終わり後プロローグ
「……ルクス・フォーラ。……ククク……よもや、単身で我を殺し尽くすとは。その名は神の国まで伝えてやろう。誇るが良い、貴様の名は永遠」
「それは無いな、魔神クリストノヴァ。お前の魂はどこにも行く事は無い。ここは神々から拒絶された世界の端だ」
「……フッ……であるのならば、我が怨嗟と共にその名を無に還そう。さらばだ、勇気ある愚か者よ」
「言われるまでもない。こっちも致命傷だ。じゃあな、力だけの愚か者」
魔神クリストノヴァの身体が砂となって消えたのを見届け、ルクスはようやく後ろに倒れた。
何も無い暗闇、既に光も失われ、ルクス以外は何もない。ルクスは目を閉じ、己の運命を受け入れる。
(無、か。なんだよ、今更後悔してるのか? ……いや、それは無いな。みんな怒るかな? ……悲しんでくれるかな。だったら、嬉しい。最期まで自分勝手な奴だよな、俺って。……良かった。頑張って良かった。みんなを救えて良かった。俺だけで、よかっ)
「良くない!!!!」
「ッ!?」
女性の怒声が響き、ルクスはすぐさま目を開けた。
闇の中ではない、どこまでも続く真白い空間に、ルクスはいた。
剣を取ろうとしたが、先程まで握っていた筈のそれはどこにもない。
そしてルクスの正面に、高貴な光を身に纏った涙目の女性が立っている。
ルクスはすぐに、女神だ、と察した。
「ルクス! あなた馬鹿よ! 自分一人が犠牲になってみんなを助ければ良い!? バカバカバカ!!! みんなで力を合わせればみんなで帰ってこれるって信じられなかったの!?」
(……そんな、可能性の為にみんなを巻き込めないだろ。もし駄目だったらどうするんだよ)
「皆のことを信じないでなにが勇気ある者!? ただの臆病な愚か者じゃない!」
(そこまで言う事無いだろ)
「そこまで言う事よ! 良い!? 貴方が不幸になる世界なんて私は認めないわ! 今から貴方を異世界に転移させます! 異論は認めません!」
「異世界……?」
「私からのオーダーはただ一つ! 幸せに生きなさい! バカ!」
ふわっ、と空に投げ出されたような無重力感に、ルクスは身を強張らせた。しかしすぐに意識が絶たれてしまう。
次にルクスが目覚めたのは、見覚えの無い……否。
「……なんだ、これは?」
間違いなく見覚えのない筈なのに、間違いなく自室の天井だという確信があり、ルクスは混乱した。
(おかしい……俺は……ルクス・フォーラ……いや……)
その時、勢い良く扉が開けられて、先程とは別の柔らかい怒声が聞こえてきた。
「勇! まだ寝てるの! 今日から学校で……あれ?」
「……婆ちゃん、起きてるよ。今行く」
「あ、あれ……勇ったら、いつもはお寝坊さんなのに。高校生になって、ようやく大人になって来たのねぇ」
「これからはちゃんと起きれるから」
真成 勇。女神が用意したルクスの今の名前である。容姿はほぼルクスのままの黒髪金眼の超美形、2年前に真成家の事故死した一人息子とその妻の忘れ形見で、父方の祖父母に引き取られた……と言うことになっているのだが、そんな事実はほぼ存在しない。真成の一人息子がダンジョン探索事故で逝去したのは確かだが、36歳で独り身であった。女神の力で勇という存在は確かに世界に存在させられており、15年間を生きた記憶も勇の中に確かにあった。
女神の気まぐれ。ルクスこと勇はそう認識し、使い慣れたベッドから起き上がる。
バキッ!!!
手をかけて力を入れた所が、盛大に折れて弾け飛び、勇は床に叩きつけられてしまう。痛みはないが、倒れた床も割れて飛び上がってしまっていた。
バタバタと階段を駆け登ってくる音が聞こえる。そして部屋に飛び込んで来た勇の祖父となった彰と先程起こしに来た祖母の麻里が、部屋の惨状を見て絶叫する。
「どうした勇! って、うおわ! ベッドが! 床が!」
「大丈夫!? 何があったの!?」
(……ベッドに寝るのなんて久しぶりだから、力加減を忘れてた……)
何事も無かったかのように立ち上がった勇は、ベッドの状態を確認している祖父と、怪我はないかと心配している勇の身体を確認している祖母に言った。
「老朽化かな」
「このベッド、買ったばかりだぞ!?」
雑に誤魔化そうとしたものの、流石に誤魔化せずに彰にツッコまれてしまった。
とはいえ、二人に原因が分かるはずも無い。二人は首を傾げながら、部屋を後にした。
勇は用意していた記憶のある制服に着替え、その途中で机の上にある物を見つけた。勇の記憶の中には存在しないそれは、黒い指輪だった。すぐに鑑定をしてみる。
【制御の指輪☆】装着者の攻撃系能力を2割まで抑える指輪。戦闘時のみ、任意で効果の解除が可能。神造装備。
(なるほど、制御魔導具か。確かに、軽く力を込めただけでベッドを破壊してしまう俺に必要な物だな。神々の考える事はよく分からないし目的も不明だが、配慮はしてくれているということか)
勇は左手の人差し指に指輪を嵌める。一瞬力が抜けたような感覚はあったが、すぐに違和感が無くなり身体に馴染んだ。この状態でも人類史上類を見ない程のユニット性能を持っているが、日常生活に支障が出ない程度までには落ち着いた。
試しにと、まだベッドのまだ無事な部分に手を当てて力を込めてみる。本気でやれば破壊できそうな感覚はあったが、7割くらいの力では何とも無かった。
(……前生で使いたかったな、この指輪)
便利な指輪を身に着けた勇は、朝食を摂って初登校の道を歩き出した。




