を果たしていた。
しかし勇ことルクスは誠実な人間ではあったが、やられた方が悪い、隙を見せた方が悪いという環境で育ってきたのもあって、少しだけ白けた気分だった。
そんな勇に金森が視線を向けて来た。ニコリ、と笑いかけられるが、勇は無表情に視線を返す。
(要警戒対象にされたかもな……面倒くさい……)
勇の想像通りだった。金森たち教師陣が、新入生達に毎度この話をしているのは、釘を刺すという事以外に隠された目的があった。それは「この話をまともに聞かなかった人間」であるかどうかの見極めである。1年2組の中で、一人白けていた勇は非常に目立っていた。
「例え悪さをしようとしても、俺たち冒険者は甘くない。いずれはバレるし、絶対に逃がす気も無い。まぁつまり、真面目に誠実に頑張れって事だ。これから四年間よろしくな!」
その朗らかな挨拶に、教室内の緊張した空気が一気に解きほぐされた。
「それじゃあこれから、入学式を兼ねた対モンスター訓練を行うから、総合訓練場に移動する。着いてきてくれ」
*
総合訓練場に着くと中央に組ごとに整列させられ、他のクラスの生徒達も合わせて合計120人が並んだ。訓練場内はとにかく広い空間で、一般的な高校にある体育館のおよそ五倍程度の広さであり、高さもあって非常に自由な戦闘訓練を行う事ができる空間となっている。とはいえ通常使用においては広過ぎて少し寂しい空間になるのだが、四方に設置されている移動式見学席が生徒たちを囲んでいるため、むしろ圧迫感すらあった。
見学席には新入生の保護者達と、様々な冒険者ギルドの幹部達とスカウトマン達、そして在校生達が、新たな冒険者の卵達を見守っている。
生徒達の視線の先に教師達が横並びし、その後ろから体格の良い男が前に出てきた。
「新入生諸君、入学おめでとう。知ってるとは思うが、俺は………………」
そこまで言って、男の声が止まった。男は勇をジッ……と見つめ、十秒ほどそうしてから、ようやく次の言葉を発する。
「えー……校長の鬼島 桃だ。こんなゴリラが……と哀れまれる事が多いから、名前をイジると泣いちゃうぞ♡」
なんとも言えない空気が流れる。
鬼島はオホンとわざとらしく咳をした。
「昔は笑ってもらえたんだがなぁ、これも時代かねぇ……。まぁいい、知っての通り元黄金級冒険者の俺だが、今は後進の育成の為にほとんど冒険者は引退している身だ。とはいえ、ひよっ子共にまだまだ負けるつもりはないぞ!」
ムキッムキッ、と筋肉を主張するように膨張させる。
「俺のような最強の男を目指すも良し! 兵器開発や装備開発に励むも良し! 個人的におすすめはしないが魔法使いとしての才能を鍛えるも良し! ただし魔法馬鹿になって、1000m走っただけで息が上がるような軟弱な奴は認めん! お前達の将来が全ての冒険者、そしてこの国の発展に繋がる事を願っているぞ! 魔法馬鹿にはなるなよ!」
最後に謎の念押しをして鬼島の挨拶が終わり、後ろに下がっていく。
続いて人目を引く金髪美人の女が前に出た。
「私はクロエ・シャンプ、当校の副校長を勤めさせていただいています。先程の能筋ゴリラが意味不明な事を言っていましたが、魔法はこれからの冒険者の未来を担う重要なファクターです。身体を鍛える事ばかりに熱中し、勉学や魔法学を疎かにする事の無いよう心掛けてください。因みに、私も黄金級の冒険者ですが、最年少到達者のレコードホルダーです。身体を鍛える事の重要性は理解していますが、それだけでは意味が無いことを私は実践していますので、くれぐれも着いていく人間を間違える事の無いように、よろしくお願いしますね」
ニコリと笑って頭を下げて挨拶を締めくくり、元の位置に戻っていく。その途中、クロエを睨みつける鬼島との間で、火花が散ったような錯覚を多くの新入生達は感じていた。
そのまま、教師達陣が一人一人挨拶をしてゆき、全員の挨拶が終わった所で鬼島が再度前に出た。
「それじゃあ早速、初めての訓練を開始する! 怪我をする事もあるから、指導員の指示に従うように! 親御さんに良いところ見せようとして張り切るなよ!」
「1組と2組は左に、3組と4組は右に下がってー!」
その合図と共に見学席がスーッと下がる。
新入生達は教師に誘導されて左右それぞれに別れて離れ、全員が離れた事を確認した指導教官の浅野が端末を操作すると、二つの四角い青みがかった透明の空間が左右に現れた。
「今から君達には、この中で疑似モンスターと戦闘をしてもらう! 現在、空間内に入った者の能力を読み取り、その能力に見合ったモンスターが出現するように設定されている! 見た目、能力共に完全再現されるが、この空間内で負った怪我はあくまで仮想であり、戦闘終了と同時に元に戻るから安心してくれ! 戦闘終了の条件は、モンスターが死亡した時、もしくは訓練生が死亡するか空間内から退避した時! どのようにモンスターと対峙するか? それを採点しているので、各自考えて行動するように! また、順番は公平を期すため、ランダムで選ばれる事となっている! 学習用端末が鳴った者は、速やかにこちらにある武器を一つ選んで空間内に入るように!」
*
「今年もこの日がやってきたわね。本当日本って野蛮で根性論が未だに蔓延ってるんだもの、嫌になっちゃうわ」
「………………」
「ギリギリ絶対に勝てないモンスターを出して、敗北を知る所から教えるなんて。心が折れたらどうするのよ? 貴重な才能が失われる可能性もあるのに」
「………………」
「アメリカならこんな事はしないわよ。自主的に目標を定めて貰って、自分の限界を少しずつ越えてもらうようにするの。少しずつでも成長している実感がある方が本人の為にもなるし、その途中で敗北を知ることもある。断言するけど、私の国のやり方の方が……」
「………………」
「モモ? なによ、張り合いが無いわね。どうかしたの?」
「あ? ……あぁ……なぁクロエ、あいつ……真成 勇ってやつ、お前知ってたか?」
「誰? マナリ? えーと……1年2組の子? 知らないわね、その子がどうかしたの?」
「いや……あいつ……俺より強いぞ」
「は? それはなに、心がってこと?」
「多分、正面からやり合ったら100回やって100回負ける。直感だけどな」
「…………本当なの? まだ子供よ?」
「だから驚いてんだよ。もしかしたら、どっかの国のスパイかと思ったけど、経歴になんの不審な部分もねぇし。ありゃやべぇ、もしかしたら……おやっさんよりも……」
「ちょ、ちょっと! 冗談でも面白くないわよ!?」
「冗談じゃねぇから言ってんだよ」
「嘘……何者なの?」
「俺が知りてぇよ」
「……アレで出る最強のモンスターって、スターライトドラゴンよね? そんなの出たらどうするのよ」
「だから俺が知りてぇよ。まぁ……大騒ぎになる事は確定だわな」




