40 揺るがぬ絆
転がったままのコンラートの前に立ち、アレクシスは声をあげた。
「私は、私の婚約者クラリッサ・ヴァルトハイムの名誉の為に戦った。彼女に関する悪意ある噂は全て嘘であったと、今、ここで言え!!」
怒気を含んだ声は訓練場を震わせ、観衆の胸を打った。誰もが息を呑み、コンラートの言葉を待つ。
顔を青ざめさせたコンラートは、唇をわななかせる。
「う……嘘の噂を流しました」
「もっとはっきり!!」
「嘘の噂を流しました!!」
その叫びは、観客席の皇王派から悲鳴のようなざわめきを引き起こした。
アレクシスは彼を見下ろし、大きく頷く。
そして視線をゆっくりと上げ、皇王派の中に座るホーエンベルク侯爵を真っ直ぐに射抜いた。
「もう一つ、言いたいことがある」
息を吸い込み、胸の奥から声を放つ。
「玉座は兄上か、私のものだ! 余計な手出しをする者は、何人たりとも許さない。愚物め、覚悟せよ!!」
冷気を思わせる覇気が訓練場を満たし、ホーエンベルク侯爵は顔を引きつらせ、椅子から転げ落ちた。その周囲でも次々と悲鳴があがる。
一方で王弟派の陣営からは大きな歓声が巻き起こった。
アレクシスは深く目を瞑り、呼吸を整える。
視線を巡らせ、探すのはただひとり。
――いた。
多くの観覧者の中でも、一際輝く姿。クラリッサ。
両手を差し伸べると、クラリッサは席を飛び出し、裾を揺らして駆けてくる。
その身体がアレクシスの胸に飛び込んだ。強く抱き留め、ぐるりと回る。
やがて彼女を立たせ、アレクシスは片膝をついた。
赤い砂塵の舞う訓練場、そのただ中で彼は静かに手を差し出す。
琥珀の瞳が灰青の瞳を真っ直ぐに捉え、わずかに柔らかく微笑んだ。
「もう、何も言葉が出てこない。貴女を愛している。俺の……妻になってください」
それ以上に飾る言葉はなかった。
観客のざわめきが遠のいたかのように、場内は一瞬の静寂に包まれる。
クラリッサは震える指でアレクシスの手を取り、「はい」と短く答える。
アレクシスは弾かれるように立ち上がり、そのままクラリッサを力強く抱き寄せた。
次の瞬間、強く抱きしめ合う二人に、割れんばかりの歓声が降り注いだ。
頭上から降りそそぐ歓声と拍手の奔流の中、彼らだけが互いの温もりを確かめ合っていた。
「もう、婚約解消なんて絶対言わないで」
「言わないわ」
「……嬉しい。嬉しい。本当に嬉しい!」
彼女の髪が揺れ、香りがアレクシスの胸に満ちる。
「……あれ? アレク、貴方、もうわたくしより背が高いのね」
「え?」
驚いて腕を緩めれば、確かにクラリッサの視線は自分よりも下にあった。
彼女は背伸びをし、アレクシスの唇にそっと口付ける。
顔を真っ赤にして固まるアレクシスを見上げ、クラリッサは灰青の瞳を細め、くすくすと笑っていた。




