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9 不穏な邂逅

「何で来たんだ」

「ちゃんと先ぶれは出した」


 カエリウスが留学中に借りている邸宅。かつて高位貴族が住まった屋敷は、今も洗練された佇まいを保っている。

 調度品はかつての住民が残したものらしいが、青地に繊細な刺繍が施されたカーテンやクッションは、セレスタから持ち込まれた特注品。異国の色が、この屋敷に新しい空気を与えていた。


 応接間。柔らかなソファにどかりと腰掛けるのは、栗色の髪を一つに縛ったアレクシス。きちんとした身なりだが、座り方には少年らしい苛立ちがにじむ。

 対するカエリウスはシャツにスラックス、肩の力を抜いた服装で、余裕そのものだった。


「ほとんど同時に着くのは先ぶれとは言わないだろう。何をしに来た」

「愚痴を言いに来た!」


 アレクシスの剣幕に、カエリウスは金の髪を揺らしながら肩を竦め、項垂れた。

「潔いな……」


「貴方はもう耳にしているだろう。兄上が聖騎士団を連れて、エルデンブッシュの森に狩に行ったんだ! 魔獣がうようよいる警戒区域にわざわざ! その上、伝説級の魔物に遭遇して重症者多数! 一体どういうことだ!」


 カエリウスはソファに身を預け、腕を組む。

「君の兄が愚かなだけだ」


「殿下!」

 アドリアンが咎めるも、カエリウスは首を振り、真顔で続けた。


「重症者は聖騎士団だけではない。聖女たちもだ。聖力が魔獣戦に有効だからと、わざわざ連れて行ったのだろう。

 さらに悪いことに、君の兄は――大聖女殿を盾にした。彼女は重度の火傷を負ったが、仲間の聖女たちが治療して命を繋いだ。だが、普通なら死んでいた」


「………え」


 アレクシスの顔から血の気が引いた。

「な……なぜ……。大聖女様はこの国の顔だ。魔獣戦に駆り出すよりも、外交の切り札とした方がよっぽどいい。兄上はなぜそんなことを……」


「へぇ。君はそう考えるのか」

 カエリウスの口元が歪んだ。外交の場で見せる穏やかな微笑ではなく、鋭い影を落とす不敵な笑み。


「ひっ……!」


 初めて見る顔に、アレクシスの背筋が粟立つ。カエリウスの後ろに控えるアドリアンが、憐れむような眼差しを向けていた。


「見直したよ。アレクシス。君も戦いたまえ。私は君を見ている」


 底なしの沼に足を取られたような感覚がアレクシスを襲う。

 視線を泳がせると、アドリアンと目が合った。

 彼は小さく首を横に振り――それ以上は口に出すなと、無言で警告していた。

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