5 剣と劣等感
王立大学校の北側に位置する聖騎士団訓練場。広大な砂地には木製の人形や標的が並び、鉄で補強された柵の向こうには観覧用の石段が築かれている。
朝から団員たちが訓練に励み、鋼のぶつかり合う音と掛け声が、雲ひとつない春空に高らかに響いていた。
その一角で、王弟アレクシスは団員に混ざり、模擬戦に臨んでいた。
栗色の髪を揺らし、若い体躯に似合わぬ鋭さで剣を振るう。
「せいっ!」
乾いた音とともに相手の剣が弾かれ、砂地に転がった。
「そこまで!」
審判役の声が響き、二人は互いに剣を収め、一礼する。
ざわめきの中、爽やかな声が近づいた。
「殿下! 同世代で殿下に勝てる者はおりませんな!」
駆け寄ってきたのは、副団長ディートリヒ。精悍な顔立ちに白い歯を見せ、鍛え上げられた体躯からは頼もしさがあふれている。
アレクシスはつられるように笑みを見せたが、その顔はすぐに曇った。
「……剣だけが強くてもな」
ぞろぞろと周囲に集まってきた団員たちが顔を見合わせる。
十五歳、まだ成長の途中。小柄というほどでもないが、彼にとっては切実な悩みだった。
「俺は背が高くなりたいのだ」
その一言に団員たちは合点がいったように頷き合い、にやにやと笑い出す。
「なるほど! クラリッサ嬢は背の高い方ですからな!」
「大丈夫です、殿下。伸び盛りなのですぐ追いつきますよ!」
「そうそう、すぐに見上げられるようになります!」
声を合わせて笑い出す団員たちに、アレクシスは耳まで赤くなった。
「お、お前ら真剣に聞いていないだろう!」
「次の模擬戦いくぞー!」
「俺も殿下と手合わせ願いたい!」
「次は魔獣戦形式だな」
「団長に相談しておこう!」
口々に声を上げて盛り上がる団員たちの中で、アレクシスは思わず大声を張り上げた。
「聞けよ!!」
剣戟の音と笑い声が青空に響き渡り、少年の声はその中に掻き消されていった。




