6 揺れる思い
王城の庭園にある白いガゼボ。
藤棚の影を落とすその下で、アレクシスとクラリッサは向かい合って座っていた。春の風が花壇に咲き誇る色とりどりの花々を撫で、甘やかな香りを漂わせる。
メイドが静かに紅茶を注ぎ、一礼して下がる。
残された二人の間には、紅茶の香りだけが漂い、視線は一度も交わらなかった。
「先日の小規模学会で、見事な弁舌を披露したと聞いた」
不意に口を開いたアレクシスの言葉に、クラリッサが目を上げる。
青みを帯びた灰色の瞳が真っ直ぐに向けられ、アレクシスは息を呑んだ。
「……お褒めに預かり光栄ですわ」
短い応答で会話は途切れる。
焦ったようにアレクシスは続けた。
「えっと……その……。クラリッサ嬢は、学友たちと議論を戦わせたりもするのだろう?」
「えぇ、まぁ、そういう場所ですので」
「俺も、その中に入りたいな……と」
(入りたいわけじゃない。ただ、クラリッサと話がしたいだけなのに)
クラリッサはきょとんとした表情を見せた。
「殿下は、それほど学問に興味をお持ちではないでしょう」
アレクシスの頬が赤く染まる。
クラリッサは慌てて言葉を重ねた。
「あぁ、いえ、誤解なさらないでください。殿下はそれでよろしいのです。殿下には剣技があり、騎士団の方々から厚い信頼を得ていらっしゃる。勉学でも必ず平均点はお取りになる。王弟として、学問に突出する必要はございません。殿下は堂々とそこに立ち、周りに目を配ってくださるだけで十分なのです。学問などは、我ら臣下がお支えいたしますわ」
アレクシスの視線が沈んでいく。
その表情を見て、クラリッサは唇を噛んだ。
「……わたくしの存在が、殿下を不安にさせてしまうのですね。殿下は十分に素晴らしいお方です。ですが、やはりわたくしは殿下に相応しくありません」
「そんなことあるわけ……!」
アレクシスの声は震えていた。
「――だから、婚約を解消させてくださいませ」
「いやだ! 絶対に解消なんかするものか!」
アレクシスの必死の言葉にも、クラリッサは小さくため息を漏らす。
「申し訳ありませんが、急用を思い出しました。本日はこれでお暇させていただきます」
椅子から立ち上がり、侍女を伴ってガゼボを後にする。
残されたアレクシスは、名を呼ぶようにぽつりと呟いた。
「クラリッサ……」
庭園の花々を揺らす風の音だけが、取り残された少年を包んでいた。




